前途多難な極彩色の軌跡 #03 黒子テツヤ、外見年齢12歳。想定外に懐かれました。 「テツ!飯食いにいこーぜ!」 昼休みのチャイムが鳴るなり勢いよく開かれた教室の扉に、一同は声高らかに乱入してきた青峰を見た。 けれども本人はそんな視線を物ともせず、教室内で存在すら認識されているか危うい黒子の元へと真っ直ぐに向かってくる。 「青峰くん…もう少し静かに入ってきてください。他の方の迷惑になります」 「おう!」 無垢な少年のように眩しいほどに笑って良い返事をする青峰は、多分分かってない。 思わず目を据わらせて青峰を見たが、やはり黒子の心中など察する様子もなく勝手に人の荷物から弁当を取り出して、もう片手で黒子の手を掴んだ。 「今日天気いいし、屋上行こうぜ!」 「…もう好きにしてください」 肩を竦めて見せた黒子に、青峰は楽しげな笑みを浮かべたまま歩き出した。 強豪バスケ部で一年なのにレギュラーを獲得しただけあって構内でも有名な青峰に手を引かれていく黒子を見送った生徒たちは、一様にあんな儚げな少年このクラスにいたかなぁと首を傾げたのだった。 「それ、テツが作ってんの?」 広げたお弁当を見下ろして、青峰が瞠目して指さす。 色とりどりのおかずが詰め込まれたそれは、黒子が最近はまっている趣味の一つだった。 「そうですよ。調合は得意なんです」 「料理じゃなくて?」 「調合です」 「…調理?」 「調合」 そこは頑として譲らない黒子に、まぁいいかとその話題を終わらせた青峰は、許可を得て一つおかずを分けてもらった。 しっかり下味をつけているのだろう、柔らかな鶏の唐揚げはとてもおいしい。 ついもう一つに手を伸ばして口に放り込むと、黒子は呆れたような表情を浮かべたものの、特に文句は無かった。 育ち盛りですね、というどこか年寄りくさい独り言は呟いていたが。 「でもこんだけ作るとなると時間掛かるんじゃねーの?」 「そうでもないですよ」 「そうなのか?大体どんくらい?」 「そうですねぇ…所要時間2分って所ですかね」 「2分!?どうやって!?」 どういうことなの…と言わんばかりの表情で弁当と黒子を見比べる青峰に、黒子は「んー」と考えるように視線を宙に投げる。 「どうやってって…別に普通ですよ?必要分の材料と、お弁当箱を用意しますよね?」 「ああ」 「はい、完成です!」 「過程は!?」 「あ、過程なんて言葉知ってたんですね」 偉いですねぇと頭を撫でてやると、青峰は口篭った様に言葉を濁して黒子から視線を逸らした。 その頬はどこか赤く染まって…いる気がしたが肌の色が濃いから分かんねぇ!と黒子はスルーして食事を再開した。 実際、<<宝探し屋>>の調合技術を用いれば料理だろうが用具だろうが、タイムロス無しに作る事が出来るのだ。 それを素人に言葉で説明するのはとても難しい。 という事で黒子は早々に説明するという選択肢を放り投げたのだった。 「ん?」 購買で買ったパンを口に運ぶ青峰は、何かがぶつかったような音に気付いて顔を上げた。 視線の先を追うように黒子もそちらに目を向けると、屋上の扉のところにしゃがみこんで額を押さえている男子生徒が居た。 どこかに額をぶつけたのだろう、「いたーい」と間延びした呑気な声が続く。 「紫原じゃん。なにしてんだよ」 「峰ちんこそー」 どうやら青峰の知り合いらしい。 ゆっくりとした動作で立ち上がって顔を上げたところで、黒子もその人物に思い至って「あ」と小さく声を上げた。 バスケ部で青峰と同じく一年でレギュラーを獲得した…紫原敦だ。 近くで見たことはなかったが、こうして見てみると随分と大きい。 青峰も中学生にしては頭一つ飛びぬけていたが、紫原はそれ以上だった。 『ホントどうなってんだ、最近の中学生は…』 「あ?テツ、なんか言ったか?」 「いえ、何でもありませんよ。それよりも、おでこ大丈夫ですか?」 大きいと大変ですね、とぶつけて少し赤くなっている額にそっと触れて撫でてやると「大丈夫だよー」とやはりのんびりした返答があった。 どうやらゆったりした性格のようだ。 「ドアもっと大きく作るべきだしー」 「だよなー。俺も来年くらいにはぶつけそうだし」 この子たち本当に日本人なのかと疑問に思いつつも、言っても仕方がないだろうと流した黒子は、足元に散らばったお菓子を拾い上げて溜息をついた。 袋詰めされていないむき出しのマフィンやクッキーが無残にも地面に着地してしまっている。 どうやら4時間目が調理実習だったようで、大量に作ったものを貰ってきたらしい。 「これはダメですね」 「えー…俺のお菓子…」 「落としたもん食うなよ」 青峰からも注意され、露骨に肩を落としてしょんぼりする紫原。 それを見て可哀想になった黒子は、何かないかなと制服の下に着込んだベストのポケットを漁る。 ちなみにこのベストは黒子のためにとロゼッタ協会屈指の開発部員たちによって作り上げられた、この世でたった一つしかない特注品である。 防弾は当然ながら、耐熱・耐火に優れ、さらに防水。 そしてこれが一番の目玉で、ある一定数までは質量・重量を気にせずどんなものでも持ち歩けるという、超古代文明の技術がふんだんに使用されている超機能ベストなのだ。 