strawberry
いつも通りに部活が終わって、いつも通りに帰路に着く。
そしていつも通りに、隣にはあいつがいる。
「あれ、岳人、なんか食っとるん?」
「え?…あぁ、」
口の中の甘い球体を舌で転がして存在を確かめる。
「飴」
「やっぱり…なんやさっきから甘い匂いがしとるなぁって思ったんや」
侑士が苦笑混じりに言う。
今や口の中で最初の半分以下のサイズにまで小さくなってしまった飴玉は、さっき部活が終わった後にジローから貰った物だ。
何の事はない、どこででも売っているありふれた人工的ないちご味。
「美味いん?」
「…ん、別に普通だけど」
そう答えると、侑士は俺を見つめたまま立ち止まる。
無意識に、それに合わせて俺の足も歩みを止めた。
「…侑士?」
すると侑士は俺の片腕をそっと掴み、自分の方へ引き寄せる。
そして、端整な顔がゆっくりと近づいてきて、……
「―…っ、死ね変態!!」
間一髪で自己防衛に成功した。
まともに拳骨を喰らった鳩尾を押さえて声にならない呻き声を上げる侑士の頭部に、軽くもう一発お見舞いしてやる。
「…がっくん、今の、本物の殺意篭っとった、けど…」
「当たり前だ」
侑士は拗ねた子供のような表情で俺を見る。
「味見しようとしただけやんか」
「黙れロマンチスト」
そんなベタな事されてたまるか、と侑士の頭に、軽くもう一発。
酷いなぁなどとぶつぶつ文句を言っているのでさっさと先に歩き出すと、半歩くらい後ろから鳩尾をさすりながら侑士がついて来た。
「がっくん」
「……」
「岳人、ごめんて」
「……」
侑士の呼びかけには応えずに鞄をごそごそと漁っていたら、後ろから聞こえよがしに溜息が吐かれた。
目的の物を探し当てて、手で感触を確かめてから取り出す。
「…ん」
振り返ってそれを差し出せば、不思議そうな表情をしながらも侑士は右手を出してきた。
そこに、手の中の物を置く。
ほんのすこしだけ、きゅ、と侑士の手を握ってから、離す。
「…これ、」
「やるから食ってろ」
渡したものは、俺のと同じ、いちご味。
俺の断りなしにごっそり鞄に突っ込まれたものだから、飴はまだたくさん残っていた。
「…おおきに」
侑士が包装紙を破って口に赤い球体を放り込むのを見届けてから、並んで再び歩き出す。
「結構甘いんやな」
「だろ?」
俺の口の中には、もう球体ですらなくなった、いちご味。
感覚を共有しているようで、そう思うとなんだかくすぐったい気持ちになった。
思わず、口元に笑みが浮かんでしまう。
「岳人、どないしたん?」
「なんでもねーよっ」
俺が笑ったのに気がついたのか、問い掛けてくる侑士にそう返して、少しだけ間の距離を縮める。
なんとなく名残惜しさを感じながら、消えかけの甘いかけらをぱり、と噛み砕いた。
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