黄瀬の場合 「くーろこっち!」 「黄瀬くん?」 マジバでお気に入りのシェイクを飲んでいた黒子っちに声を掛けると、先ほどまで店内に向いていた視線が俺を映した。 それだけで嬉しい。 「どうしたんですか?」 「仕事でこっち来たんで、せっかくだから黒子っちに会って行こうと思ったんスよ!久しぶりの生黒子っちっス〜!」 「その言い方やめてくれませんか」 嫌そうに眉を顰める。 黒子っちはあんまり表情が変わるタイプじゃないから、それは大きな変化ではないけど、俺にはすぐに分かる。 「またバニラシェイクっスか?」 「好きなんです」 知ってるっスよ。今だって花でも飛んでるんじゃないかってくらい嬉しそう。 他の人にはわからないだろうけどね。 「それは知ってるけど、ダメっスよ〜?最近寒くなってきたし、ここのところ毎日飲んでるじゃないっスか!おなか壊しちゃうかもしれないんで少し控えた方がいいっスよ!」 「…黄瀬くん?どうして毎日飲んでるって」 「黒子っちのことならなんだって分かるっスから!」 こてりと傾げられた首は細い。 白くて綺麗だ。 そこらの女なんかより何倍もすべらかな肌に、急に触れたら驚いちゃうかな。 「ずっと心配してるんスよ?俺が傍に居られないからって火神っちになびくような人じゃないって分かってるっすけど!今日のお昼とか火神っちとパン半分こしてたじゃないっスか!羨ましい!」 「……黄瀬くん」 店内に客は少ないが、いないわけではない。 ちらちら俺の外見だけを見てくる鬱陶しい視線は無視して、目の前の綺麗で可愛い黒子っちだけを見つめ続ける。 どうせこちらの会話までは聞こえていないだろうし、気にする必要もないだろう。 黒子っちは何か言いたげな視線を俺に向けていた。 どんな顔しててもかわいいっスね。 「だいたい、最近火神っちのやつ黒子っちにべたべたしすぎじゃないっスか?部活の時だって飲み物回し飲みしたり、タオルで拭いてもらったりさー。俺だってしてもらったことないのに!」 「…黄瀬く、」 「昨日だって、車から黒子っち守ったのはよくやったっスけど、あんなに強く引っ張ったら黒子っちの腕に痣が残るじゃないっスか!真っ白で綺麗な肌なのに!しかもそのあと抱き寄せたりしてさぁ、アイツ危ないっスよ!絶対黒子っちのこと狙ってる!相棒だからって、気を付けなきゃダメっスよ?」 あ、さっきまで読んでたその本、面白かったっスか? 嬉しそうに買って帰ってたもんね。 当たりだった? 初めて買う作者の本っスよね、黒子っちの部屋にはなかったし。 でも夜更かしするのはダメっすよ? いつもより二時間も遅く寝たでしょ。 授業中に寝れるからって睡眠不足は肌に悪いっス! それに、 「っ黄瀬くん!!」 普段なら出さないような大きな声が店内に響く。 血の気が引くように青くなった顔色。 黒子っちの手から空になったシェイクの容器が落ちた。 「大丈夫っスよ。俺は黒子っちのこと、何だって知ってるんだから」 未だに信じられないように俺を見る黒子っちに「どうしたの?」とそ知らぬ顔で微笑んで、震える白いその指先にキスを贈った。
ねぇ黒子っち。大丈夫。ぜーんぶ、見てるよ。
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