漆黒のアタラクシア #05 黒子を呼ぶその声は、どこか震えている。 振り返った火神達の目に、迷子の子供のような顔をした黄瀬の姿が映った。 黄瀬はまるで幽霊でも見たみたいに黒子を見つめて、息を呑む。 「…お久しぶりですね、黄瀬くん」 「黒子っち…ホントに、黒子っちなんスか…」 「他の誰に見えるんですか?おかしな事を言いますね」 「なんで、ここに…それにその腕…」 「僕は誠凛に入学しましたので。それに、この腕については君も知ってると思いますけど」 「っ!黒子っち、俺は!」 黒子に駆け寄ろうとした黄瀬を遮って道を塞ぐ。 突然の障害物の出現に、黄瀬は黒子に向けていた視線を不愉快そうなものに変えて障害物…火神を睨み付けた。 「なんすか、アンタ。俺は黒子っちと話してるんすけど」 「んな獲って喰いそうな目ぇして何言ってやがる。大体、今更黒子に何の用があんだよ」 「今更って…それこそアンタには関係ないっスよね」 「関係ならあるぜ。こいつは俺の影だからな」 「……はぁ?」 影、という言葉に一瞬にして殺気だった黄瀬が火神を射殺しそうな目で睨みつける。 黒子から否定の言葉はない。 当たり前だ。本人が望んで了承した、正真正銘、火神の影なのだから。 静かに微笑みを浮かべる黒子の顔を見て、絶望したように顔を青くした黄瀬が俯く。 「………ない…」 握り締めた拳が震える。小さく吐き出された声は聞こえなかった。 「あ?」 「黄瀬くん?」 「ふざけんな…じゃあアンタが黒子っちの光…?アンタみたいなやつが…?んなの…誰が認めるかよ!」 常に無い黄瀬の激昂に、海常の生徒たちは動きを止めて注視している。 誠凛側の先輩達も、はらはらと火神たちの様子を伺っていた。 何も言わない黒子に、黄瀬が髪を振り乱して何故だと問う。 「なんでっスか?!なんで…っ!!こんなやつが青峰っちに勝てるわけない!!」 「青峰くんに勝てるかどうかで選んだわけではありませんよ」 「じゃあ何で…!!コイツに黒子っちが生かせるんすか!?」 「今後に期待って所ですね」 くすりと笑って火神を仰ぎ見る黒子は楽しそうに目を細めた。 火神は怪我に障らないようにその肩を引き寄せて、ことさらゆっくりと笑う。 性質の悪い顔してますよ、と小声で注意してくる黒子も十分に性質が悪い顔をしていると思う。嫌いではないが。 「さっさと試合したいし、着替えに行ってもいいか?」 「…ッ!」 「先輩達も待たしてっし、そっちだってあんま時間取りたくねーんだろ?それに…文句は俺達に勝ってから言えよ」 「……絶対に、黒子っちは返してもらうっスから」 「ハッ!こいつを物扱いするような連中に渡すわけねーだろ」 黒子から大体の話は聞いてる。 例え黒子の主観からの見解だろうが、それならそれで、黒子自身がそう感じたという事が重要なのだ。 「お前らなんかに渡さねぇ。こいつは俺のだ」 「―――上等っスよ」 お世辞にもモデルがしていい表情ではない顔をした黄瀬は、凶暴さを隠しもしない瞳を火神に向ける。きっと火神が黒子を抱き寄せていなければ、そのきつく握りこんだ拳を向けていただろう殺気と共に。 そんな視線を受けても火神は揺るがずに余裕のある表情を崩さない。 それが余計に黄瀬の怒りを煽っていると知っているからこそ、黒子を離さずに哂う。 「そこまで言うんですから、無様な試合は許しませんよ?」 「当たり前だ。お前はしっかり俺を見てろよ」 「当然です」 勿論、下手をしたら指摘しますのでそのつもりで。 そう言って笑う黒子に、火神は「うっ」と唸って少し体を引いた。 その隙にするりと火神の腕から抜け出した黒子が、今だ固まっている先輩達を見て頷く。 それに我に返ったのか、リコが一つ瞬いて「さっさと移動するわよ!」と声を上げた。 同じように瞬きをした先輩達も、複雑そうな顔をしつつもぞろぞろと移動を開始する。 「黒子っち…」 「では、また後で」 無意識にだろう、引きとめようと名を呼んだ黄瀬に黒子は有無を言わせぬ笑顔を向ける。 そして一度ぺこりと軽くお辞儀をして、笑ってその白い手を引く火神と共に体育館を後にした。 *** 付き合ってないです、この火黒。黄→黒は基本ですよね! 火神→黒子は俺の影→つまり俺のだよな!無自覚独占欲( ゚д゚)ウマー 黒子→面白そうだし放置中(・∀・)ニヤニヤ |