chime


※生徒×教師パラレル







二限目終了のチャイムが鳴った。


白石は作業の手を止めて時計を見る。


今日、彼はまだ来ていない。


ということは、授業にはちゃんと出たのだろう。

彼にしては長い方である。

いつぞや、一限目が始まる前から既にベッドで寝息を立てていたこともあった。



(…まぁ、進歩やな)


そう思って白石が苦笑した、その傍から保健室のドアが開く音がした。


入ってきたのは、そのサボり魔の問題児。



「…千歳か」

「……こんちは」


千歳は悪びれた様子もなく笑った。


「少し寝かしてもらうばい」

「…保健室はサボる所ちゃうんやで」


教師として一応そんな言葉を投げかけてはみるけれど、
千歳がまた笑って誤魔化すのはいつものことだった。


千歳は白いカーテンを開け、同じく白いベッドに腰掛けた。



「…せんせー」


おどけたように白石を呼びながら、手招きをしている。


白石は一つ大きなため息をついて、椅子から立ち上がりベッド脇へ歩いて行った。


「何や。熱ある言うても信じへんで」

「わかっとうくせに」


先ほどまでの一種無邪気な笑顔とは違う、ぞくりとするほど大人びた微笑を浮かべて千歳は言った。


白石は無言で後ろ手にカーテンを閉めた。



それはつまり、肯定のサイン。


千歳は、白石の体を抱き寄せる。


「…今日は真面目に授業出るんかと思た」

「そしたら、蔵が寂しがるったいね」

「…な訳あるか」


白石はそう嘘をついた。



かわりに、千歳をぎゅっと抱きしめ返す。


本当は、来てほしいのだ。朝からでも。


ずっとずっと、一緒に居たい。

けれどそれは、立場上許されない。



自分は教師で、彼は生徒。


この関係自体が、白石を一層後ろめたい気持ちにさせていた。



「…ん、」


唐突に唇が重なって、愛撫するようにゆっくりとまた離れて行った。


白石は千歳から目を逸らして俯いた。

すると、優しく笑いながら千歳が白石の髪を撫でる。


「ちとせ…」


切なさと愛しさの入り混じった目で白石はじっと千歳を見つめる。


千歳はわずかに息を飲んで、白石にまた口づけた。


「…蔵、口、開けなっせ」


千歳のいうことに、白石は素直に従った。


小さく開かれた口から、赤い舌がわずかにのぞく。


千歳はそれを絡め取って、再び優しく口づけの愛撫を施す。


その指が、白石の耳から首筋を辿って、服のボタンに掛かる。




「…人、来たらどないすんねん」


かすかに離れた唇がそう告げた。

「平気ばい」



根拠のつかめない返事をして、千歳は事を進める。



「…蔵」



露出した滑らかな肌に印をつけて、千歳は囁いた。


白石は思わず、甘い声の混じった吐息を零す。



「…ちゃうで」


こつ、と右手で作った拳を千歳の頭に軽くぶつける。




「『先生』やろ、阿呆」


千歳は楽しそうにくつくつと笑った。


白石は、笑みに歪んだ千歳の唇をゆっくり塞いだ。










静かで無機質なチャイムの音が、

甘い秘密の空間に鳴り響いていた。









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