漆黒のアタラクシア #09





苦戦するかと思われたセネガル人留学生が居るという新協学園を67-79で下し、誠凛はIH都予選初戦を突破した。
やはり黄瀬との戦いが良い経験になったようだと、楽しそうにダンクを決める火神を見て黒子は笑みを浮かべる。
その後も調子よく勝ち進め、気付けば4回戦まで来ていた。


「広ぇ〜…」
「ここ本当に学校の体育館スか?」
「都内有数のマンモス校だからね。お陰で今日は凄いものが見れるわよ!」
「へ?」


どこか表情の硬い先輩達を見て、一年一同が首を傾げる。
トーナメント表に目を通していた黒子は今日何があるかを事前に知っていたので、面倒にならなければいいなと内心で溜息をついた。


「決勝リーグを経て選ばれる東京都の代表三校は、ここ10年ずっと同じ三校しかない。東の王者『秀徳』、西の王者『泉真館』、北の王者『正邦』だ。一位は毎年変わるが力が拮抗してるから四位以下は寄せ付けない。東京都不動の三大王者だ」
「今日ここは2会場分試合をやるから、隣のコートに普通は他会場でやるシード校が来る。…つまり『キセキの世代』緑間真太郎が加入した秀徳高校が出てくるって事だ」


緑間くんの3Pシュートは厄介ですね…と黒子は秀徳との対戦を脳内でシュミレートしてみる。
…うん、もうちょっと火神の基礎能力を鍛えた方がよさそうだ。
少なくとも誠凛に緑間を止められるだけの実力があるものは居ない。
可能性があるのは火神くらいだろう。
しかし安易に長距離シュートに翻弄されている火神が想像出来てしまい、黒子は今後のメニューを今日中にリコと話し合おうと心に決めた。


「先輩たちも去年決勝リーグまで行ったんですよね?」
「まぁ…手も足も出なかったけどな」
「……?」


暗い表情で視線を落とす先輩達に、なんとなく事情を察して一年組は口を噤んだ。
そんな中、どちらにしても結局のところ『キセキの世代』を獲得した学校しか残らないのだろうなと黒子が考えていると、それに気付いたのか、火神が勝気に笑ってその髪を優しく梳いた。


「ま、誰が来ようと相手にとって不足無しだ!片っ端からぶっ倒してやるよ!」
「そうですね。信じてますよ、火神くん。もちろん先輩方も」
「ああ!…ったく、先に言われちまったな」
「ホントだよー!」
「……(頷く)」
「俺たちは去年の雪辱を晴らすために一年間練習してきたんだ。今年は必ず倒す!」
「そうだな!……ハッ!雪辱を切除する!キタコレ!」
「きてねーよ!!」


そうこうしている間に、本日の対戦校の選手が到着したようだった。
去年の誠凛の成績をネタにバカにした会話をしているのを聞いて、こちらの表情が曇る。
というか苛々した表情に変わった。
暴力沙汰は駄目ですよ、と今にも怒鳴りつけに行きそうな火神の腕を掴むと、ムッとした表情をしているものの大人しくなる。
火神は黒子に任せておけば大概は大丈夫、とは誠凛バスケ部の共通認識になっていたので、特に誰もツッコミは入れなかった。
自然な仕草で黒子を抱き寄せて、その頭に顎を乗せて「アイツ等むかつく…」と呟く火神に苦笑を返す。
同意するように頷く降旗たちに、黒子も「そうですね」とはっきりした同意を返した。


「僕は共にコートに立てませんが、精一杯応援します。先輩たちは強いです。全力で、叩き潰しましょう」
「そうだよな!俺らすっげー尊敬してるんだし!あんな風に言われるとかマジありえない!」
「先輩達の事何にも知らないくせにな!べンチだけど俺も応援頑張るぜ!」
「火神も頑張れよ!サポートは任せろ!」
「おう!先輩たちは強いんだってとこ見せ付けてやるぜ!」


意気揚々と拳を握り締めて対戦校の選手を睨みつける一年陣に、それを聞いていた先輩たちは口元を手で覆って彼らから視線を逸らした。


(ちょ、俺らの後輩良い子過ぎねぇ!?)
(もう天使にしか見えないよ!!)
(……ッ!!)←何度も頷く
(ってか天使じゃね?!)
(ああ、天使だわ!!)

((((俺らの後輩マジ天使!!))))


言葉無しに会話するのは流石というべきか。
視線だけ合わせてブルブル震えている男たちの様子は非常に不気味だったが、それにつっこめる猛者は居ないようだった。

その後、上記の理由で殺気立った火神と、にやけるのを必死で抑えるあまりに同じく殺気立った先輩達によって、その対戦相手は瞬殺されるというある意味トラウマ残したんじゃないだろうかと思うくらいの結果に終わった。
後半完全に腰が引けて涙目だった事は相手の名誉に掛けて部内の笑い話までで抑えておくつもりである。
すでにその意味がないとかは言わない。


「っし!」
「お疲れ様です、火神くん。先輩達も、かっこよかったですよ」
「ありがとー!みんなの応援があったからだよ!」
「…!」
「水戸部もそうだって!」
「んな事ないっスよ!先輩たちの実力っス!」
「そうですよ!あ、タオル使ってください!」
「おう、助かるわ」
「ドリンクもどうぞ!」
「ありがとなー」
「みんな、よくやったわね!お疲れさま!」


和気藹々と先ほどの試合について話し合っていると、周囲がざわめいた。
何かあったのだろうかとそちらを見ると、秀徳高校の生徒が視界に入ってきた。
なるほど、王者の登場に浮き足立ったわけかと日向たちは納得する。
不撓不屈という横断幕を掲げ、応援団の数もかなり多い。
さすがに貫禄があるなと感心している面々の方へ、秀徳バスケ部の先輩達と並んで歩いていた緑間が視線を流した。
わずかに泳いだその瞳が痛々しいギブスをした黒子を捉える。
お互いに逸らされることの無い視線は静かに交差した。





***
パン回はカットしました。黒子が活躍出来ないのでぶっ飛ばされて終わったかと^^;
先輩回になりました!これ以降、
一年→俺らの先輩すげぇ!尊敬!(ノ*´∀`*)ノ+'.*
二年→俺らの後輩マジ天使すぎていきつら*:.。.:*( *´ω`*)*:.。.:*:
な意識が着々と定着していくという…(笑)

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