前途多難な極彩色の軌跡 #04





『今日最下位は蟹座のあなた!
やることなすこと最低最悪な日になるでしょう!
知らない人に頼ってみると良い事があるかも?
ラッキーアイテムは水晶髑髏!』


「そんなもの、一般家庭にあるわけないのだよ!!」


テレビに向かって怒鳴りつけた少年…緑間真太郎は今日一日を思って嫌な予感を抱きながらも、登校するために鞄を肩にかけた。
その拍子に鞄の端が椅子にひっかかり激しい音を立てて転倒する。
慌ててそれを起こそうとするもテーブルの足に小指をぶつけ、大きな音に気付いてリビングに駆けつけた母親は足を抱えて蹲る息子の姿を見て全てを悟った。





***





ふぁ、と控えめに欠伸を溢しつつ文庫本片手に慣れた通学路を歩く黒子は、目前に目立つ背の高い少年を発見した。
緑の髪が若干乱れており、どこか足取りが悪い。
白が眩しい制服も、少し煤けている。
全身から『不機嫌です』オーラを放つ少年に、朝から何かあったのだろうかと首を傾げた。
しかし自分には関係のないことだと文庫本に視線を落とした…直後、ガシャン!と何かがひっくり返るような音が聞こえて再び顔を上げる。


「………」


視線の先に居る少年を見た黒子は、無言で文庫本を鞄に戻し、H.A.N.Tを開いてメールを送信した。


From:Shadow
件名:あ、ありのまま今起こった事を(ry
本文:「目の前を緑髪の長身中学生が歩いていると思ったら、
一瞬目を離した間に奴は頭に蕎麦をかぶっていた」
な…何を言っているのかわからねーと思うが俺も何が起こったのか分からな(ry


From:Falcon
件名:(´・ω・`)?
本文:ちょwwwwwww
ホントに何があったしwww


From:Shadow
件名:写メ添付
本文:つ【頭に蕎麦を乗っける少年の姿】


From:Falcon
件名:www
本文:漫画か!wwwww
嘘マジこんなの初めて見たwww



…虐めか?


From:Shadow
件名:Re;www
本文:事故乙wwwwww


From:Falcon
件名:Re;Re;www
本文:すげぇ確率じゃんwwwww
息子にも写メ送ったwwwwww
マジ爆笑wwwwwww


From:Shadow
件名:Re;Re;Re;www
本文:酷すぎるwwwwww
拡散してやるなしwwwwww


From:Falcon
件名:それをwww
本文:お前が言うなwwwww


どうやら丁度少年の立っていた場所が蕎麦屋の店先だったらしい。
慌てて飛び出してきた店員に平謝りされ、眉を顰めながらもゆで汁と蕎麦まみれになっている少年は渡されたタオルで水気を拭う。
憂鬱そうに蕎麦を叩き落す少年の姿を見て、飛んできたのがざる蕎麦で良かったですね、湯きりされる前だったみたいですけど、と様子をこっそり眺めている黒子には誰も気付かない。
先ほどから店内で怒鳴りあう声が聞こえると思っていたが、どうやら蕎麦屋夫婦が喧嘩しているらしい。
大きな声がして店員が焦って店内に戻って行った。…と思ったらまさかの頭からダイナミック☆いらっしゃいませー!である。一体店内で何があったし。


「…ッ!」


頭から吹っ飛んで出てきた店員が見事に少年の鳩尾に激突し、その勢いでガードレールに衝突。二人とも完全に両手両足を地面につけて呻いていた。リアルorz。大惨事である。
傍を通りかかる人々は彼らを視界に入れないように視線を逸らして足早に去っていく。
都会の人って冷たいと思う瞬間であった。そんな事を考えている黒子はただの野次馬であるのだから、人の事は言えないのだが。
よろよろと立ち上がった少年は、同じように起き上がって平謝りを続ける店員を片手で制して、「もういい」とだけ言い捨てて歩き出した。
運の悪い子だなぁと思いながら、その後を追うように黒子も足を動かし、視界の端をとある光景が掠めた直後、間を置かずに走りだした。
常人にはありえない速さで少年に駆け寄り、その腕を掴んで引き寄せる。
その横を、少年の鞄を掠めるようにして大型トラックが猛スピードで通り過ぎた。


