大学生という生き物は、何かにつけて飲み会を開くのが好きらしい。そのことに気付いたのは、入学してから割とすぐのことだったと思う。
それでも、未成年なこともあったし運動部に所属していることもあって、問題になるといけないから、と断るのは案外容易かった。
しかし今年に入って、その理由が使えなくなった。そう、同期の誰よりも早く、20歳の誕生日を迎えたからだ。
案の定、立て続けに新歓コンパに呼ばれるわ合コンの数合わせに誘われるわで、うぜェことこの上ない。
別に飲み会自体が嫌いなわけじゃないけど、面倒も多いし、何より参加する数が多ければその分の金が掛かる。冗談じゃない。
俺がとった手段はただひとつ。金曜日の夜は意地でもバイトを入れること。今のところそれだけで、わりと多くの飲み会を回避出来ている。

「ただーいまァ」

しんとした室内に疲弊した自分の声が響いて、ああそういえば今日は来てないんだっけと思い出して、何だか疲労が増した気がした。
バイトが終わって帰ってきた自分の家は、あちこちに彼女の痕跡がある。
食器だって雑貨だって、随分増えた。俺には到底使い方のわからない調理器具や全部同じように見える化粧品のボトルだって数本置いてある。
まーた野獣が飼い慣らされとるのう、とニヤけた待宮をどついたのが先日のこと。どっちかってーと飼ってるのは俺の方だろうが。

簡単にシャワーを済ませ、何か軽く食べてから寝ようと思い台所に立つと、コンロに鍋が置いてある。
覚えのないそれを開けると、中身は味噌汁だった。ガス台に貼り付けられた付箋には、「冷蔵庫」という文字と、いびつなおにぎりの絵が描いてある。

「ほんッと、絵心無ェな……」

三角もまともに描けねェのかヨと苦笑しながら開けた冷蔵庫には、絵よりは幾分整った形のおにぎりが入っていた。
味噌汁とおにぎりを温めている間、喉の渇きを潤そうと、再び冷蔵庫を開けてベプシを取り出す。
するとそこにも付箋が貼ってあって、今度は「冷凍庫」の文字と、変てこな顔文字が書いてあった。下手すぎてどういう表情の顔文字かわかんねェけど。

「……宝探しみてェだ」

宝の地図である付箋を丁寧に剥がし、先程の付箋と重ねる。彼女はこういうメモの書置きが好きで、おかげで俺の引き出しには紙くずが溜まる一方だ。
見つかったら何言われるかわかんねェし、正直エロ本より恥ずかしいと思うし、捨てりゃいいんだろうけど、結局今日まで出来ないままでいる。
女々しすぎかと自嘲しつつ指定された冷凍庫をがこんと開けると、ど真ん中に小さなアイスのカップが置いてあった。
デザートだったら後でいいかと思いながら、貼られていた付箋だけ剥がして文字を確認する。
そこには「バイトお疲れさま。がんばった靖友くんにご褒美です」という几帳面な文字と、とびきり不細工な猫の絵が描かれていた。

「もう、下手ってレベルじゃねェだろこれ」

ハッと息が漏れたと同時、何かスイッチが入ってしまって笑いが止まらなくなった。
レンジの音が響いてもまだ止まらなくて、笑いすぎて涙が滲んだ頃にようやくおさまった。
親指で涙を拭い、痛む腹を撫でながら、これを書いてる彼女の姿を思い浮かべる。

「あー、くッそ……、抱きしめてェなァ……」

思わず漏れ出た彼女への想いと、何度見ても不細工な猫の絵に再度ハッと息を吐くように笑い、どうにもならない思いのまま付箋に唇を寄せた。



痛いほどに会いたい体温

(ああやっぱり、飼い慣らされてんのは俺の方かも)


壊滅的な絵心でも、何を描いたつもりなのかは解る。愛ゆえ。
15.05.15

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