漆黒のアタラクシア #04





黒子っちからの電話に出られなかった。
着信履歴が告げていた時刻は21:31。
それが彼が事故にあった直後だと分かったのは、次の日の朝、呼び出したレギュラー陣を前に静かに目を伏せる赤司の言葉からだった。


「黒子から電話を受けた奴は居るか」


その場に居た中の俺を含めた4人が静かに応と答えた。
キセキの世代と呼ばれた俺達の携帯に、数秒の間隔をあけて一回ずつ。
履歴に残る着信の事実が、誰一人それに応えなかったという現実が、俺の胸にひやりとした何かを突き刺した。


「左腕を切断するほどの事故だったそうだ。詳しくは知らないが…退部届けが今朝、親御さんから届いた」
「え」
「…っ!」
「嘘…だろ…」
「……ふぅん」


その意味を理解して、青峰が息を呑む。
緑間が眉を潜めて眼鏡をブリッジに手を掛け、紫原が気まずそうに部室の端に視線を流した。
赤司は初めから変わらず視線を伏せたまま。
桃井はずっと泣いていた。
俺も…泣いた。

誰一人何も話そうとせず、ただただ時計の秒針の音だけが部室に響いていた、あの日。


―――俺達は影を失ったことを知った。





***





『キセキの世代』である黄瀬涼太が通う海常高校と練習試合を組んだと、リコがスキップしながら楽しげに告げてきたのは記憶に新しい。
火神は寝不足のせいで充血した目を開けて、隣を歩く黒子を見下ろした。
その視線に気付いたのか、前を向いていた視線がこちらを見上げる。


「大丈夫ですか?寝不足で実力出せなかったなんて言い訳は聞きませんよ」
「分かってるっての!誰がンな事言うか!!」
「それはよかったです。…でも君は圧倒的に自分より強い選手との対戦経験が足りないですし、それで言えば、彼とぶつかって一度くらいボコボコにやられるのも良いかと思いますよ」
「ぜってー嫌だ」


やるからには勝つ!と意気込むと、黒子は満足そうに目を細めた。
負けてもいいと言いながらも、やはり本心は勝ちたいのだろう。
体育館へ案内する海常生の後をついて歩きながら、ふわりと流れる水色の髪を一房摘む。
軽くひっぱると、眼下にある小さな頭がゆるりと揺れた。
むぅっと軽く眉を顰めた黒子に、おかしくなって小さく喉の奥で笑う。


「んで?その黄瀬って奴と仲良かったのか?」
「別に普通でしたよ」
「ふーん?」


淡々としているが、その瞳はどこか空虚だ。
そういう目をしていると本当にガラス玉が嵌ってるみたいだなと観察していると、ようやく体育館についたようで案内の海常生が「監督を呼んできます」と言って中に入っていった。火神達もその後を追いながら体育館に足を踏み入れる。


「…え?」
「片面で…やるの?」


体育館の真ん中で張られたネットに、年季の入ったゴールを見たリコたちが唖然と呟く。重い足取りでやってきた男が監督らしい。
こいつがまた腹の立つ奴だった。
今回の練習試合は調整だの、トリプルスコアにならないようにだの、完全に此方をナメて掛かっている。
しかもこの試合に黄瀬は出さないとまで言い放った事に、苛ついた火神は抗議しようと一歩踏み出した。
しかしそれを黒子が腕を引く事で制する。


「ダメですよ、火神くん」
「だからって!」
「ああいう輩には行動あるのみ。僕達のバスケを見せ付けてやればいいんですよ。こちらを格下に見ていた事を恥じるほどにね。ついでに黄瀬くんが出ない分、点取りまくってやりましょう」
「…なるほどな。そりゃいい案だ」


悪魔も素足で逃げ出すほどのオーラを浮かべて哂う黒子に、頷いたリコも似たような笑みを浮かべて部員達を見た。
それに頷き返したのは先輩達だけで、新しく入った一年の三人は引きつった顔をしていたが。


「く、くろこっち…?」


その時、俺達の背後から途方にくれたような声が投げかけられた。





***
シリアスっぽいけどシリアスではない…はず!
中学時代の赤司は皆を苗字呼びで統一。

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