「危ないですよ」
「ッ!?」


確実にスピード違反を犯しているだろう車を見送って、振り返る。
近くでみても、散々な格好だ。


「…まぁ、もう色々と遅いようですけど」
「……煩いのだよ」


気まずそうに眼鏡のブリッジを押し上げた少年は、そこで漸く状況を理解したのか、まっすぐに黒子を見下ろした。


「助かったのだよ。礼を言う」
「いえ、丁度進行方向に君がいて、たまたま危なそうなトラックが見えただけなので」
「それでも、あのままだと轢かれていた可能性が高いのは事実だ。…ありがとう」
「えっと、どういたしまして」


なんだろう。なぜかとてもレアな場面に遭遇しているような気がする。ただお礼を言われただけなのに。


「俺は緑間真太郎だ。お前は?」
「黒子テツヤです」


はて?と内心首を傾げつつ、黒子は緑間と名乗った少年と共に学校へ向かったのだった。
ちなみに学校までの道のりで、マンホールに嵌る緑間を写メったり落ちてきた植木鉢を蹴り砕いたり大量の猫に取り囲まれてカツアゲされたりしていたため、一時間目は遅刻だった事を明記しておく。





放課後、部活に行くべく廊下を歩いていると、反対側から物凄く不機嫌そうな顔をした緑間が歩いてきた。
なぜか服装はジャージである。
授業が終わったばかりのはずだが、6時間目が体育だったのだろうか?


「随分機嫌が悪そうですね、緑間くん」
「ッ…?!な、なんだ、黒子か…なんでもないのだよ」
「さっきの授業、体育だったんですか?」
「違うのだよ」
「…では制服は?」
「………聞くな」


すっと視線を逸らして俯く緑間に、詳細を聞くのは戸惑われた。朝の騒動を思い出せば予想は簡単に付けられたが。
そこで、だるそうに近くの教室から出てきた青峰が、初めに緑間を視界に入れ、次に近くに立つ黒子を見つけてパッと明るく表情を変えた。


「テツー、部活行こうぜ!…ってか緑間、お前もう着替えたの?」
「……青峰か。黒子と知り合いだったのか?」
「テツはバスケ部で俺の相棒だからな!」
「相棒になった覚えはありませんが」
「俺が決めた!」
「……ソウデスカー」


バスケ部だったのか…と驚く緑間となぜか自慢げな青峰は放置して、黒子は緑間に向かって飛んできた蜂を持っていた本で叩き落す。
殺さずに気絶させた蜂を窓からポイ捨てしていると、忌々しげな表情をした緑間が盛大に舌打ちした。


「なんというか、緑間くんは不運に狙い撃ちされてる感じですね」
「それもこれも、おは朝のラッキーアイテムが手に入らないからこんな目に合うのだよ…!」
「おは朝?」
「あー、いつも持ってる変なアイテムな。手に入んなかったのか?」


黒子を背後から抱きしめて頭に顎を乗せた青峰が言うのを聞いて、神妙な顔で緑間が頷いた。
よく分からないが、朝の占いコーナーの話らしい。
あまり占いは信じていない黒子だが、本当に当たる占いが実際に存在する事も知っているので馬鹿にするつもりはない。
何よりも本人にとっては重要な事なのだろうと判断した黒子は、小さく首を傾げて緑間を見上げた。


「ちなみに今日はなんだったんですか?」
「水晶髑髏なのだよ」
「なんだそれ」
「水晶で作られた人間の頭蓋骨模型だ」
「へー、趣味悪いな」
「水晶髑髏はオーパーツですもんねぇ…」


無茶振りしすぎだろ!と笑う青峰に、今日散々な目にあった緑間は肩を落として同意した。
どうやら相当な不幸体質のようだ。
そういえば…と黒子は自宅の在庫状況を思い浮かべる。


