青峰の場合
※閲覧注意。ちょっと暴力表現があります。





やる気がなくて部活サボって適当にその辺をぶらぶらしていた時、視界の端に水色が入り込んできた。
それは決して見逃す事のない、俺の色。
どうやら向こうは俺に気付いていないらしい。
横にいるのは赤い髪の男だ。
まるで当然のような顔をして、あいつに触れる、あいつの光。
ああ、胸糞悪い。


「テツ」


あいつと別れた時を見計らって、人目に付かないように物影からテツを呼ぶ。
途端にびくりと震えたのを見咎めるように眉を顰め、少し強めの力で腕を掴んだ。
青峰くん、と平坦を装いきれていない声が俺を呼ぶ。


「なぁ、俺あいつと話すなって言ったよな?お前頷いたよな?」


腕の中に囲ったテツを見下ろしながらそう言うと、目に見えて震えたテツは「ごめんなさい」と謝った。
なぁ、それ何度目だ?


「テツ、テツテツテツテツ」
「あおみ、グッ!」


力任せに壁に押し付けて、顎を掴んで上を向かせる。
テツは小さいから、足が少し浮きそうになっていた。
はは、爪先立ちしてるよ。
かわいいな、テツ。


「テーツ?」
「…、っ!」
「痛いか?ごめんな。でもお前も悪いよな?俺との約束破ったんだし」


白くて小さい手が俺の腕に爪を立てる。
ああ、傷が付くじゃねーか。
まぁテツが付けた傷ならいいけど。


「なんで分かんねーの?何度言えば分かんの?なぁ、聞いてるか?」
「…聞いて、ます…ッ」
「へー?」


苦しそうに顔を歪めて、それでも気丈に振舞おうとする。
涙目で俺を見上げてくるテツは本当に分かっているのだろうか。
その態度こそが俺を煽っているのだという事実を。


「しゃーねぇなぁテツは」


目尻に溜まった涙を舐めると、ひっと引き攣るような悲鳴があがった。
うわ、今の結構キた。


「腕、折っちまおうか?」
「やっ」
「あー、でもそしたらバスケ出来なくなるよなー」
「や、やだ…っ」
「んー。俺もそれは嫌だな。足にするか。なぁテツ?」
「あ、青峰くん…!やめ、」


体を押さえつけている腕とは別の腕をその細い足に這わせると、テツは真っ青な顔で必死に抵抗しだした。
怖がって怯えきった顔でぼろぼろと泣くテツは、けれども俺の腕の中から逃げられない。
ま、逃がすつもりなんざねぇけど。


「はは、何泣いてんだよ。かーわいい」
「…っ」
「折らねぇって。足もバスケやるには必要だろ?」


濡れそぼった瞼にキスして、壁に押し付けていた体を抱き寄せる。
そのまま折れそうな首筋に噛み付いて歯を立てた。
上がった悲鳴は掌で塞ぎ、俺の歯形がついて血の滲むそこを舐め上げると口内に鉄臭さが広がった。
テツのだから甘いかと思ったけど、やっぱ不味いわ。


「テーツ」
「っあおみね、くん…」
「もっと呼べよ」
「あお、みねくん」
「テツ」


俺が願うだけ、テツは俺を呼ぶ。
俺だけを、呼ぶ。
その口で、他の奴と話すんじゃねぇよ。
お前の声を他の奴に聞かせんじゃねぇ。
じゃないとその内、冗談じゃなく喉潰しちまうぜ?


「もっともっと、なけよ、テツ」


そうやって、お前は俺だけ見てればいいんだよ。
なぁテーツ?





ほら、その目には俺しか映ってない。





***
慈しむ愛など知らない。
とにかく名前を呼ぶ。認識と支配。

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