通常<<宝探し屋>>に支給されるのはそれほど防弾性に優れているわけでもないアサルトベスト(それでもかなりの物は入るが)なので、黒子がどれだけ彼らから目を掛けられているかがよく分かるだろう。ちなみに黒子の日本行きに号泣して反対し、上司に直訴した連中だ。 「ゼラチンとヨード卵とオレンジがありますね」 「?」 「テツ?」 「紫原君。プリンとゼリーはお好きですか?」 「うん、好き!」 「じゃあちょっと待ってくださいね。すぐ作りますから」 そういった黒子に目を輝かせたのが紫原で、はぁ?!と驚きの声を上げたのは青峰だった。まぁ当然だろう。 「ロゼッタの技術を甘く見ないでください」 「ロゼッタ?」 「あ、いや、なんでもないです。とにかく」 視線誘導で一瞬材料から目を離させた隙に調合する。 調合完了を知らせるH.A.N.Tからのアナウンスに気付いた二人が此方に視線を戻した時にはすでに完成品が出来上がっていた。 二人分の大きいサイズの王様プリンとオレンジゼリーである。 「……なにがあった」 「調合しました」 「どういうことだ?」 「そういうことです」 ぽかんと間抜け面を晒す青峰の口にスプーンで掬ったプリンを突っ込んでやると、納得いかなそうな顔をしつつもどこか嬉しそうに咀嚼していた。 その横で同じように唖然としていた紫原に出来たてのプリンとゼリーを手渡す。 「いいの?」 「どうぞ。クッキーやマフィンほどお腹にはたまらないでしょうけど、少しは足しになると思いますよ」 ぷるんとしたプリンに絡まるカラメルソースを凝視していた紫原は、黒子に進められるまま一口食べてみる。 途端に、目がきらっきら輝きだした。 あれ、君さっきまで常時眠そうじゃありませんでしたっけ。こんな顔できたんですね。っていうかなにこれデジャブ。 「アンタ、名前は?」 「あ、名乗ってませんでしたね。黒子テツヤです」 「黒ちんね!黒ちんって魔法使いだったの!?」 「黒ちん…?いえ、魔法使いじゃないです。ただのトレ…一般人です」 「トレ?」 「一般人です」 やっぺ、トレハンって言いかけたわ!と内心英語で焦っていたのだが表情には一切出さず、純粋な目で見下ろしてくる紫原を見上げる。 おいしい!と嬉しそうに食べるので、なんだかほんわかとした気持ちになった。 孫が出来たらこんな感じでしょうかね、と思う黒子はまだ結婚すらしていないわけだが。 「黒ちんスゲー!」 「当たり前だろ。テツはマジスゲーから!」 「止めてください。僕は普通です」 やけに凄い凄いとはしゃぐ二人に、黒子は苦笑を浮かべて残りの弁当を片付け始めた。 そこでふと思い立ってH.A.N.Tを起動する。 プリンを食べている二人が写る様に写真を撮ってメールに添付した。 From:Shadow 件名:ところで 本文:中一にして180越えの彼らを見てくれ…こいつをどう思う? From:Falcon 件名:Re;ところで 本文:すごく…大きいです…(*ノ∀ノ)キャッ From:Shadow 件名:( ゚д゚)、ペッ 本文:テンプレ乙 From:Falcon 件名:orz 本文:(´;ω;`)ブワッ 食べ終わった弁当箱を片付けて、プリンを完食してゼリーに取り掛かる彼らを眺める。 今まで知り合った人間には居なかったタイプなので、見ている分には飽きない。 ただ騒ぎに巻き込まれるのはいただけないなと思いつつ、「他には何が作れるのか」と聞いてくる彼らに「材料さえあれば割と何でも」と返したのだった。 一週間後。 放課後の自主練参加者が一人増えました。 「黒ちーん。これ持ってきたからお菓子作ってー」 「何ですか?…ああ、これならチョコスコーンが出来ますね」 「テツー!これで夜食頼むわ!」 「君たちは…まったく。僕は便利屋じゃありませんよ」 compound!とH.A.N.Tがわざわざアナウンスするのを聞きながら、純粋に目を輝かせる彼らの要望通りに調合してみせる実は面倒見の良い黒子だった。 From:Shadow 件名:増えた! 本文:紫の巨神兵が仲間になった! From:Falcon 件名:Re;増えた! 本文:えっ! 火の七日間が始まるの!? From:Shadow 件名:Re;Re;増えた! 本文:そっちじゃねーよ! このジブリ厨が!(ノ`Д´)ノ彡┻━┻ From:Falcon 件名:Re;Re;Re;増えた! 本文:巨神兵って話振ったのお前じゃん! 解せぬ(´・ω・`) From:Shadow 件名:話変わるけど最近 本文:クラスの女子の目が怖い 特に青峰くんと居るときとか <●><●>カッ って瞳孔開くんだけど From:Falcon 件名:ああ…それは 本文:脳の一部が腐ってるからさ From:Shadow 件名:Re;ああ…それは 本文: なにそれこわい((((( ;゚Д゚))))ガクブル *** 一応、トレハンの調合技術はオーパーツを用いた超古代文明の力って設定です。 元ネタの方は知らない!そういうシステムとか言っちゃうと元も子もないですしね! 重量や質量がオーバーしてる物を持ち歩いててもトレハンなので普通です! 懐から出来立てあつあつカレー定食を取り出そうがトレハンなので普通です! |