彼女の家に遊びに来たら、ものすごく甘ったるい香りが玄関まで漂ってきていた。
玄関まで出迎えてくれた彼女は桜色のエプロンを着けとって、見慣れへん姿に一瞬言葉が出て来なくて焦る。

「……何か、作ってたん?」
「うん、いちごジャム作ってたの」
「ジャム?」

手招きに応じるまま家に上がり、台所に向かう。コンロに置いてある小さな鍋の中には、たっぷりのいちごジャムが入っていた。

「お隣さんがね、いちご狩り行ったんだって。お裾分け貰ったんだけど、これが大量で。傷んじゃう前に、ジャムにしちゃった」
「ふぅん。それで、これ買って来いってことやったんやな」

家を出る前に届いた彼女からのメールには、プレーンクラッカーを買って来て欲しいという珍しいお願いが綴られていた。
ここに来る途中寄ったコンビニで買って来たそれを、袋から取り出して見せる。

「あ、ありがとー。おやつだし、パンよりクラッカーかなって。紅茶、淹れるね」

彼女がやかんを火にかけ、手を離したのを確かめてから背後からゆるく抱き付いた。
肩がぴくんと揺れたけど特に何も言われへんかった。それに甘えて肩をぎゅうっと抱いたまま彼女の後頭部に額をこつんと当てる。

「なァ、ジャムって、どんなんでも作れんの」
「ん?んー、そうだねぇ。いちごジャムしか作ったことないけど、作り方は大体一緒だし、何でも出来ると思うよ」
「……マーマレードとか、出来る?」
「マーマレードが好きなの?じゃあ夏みかんの時季になったら、作ろうか」
「ん」

返事をしたと同時、サクッという軽快な音が僕の腕の中で響いた。

「なに一人で食べてんの」
「味見です、味見」
「その量は、つまみ食いって言うんやよ」
「はい、翔くんもどうぞー」
「食べかけかい」

ジャムを乗せたクラッカーを口元に運ばれ、文句言いながらも口を開けて迎え入れる。
砂糖が控えめなのか、市販のものよりいちごの甘酸っぱさが引き立ったジャムは、とろりと溶けて喉の奥へ落ちていった。

「美味しい?」
「ん。大変よう出来ました」

そう答えつつ僕は、彼女の口端に付いたジャムをぺろりと舐め取りながら、恋心を凝縮したみたいな食べ物やなと、ぼんやりとした頭で考えていた。



好きを煮詰めて僕を愛して

(甘酸っぱいだけの愛を、僕の心に塗りたくるように)


あまり甘いもの食べるイメージ無いけど、好きだと可愛いなー。
15.05.15

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