お風呂から上がった彼女の髪を乾かすのが、俺の役割として習慣づいたのはいつからだっただろうか。
忘れるくらい月日が経ったことは間違い無くて、それは俺の慣れた手付きにもよく表れている。
ふわふわと揺れる髪に仕上げの冷風を当てドライヤーを切り、終了の合図として彼女の頭をぽんぽんと二回叩くまでが一連の動作だ。

「ありがとー」
「どういたしまして」

ドライヤーのコードを結び片し終え、彼女の隣に座ると俺は再度髪に触れた。

「だいぶ伸びたな、髪」
「そうだねぇ。ごめんね、乾かすの時間掛かっちゃうね」
「や、それはいいけどさ」

確かに少し大変ではあるけれど、どことなく甘えられてる感じがして、全然苦にはならない。
ぼーっとしている俺の横で彼女が机の上のヘアゴムに手を伸ばした。ああ、三つ編みにするのかとすぐに察する。
彼女はたまに三つ編みに結わいて眠りにつく。翌日ゆるくウェーブがかった髪になるのが好きなのだと言う。

「……なぁ、それ、させて」
「三つ編み?俊輔くん、出来るの?」
「見ながらやる」
「じゃあ、右側ね」

彼女と向かい合い、俺は左側でゆるく編まれていく彼女の髪を見ながら、真似してみる。
だが、これがなかなか難しかった。いつも隣で見ている分には簡単そうに映るのに、俺の指先はどうも彼女と同じようには動かない。

「ぶきっちょだねぇ、俊輔くん」
「うるさいな、初めてやったんだから仕方ないだろ」
「下手でもいいけど、丁寧に扱ってね」
「言われなくても」

そう言って、三つ編みとは呼べない編み込みを一度ほどいて再度ゆっくりと指を動かす。
彼女の髪を乾かすようになったきっかけは、やっぱり思い出せないけれど。
でもきっと、どちらかが言い出したことが二人の間にぴったりと嵌まって、いつの間にか日常に定着していったんだろう。
今日という日を忘れる頃には、髪を乾かして頭を二回叩くまでの一連の動作に加えて、三つ編みをしてやることが日常になっていたりするだろうか。

「上手に出来たら、明日一緒にお風呂入ってあげるよ」

ぼんやりと考え事をしていたら彼女の言葉の意味を理解するのに時間が掛かって、返事をするのが少し遅れた。

「……いや、別にいい」
「間がありましたよ、スケベ泉くん」
「変な呼び方するな、気が散る」
「あらあらそんなに集中して、よっぽど上手に出来るようになりたいんだねー」
「だぁーっ、もう!ちょっと黙ってろ!順番わからなくなるだろうが!」



夜毎、秘め事じみた決め事

(俺たちの知らないうちに、俺たちしか知らないことが増えていく)


三つ編み下手っぴネタは3DSゲームから。
15.02.08

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