「…もしかしたらまだ一つくらい家にあるかもしれません」
「本当か!?」
「なんであるんだよ」
「以前、某皇太子からの依頼でゲフゲフ…と、とにかく!探してみましょうか?」
「よく分からないが、頼むのだよ!」


沈んでいた表情を一転して明るいものに変えた緑間が、黒子の腕を掴んで昇降口に向かって歩き出した。
それを青峰が慌てて静止する。


「っておい!部活はどうすんだよ!?」
「休みます。緑間くんの場合、命に関わりそうなので」
「俺も休むのだよ!ラッキーアイテムは少しでも早く手にしたいからな!」
「そうですね…道中が心配ですが、僕がいれば問題はないでしょう。ちゃんと守りますから、しっかり付いてきてくださいね」
「黒子…!」


べ、別にときめいてなどいないのだよ!とか訳の分からない事を呟きながら付いてくる緑間を連れて、自分も行くと言って譲らない青峰を偶然通りかかった桃色の髪の少女に任せて足早に自宅へと戻った。





「えーっと…確かこの辺りに入れてたような気が…」


家に着くなり、道中の出来事で汚れた緑間を風呂に押し込んだ黒子は、物置にしている一室で片っ端から箱の中身を確認していく。


「しかしまさかベランダでメントスコーラに挑戦する小学生がいるとは思いませんでしたね」
「…ピンポイントでコーラの雨を浴びたのだよ…」


背後から返ってきたうんざりしたような声に、苦笑を浮かべる。
顔だけで振り返って緑間の姿を視界に入れた黒子は、少し安堵したように目を細めた。


「サイズ間違えて注文したジャージなんですが、君にはぴったりでしたね」
「ああ、助かった」
「いえ。…あ、そこ触らない方がいいですよ。死にます」
「どういう事なのだよ!?」


棚に触れようとしていた手を勢いよく引いた緑間がツッコミを入れるが、黒子は涼しい顔でそれ以上は言わなかった。
部屋の中に所狭しと詰まれた荷物を見て、緑間が何か言いたそうに眉を顰める。
大方、考古学的価値のあるものばかりなのでどうしたのか問いたいのだろう。まぁ聞かれたところで素直に言う気はないが。


「とりあえずリビングで待っててください。ここはちょっと雑然としてますから」
「……わかったのだよ」
「飲み物は好きに飲んでくれて構いませんから」


そういって緑間を送り出したが、直後リビングから『ちょwww写メの少年じゃんwwwなんでここに居んのwww蕎麦はwwwもう蕎麦かぶってないのwww』という聞きなれた声が聞こえた。
なんで居るのはこっちのセリフだと思っていると、『いきなり何なのだよ!!誰なのだよお前は!!』という緑間のツッコミにかぶせて『なwwwのwwwだwwwよwww』というイラッとする爆笑が聞こえてきた。
が、黒子は特に問題無しと判断してラッキーアイテム探しを続行したのだった。





***





後日。
朝、登校しようと準備している黒子の部屋のインターホンが親の敵かというくらいに連打された。
それを聞いてまたかと溜息をついて玄関に向かう。
扉を開けると、そこには予想したとおり、若干ぐったりした様子の緑間が居た。


「黒子ッ!今日のラッキーアイテムは黄金ジェットなのだよ!持って無いか!?」
「おは朝マジおにちく!はいよ、一丁!」
「日本語が迷子なのだよ!!」


変な日本語を覚えだしている黒子に律儀にもツッコミは忘れない緑間だった。





From:Falcon
件名:そういやwww
本文:こないだのなのだよ少年と友達になったwww
一方的にだけど(*ノ▽ノ)キャッ


From:Shadow
件名:それはwww
本文:友達じゃねぇだろwww
緑間くんカワイソスwwww


From:Falcon
件名:えーwww
本文:今度家に招待してやろwww
息子紹介するwwwwww


From:Shadow
件名:なるほど理解
本文:イイトオモウヨ(・∀・)!





***
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でも息子さんと会うのは当分先カナー?

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