「新名ー、昼食済んだか?」
「昨晩の煮物に味が染みてて大変美味でした」
「いや、弁当の献立は訊いてない」


Scene2 日直


「済んだならこれ片したいんだが」と言いながら歩み寄って来た東堂の手には、プリントの山が抱えられている。
四種類のプリントを束ねてホッチキスで留めるという、単純ゆえに面倒な仕事を、日直である私たちは仰せつかってしまったのである。
下校時刻までに済ませてくれればいいと言われたものの、生憎こっちは放課後が一番忙しい。時間があるうちに済ませられるならその方がいい。

「そうだね。今やっとけばすぐ部活行けるし」
「あと、日誌知らないか。あれも早目に書き上げたいんだが、教卓に見当たらなくてな」
「あ、ごめん、私が持ってる。まだ書いてないけど」
「じゃあ新名は日誌を先に済ませてくれるか」
「そっち一人で平気?」
「先に四枚一部を作って積んでいくから、そっちが終わってからホッチキスで留めていってくれればいい」
「わかった、すぐ終わらせるね」

日誌を広げた私に頷いて見せると、東堂は隣の席に座りプリントを一枚ずつまとめていく。
真面目な表情を横目でちらりと見ながら、東堂が隣に居ることにも、随分抵抗が無くなったなと思う。
東堂とはずっと同じクラスだけど、一年のときはとにかく傍に居ることが苦手だった。何せ彼は、入学当初から人目を引いていたから。
注目を浴びることは得意じゃない。身に覚えの無いことで嫉妬の視線を浴びるなんて、尚更御免だった。
日が経つにつれ、普通に会話をしていてもそんな視線に晒されることは無くなったから、少しずつ慣れていったけれど。
マネージャーということが周知となり、その上で東堂が一定の距離感を保ってくれていたのも大きかったのだろうと思う。

(無駄に聡いからなぁ、いろいろ配慮してくれたんだろうな)

うちの部内で一番周りが見えているのは彼なんじゃないだろうかと思いつつ、日直欄に東堂の名前を書く。東堂尽八、と。

「……ほ?」
「……何だ今の間抜けな声は」
「わー、凄いねぇ、東堂!ほぼ左右対称じゃん」
「…………漢字の話をしているのか?」
「うん」
「オレは時々おまえが学年首席なのが信じられん」

はぁ、と溜息を吐いた東堂が日誌を指先でとんとんと叩き、先を促す。そうだ、早く書いてしまわないといけない。
それにしても、本当に整った字体だ。日誌は横書きだけど、縦書きで書けばもっと綺麗に見えるに違いない。
書けば気付いただろうけど、なかなか同級生のフルネームを書く機会なんて無いものだ。部活でもエントリー表は大抵監督か寿一が書いているし。

「オレ、昔は自分の名前書くの苦手だったな」
「そうなの?」
「と言っても、書道の時だけな。書の、はらいの部分が苦手で」
「えー、はらう字ばっかりじゃん。4分の3が駄目じゃん」
「そう、だから苦手だったんだ。けど自分の名前が綺麗に書けないのは格好悪いからって、めちゃくちゃ練習したら上達した」
「そっかぁ、東堂、習字上手いもんね」
「だろ?」
「ドヤ顔うざい」
「なッ!?」

キッと睨みつけてきた東堂に、先程されたのと同じようにプリントを指先でとんとんと叩いてやると、ぶすっとした表情で作業に戻った。
習字の時間、東堂が先生に褒められていたのはよく憶えている。満遍無く器用に様々をこなす東堂だけど、習字は飛び抜けて上手だった。

「私は習字苦手だなぁ。筆ってのもあるし、大きく書くのも苦手だし」
「あぁ、ノートとか部誌の字は綺麗だもんな」
「お、ありがと」
「まぁオレだって名前のせいで苦手だったけど、名前のおかげで得意になったようなものだ。新名の言う通り、左右対称だから整えやすいしな」
「そだねぇ、下の名前の漢字が対称と呼ぶには惜しいけど、それも東堂らしくていい感じ」
「褒めてる振りして貶してるな!?」
「バレたか」


15.11.05

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