紫原の場合





「黒ちーん」


間延びしたような、とよく言われる呼び方で黒ちんを呼ぶ。
顔を上げた黒ちんは俺に視線を向けて持っていた本を閉じた。


「みてみてー、さっきコンビニで新味見つけたんだー」
「よかったですね」
「一緒に食べよー」


コンビニ袋から大量のお菓子を出して見せると、黒ちんは苦笑するみたいに笑って俺の傍にしゃがみこんだ。
色々買ってきたから、きっと黒ちんが好きなのもあるよね。
俺は一番に新しい味のまいう棒を手に取る。
黒ちんにもそれを渡して、袋を開けた。
ぱくりと口に含んだそれは、なんだか面白い味がする。


「…微妙です」
「そう?俺は結構いけるよー?」
「それは何よりですね」


むう、と眉を寄せる黒ちん。
どうやらこれはお気に召さなかったみたいだ。
光に透けた水色の髪がきらきら揺れる。
お菓子みたい。
黒ちんそのものがわたあめみたいだけど、食べたら甘いのかな。


「黒ちんもおいしそうだよねー。髪とか目とか、ソーダみたい」
「そうですか?」
「うん。あー、でもラムネかも。なめていい?」
「駄目です」


顔を近づけて舌を出すと、嫌そうな顔をして黒ちんが俺から距離をとった。
そんなに嫌がらなくてもいいのに。
味見くらいさせてくれてもいいじゃんか。


「けちー」
「ケチじゃありません」
「ちょっとだけー」
「嫌です」
「かぷっ、てくらい」
「噛んでるじゃないですか」


ぎゅーっと背後から抱きしめて、その頭に顎を乗せる。
途端に「重いです」と文句が返ってきた。
さっきからダメダメって、黒ちんひどい。
ちゃんとおいしく食べるのに。だって黒ちんだし。


「ほっぺたの肉は柔らかくておいしそうだよね。ステーキにして食べたい」
「…離して下さい」


むにむにと頬を指で押す。
ほんと、やわらかい。子供みたい。


「足の肉は硬そうー。煮込んでシチューにでも入れたらいいかなー」
「紫原くん…ちょっと」


抱き込んだまま足を手に取ると、どこか焦ったような声で黒ちんが俺を呼んだ。
でも知らない振りをして続ける。


「骨はねー、ちゃんと出汁にして使うから大丈夫だよー」
「紫原く、ん!」
「ねぇ黒ちん」


おなかすいた、と抱きとめたその体に唇を寄せ、耳元で囁くと抵抗が強くなった。


「冗談はやめてください!」
「えー」
「いいから…っ離せ!」
「やーだー」


ぎゅうぎゅう抱き込んで、暴れる黒ちんを押さえつける。
そんなんで俺から逃げられるわけないじゃん。バカな黒ちん。


「いただきまーす」


齧り付いた喉元が、怯えるようにひくりと震えた。





ちゃあんと残さず全部食べるから、ねぇ、もういいでしょ?





***
ごちそうさまでした。
つまりそういう事です。

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