繋
※未来捏造
※「ふたりのしあわせ」というお話と同じような設定ですが続きの話ではありません
いつからだか、もう覚えていないけれど、僕たちには習慣がある。
毎日必ず、向かい合って、手を繋ぐ。
そうして、互いの存在を、しっかりと確かめ合う。
ほんの少しの間だけ、という時もあれば、時間の感覚すらわからなくなるほど長い間、という時もある。
これが彼にとってどういう意味を持っているかは、僕には知る由もないけれど、僕にとっては、キスやセックスと同じようなものだと思っている。
これは、紛れもなく、愛を確かめ合う行為なのだ。
もちろんキスもセックスもするけれど、それよりもっと深い交わりのように思えて、僕はこっちの方を大事にしている。
二人で暮らしているといっても、彼はなかなかに多忙で、外国に一ヶ月ほど出張、なんてことも珍しくない。
そんな時は、しばらくこれができないから、帰ってきてからが大変で、
―ガチャ。
…ちょうど、手塚が帰ってきた。
今回は、3週間程度の海外出張だったろうか。
「…手塚?」
玄関まで迎えに出ると、大きな荷物を持った彼がいた。
「…おかえり」
彼は僕の言葉に応えるかわりに、びっくりするような力で、僕の身体を抱きしめた。
僕は、あやすように背中を軽く叩きながら、彼と一緒に床に座り込む。
そうして、彼の片手に、僕の片手を重ね合わせて、握る。
外気に晒されていたつめたい手に熱を奪われていくけれど、それがかえって心地良い。
彼は、僕の肩に額を載せたまま、動かない。
よほど疲れているのだろうか。それとも。
「さみしかった?」
聞いてみても返事がないのはわかっていた。かわりに、手を握る力が少しだけ強くなることも。
「僕もね、さみしかったよ。生きてる感じがしなかった」
それは実際、誇張でも喩えでもなかった。
彼のいない毎日は、色がついていなくて、ただ僕の目の前を通り過ぎて行くだけだ。
だから僕は、一人の時はどうにもぼーっとしてしまって、食事を摂るのを忘れたりする。
彼は僕と違ってぼーっとしている訳にはいかないから、そういうのを中に押し込めて積み上げてしまうのだろう。
それは僕より何倍もつらいし疲れてしまうのだろうな、と思う。
そして、またふたりになったときに、こうして繋いだ手から、互いの足りないところを補給し合う。
もう僕たちは、ひとつずつでは成り立たないのだ。
「ご飯食べる?」
「…いや」
ふたりの手の温度が同じくらいになったところで声をかけると、いつもの凛とした声が返ってきた。
「外で済ませてきた」
「じゃあ、お風呂?」
「…ああ、そうしよう」
そう言って立ち上がった手塚は、もういつもの手塚だった。
…充電完了、ってところかな。
「わかった。ちょっと待ってて」
準備のために風呂場に向かおうとする。
しかし、僕の足は前には進めなかった。
後ろから、強く抱きしめられたからだ。
…前言撤回。
3週間の空白というのは、そう簡単には満たせないようだ。
腰に回された腕を軽く叩いて外させ、そのまま、その手を取る。
彼らしからぬその熱さが、一瞬で僕に伝染する。
手を引かれて寝室に向かいながら、これからすること、を思って、鼓動が高鳴った。
これから僕らは、たくさん、気の遠くなるほど、お互いを求めあうのだ、と。
繋がれた手の熱は、もうどちらのものだかわからなくなっていた。
―――――
私が書く塚不二はなんか根暗ですね
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