前途多難な極彩色の軌跡 #02 若返りだなんて非科学的な状況に陥ったせいで、感覚の違いから以前と同じようには体を動かせなくなっていた。 体重から筋肉量、手足の長さや身長が違うのだから当然だろうが。 なのでリハビリを兼ねて何かしらの運動部に入部しようと、掲示板に張ってある部活募集のチラシに目を通す。 「サッカー部、野球部、バレー部、バスケ部辺りが無難でしょうか…」 バスケくらいしかやった事ないですけど、と募集文句を読みながら考える。 …やっぱり屋外はやめておきましょう。 夏とか日差しが地獄だし。日本は湿気が多く、よく猛暑になると聞く。 となると室内のバレー部とバスケ部か。どっちも身長が要りそうであるが、それならバスケ部の方がマシだろうか。 「よし、バスケ部にしましょう」 そんな安易な考えで入部を決めた黒子は、帝光中学がバスケで強豪と言われており、半端な練習量ではないのだという事を知らなかった。 『ちくしょう…騙された』 バスケ部への入部を果たして、早一週間。 想像よりはるかに厳しい練習に、すでに黒子は疲れきっていた。思わず昼の教室で、英語で悪態付くくらいには。 誰にも聞かれていなかったのは幸いだろう。 いや、聞こえたところでネイティブすぎて聞き取れなかったかもしれないが。 そもそもこの体になってから色々とセーブする事が多いため、その分精神が削られている気がする。いや、実際削られている。 いくら黒子が今の幼い体に慣れていないからといって、何も出来ないわけではない。 正直なところ、本気出したらダンク出来るくらいに跳躍するのなんて容易いのだ。 だがそれが一般人の身体能力から見て異常である事は、黒子よりも前に入部テストを受けた子供の平均値を計算したから分かっていた。 ちなみに普通は計算しなくてもお前が異常なのは分かるからwwwとは後に黒子の愚痴を聞いたファルコンの言い分である。 『仕事したい…遺跡潜りたい…銃ぶっ放したい…』 べったりと机に懐いてボソボソ呟いているが、最後の言葉が物騒だ。 内ポケットからH.A.N.Tを取り出して起動する。 From:Shadow 件名:帰りたい 本文:中学生だるい 部活しんどい From:Falcon 件名:Re;帰りたい 本文:俺の息子は部活頑張ってるぜー! お前と同じバスケ部! 目が良いからPGだってさ! 流石俺の息子!(*´σー`)フフ From:Shadow 件名:Re;Re;帰りたい 本文:へーq(゚д゚ ) From:Falcon 件名:Re;Re;Re;帰りたい 本文:冷たい!Σ(´∀`;) つーか一回会いに来てやれよ! んで、また昔みたいにだっこしてやってwww From:Shadow 件名:そういや 本文:何年も会ってないな つーかお前の息子って中一だろうが! それと抱きあうとか怖ぇ絵面にしかならねぇよ! From:Falcon 件名:Re;そういや 本文:大丈夫だ! お前と俺の息子なら天使だから! 一眼レフ準備して全裸待機余裕ですしおすし パシャ!Σ[ ◎ ]}ー´) From:Shadow 件名:Re;Re;そういや 本文:撮るな親バカ!ヽ(`Д´#)ノ From:Falcon 件名:Re;Re;Re;そういや 本文:(*ノ∀ノ)テヘッ 『ダメだコイツ…早く何とかしないと…』 H.A.N.Tの画面を睨むように見つめて、疲れたようにそう吐き捨てた黒子だった。 図らずともソレは新世界の神の台詞であったが、元ネタを知らない黒子にはどうでもいい事である。 目立つのは得策ではないと三軍に入ったが、正直もう辞めたい。 バスケ自体は面白いし、好きだ。 以前から仲間内でも暇があれば色々賭けて勝負していたし、ゲームに参加するのはいい。 だが基礎練から始まるロードワークがきつい。きつすぎる。 さすが強豪校!知らなかったけども! もう大体の感覚は掴んだし、正直部活に入るほどでもなかったかもしれないと黒子は本日何度目になるか分からない溜息を吐いて、再び腕を枕に机に突っ伏した。 今日も今日とて厳しい練習を終えて、自主練に残る人たちに混じって黒子も体育館の端の方でボールを操る。 手首のスナップを利かせて右手で上空にタップ・パス。落下してきたボールを左手で受け、背中で流すように腕を走らせ、右手に移動させる。そこから初めに戻って上空へ。 バスケットボールを使ったジャグリングのような動きに、けれども周囲の人間は気付かずに自主練を続けている。 極限まで影を薄めて気配を消して、目立たないように。 影が薄いというのは、掃き溜めのような場所で生まれ育って、ただただ自分の存在を他者に気付かれないようにと息を殺して生きてきた為に身に付いた、防衛本能だ。そこに意識して気配を消すという技術を上乗せする事で、他者は完全に此方の存在に気付かない。気付けない。 同じ動きを何度か繰り返した後は、今度は逆の手から同じ事を繰り返す。 慣れない体の、指の先まで感覚を覚えるように、目を閉じて静かにボールを操る。 