ただひたすらに、手を伸ばした先にあるはずの五色の光を求めて。
捉えたのは無色の絶望だった。





漆黒のアタラクシア #01





誠凛高校バスケ部―――

期待の大型新人…火神大我の肉体チェックを嬉々として終わらせた相田リコは、並んだ新入生を見渡して首を傾げた。
同じように、彼女の背後では「あれ?」と言いながら彼らを見るキャプテン日向の姿もある。


「この中に黒子くんって居る?」
「帝光中の!」


帝光、という名に周りが反応を示すものの、やはり本人の姿は見えずにリコはがっかりした。
せっかく二人目の期待の新人だったんだけどなぁ…と思いつつ、いつまでもこのままで居るわけにもいかない。
周りに注目を促すように片手を上げ、練習を始めようと声を掛けたところで「あの、すみません」と控えめながらしっかりとした声が聞こえた。


「黒子は僕です」


その声の主はリコの真正面に居た。
一瞬の間を置いて、リコと周囲は驚愕して叫び声を上げる。
どうやら誰も彼の存在に気付かなかったようだ。


「…え!?じゃあこいつが!?『キセキの世代』の!?」
「まさかレギュラーじゃ…」
「てか黒子くん、その怪我…」


色白!!ほっそ!!薄い!!と周囲から連続でそんな声が上がるが、本人は気にした様子も見せずに「よろしくお願いします」と軽く頭を下げた。
視認していても存在感が薄いってどんだけだ!とリコは内心で盛大にツッコミつつ、気になっていた帝光中の事を聞く。


「たしかに帝光バスケ部でしたけど、途中で退部しましたから」
「あ、そうなんだ…」
「僕は見ての通り怪我人ですから、完治するまではマネージャーとして部活に参加させていただきたいんですが…」


出来ることは少ないと思います、と告げる黒子の表情は変わらない。
その頼りない背中を見つめて、火神は少し眉を顰めた。


「怪我って…それどうしたの?」


黒子の左腕―――ギブスを嵌めて首で吊っている白いそれを見て、怪訝そうにリコが問う。
日向からは「骨折か?」と疑問の声が上がったが、黒子はゆっくりと首を横に振った。


「事故で左腕を切断しまして」
「え!?」


この辺からすっぱり落ちちゃって、流石に僕も目の前に腕が転がってたときは終わったなと思いましたね。


ギブスの中間、手首より上辺りを右手で示しながら淡々と言い放った黒子に、一瞬言葉の意味を理解できなかった。
した瞬間、真っ青になって慌てる周囲をもやはり気に掛けず、黒子は安心させるように小さく微笑んだ。


「大丈夫です。奇跡的にくっつきましたから」
「いやでも、腕、落ち!?うええええええ!?」
「なにそれこわい!!!」
「なので、試合に出れるとしたら冬辺りになりそうです」
「え、あ、いや、え!?試合?!それ大丈夫なの!?」


リコの目で見ても大丈夫そうには見えない。
平均以下の数値を限界値まで鍛えてある黒子だが、それでもやはり強そうではない。見た目はめちゃくちゃ弱そうである。
怪我の事を差っ引いてもフルに試合に出られる体力があるのか怪しいところだ。


「さすがに片腕を使えない人間は入部できないでしょうか…」


しゅーん、と沈みこんだその姿はまるで子犬か子猫のようだった。
はぅ!と変な声を上げてリコが仰け反る。
正面に居た先輩達も「うぐ!」やら「うぉ!」やらよく分からない悲鳴を上げて視線を逸らした。
こてり、と黒子が首を傾げる。


「あの…?」
「…っいや、なんでもない。怪我してるからって入部を拒否ったりしねぇよ」
「そうそう!そんな大怪我してて運動部とか大丈夫なのかなって思っただけだからさ!」


誤魔化すように笑った先輩達に、黒子は一つ瞬いて、ふわりと笑った。
どこまでも慈愛に満ちた、まるで全てを見透かしたような、たおやかで柔らかい笑顔だった。


「―――バスケが好きなので」


それだけが全てだったから。





***
気まぐれに連載開始です。
黒子の怪我については深く考えない事!
切断するほどの大怪我が早々治るわけねーだろ、と自分にツッコミ入れつつ書いてます。まさに奇跡!って事でどうぞ一つ。

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