「…こんなものですかね」 ひたすらにその動作を繰り返して、満足の行く感覚を得たところで目を開いたら、いつのまにか体育館に人影はなくなっていた。 どうやら思っていた以上に集中していたらしい。 他の人たちは皆、すでに切り上げて帰ったようだ。 すっかり暗くなった外を眺めて体を伸ばした黒子は、手に持っていたボールを思い切りぶん投げるようにゴールへと放った。 が、見事にリングに当たって跳ね返ったボールに、眉を顰める。 「この体も、まだまだですね」 今度はシュート練習にしましょう、とあらぬ方向に飛んでいったボールを回収して、黒子は以前の感覚より高い位置にあるリングに向き合った。 そして入部から一ヶ月経過したその日、黒子は後日色んな意味で頭を抱える事になる人物と遭遇したのだった。 「……ッすっげー!」 「あ」 一人耐久寝たまま3Pシュートとかやって遊んでたらガングロに見られました。 彼はたしか、同じ一年にも関わらず最速で一軍入りを果たした…青峰大輝くんでしたっけ。 入部テストで見たきりだったけれど、並外れたバスケセンスを持っているようだった。 普通のシュートは早い段階で入るようになったので、ちょっと嗜好を凝らしたのがいけなかった。 休みの日のオッサンが床に寝ころがって片腕を立てて枕にして新聞読んでるような大勢でポイポイ簡単にシュート決めてる所を見られた僕はというと、何事もなかったかのような顔をしてキラッキラした目で見つめてくる青峰君を極力見ないように片づけを済ませて帰ろうと―――しましたが、まぁ無理でした。ソウデショウネ。 がっしりと腕を掴まれた黒子は、中学生でこの身長とか詐欺だと思いながら青峰を見上げた。 「つーか、なんで寝たままシュート?」 「毎回同じ体制でシュートするのも飽きたので…実にすみません」 「いや、別にいいけど」 変な奴だなーと楽しそうに笑う青峰に、「まったくもってその通りです」と言い返す言葉も無い黒子だった。 お互い座り込んで自己紹介をして、雑談に花を咲かせる。 どうやら青峰は根っからのバスケ少年らしかった。 テツ、と許可した覚えの無いあだ名で呼ばれる。 偽名なのでどう呼ばれようが別に構わないけれど、人懐こい性格なのだろうか。 楽しそうにバスケの話をする青峰に、黒子は目を細めて若いなぁと思う。 「つーか、テツの事、一軍で見た事ない気がすんだけど」 「でしょうね。僕、三軍なんで」 「はぁ!?なんで!」 「なんでって…目立ちたくないので」 「勿体ねぇな…そんだけ出来りゃ一軍にだって来れんだろ。そうだ、赤司に、」 「目 立 ち た く な い の で」 言い聞かせるように殊更ゆっくりと、黒子にしては珍しく満面の笑みを浮かべて「Get it?」と確認すれば、青峰は何故か引き攣ったような表情でコクコクと頭を上下に振った。 ちなみに青峰に英語の意味は理解できていないが、本能で頷いたほうがいいと思ったらしい。 「まぁいいや!そんな事より1on1しようぜテツ!」 話題を変えるようにわざとらしく立ち上がった青峰に一度視線をやり、仕方なさげに黒子も立ち上がる。 「…いいですよ。ただし僕が勝ったらバニラシェイク奢ってください」 「じゃ、俺が勝ったらテリヤキバーガー奢れよ!」 「分かりました」 そうして始めた1on1で、青峰は黒子が想定した以上に強かった。 が、黒子はそれ以上に大人気なかった。 「くっそ!マジかよテツ…!」 「ふふふ…バニラシェイク12杯目getです!ほらほら、13杯目も取っちゃいますよー」 「おまっ!小遣い根こそぎ持ってく気かよ!?ちくしょう!ぜってーテリヤキバーガー奢らせてやる!」 「できるものなら。自慢じゃないですが、僕は賭け事では幼児にさえ手加減しない男ですよ!」 「ホントに自慢じゃねぇ!!」 「うるさい!知ったことかそんなもの!僕は生きなきゃいけないんだ!」 「どっかで聞いたことある台詞だな、おい!」 「はい、13杯目get!」 「あああああああ!!」 調子に乗って本気を出してボロクソに負かしてしまったせいで、翌日から無駄に纏わり付かれる事になるとは、この時の黒子は知る由もなかった。 後日。 From:Shadow 件名:oh(;゚д゚) 本文:青いガングロに懐かれた 正直自分でもどうかと思う負かし方したのに! 意味不すぎて怖い 中学生怖い\(^o^)/ From:Falcon 件名:Re;oh(;゚д゚) 本文:青いガングロって何www てかお前、昔から年下にめっちゃ好かれてたじゃんwww つまりそういう事だろwww てかテロリストと銃撃戦繰り広げた男がただの中学生を怖がるとかwww プギャ━━≡≡⊂`⌒m9^Д^)⊃━━!! From:Shadow 件名:(#´∀`) 本文:夜道には気をつけろ From:Falcon 件名:Re;(#´∀`) 本文: 正 直 / ̄ ̄ヽ ̄ ̄\ ∠ レ | ⌒ヽ \__ノ丶 )| (_と__ノ⊂ニノ す ま ん か っ た From:Shadow 件名:(/ω・\)チラッ 本文: 可愛いから許す *** この青峰くんはグレそうにないですね! →あとがきを含めたオマケ |