「お待たせ、御堂筋くんっ」 「お疲れさん」 委員会の仕事が長引いた彼女を校門で待っていると、巻き切れていないマフラーをはためかせながら彼女が駆け寄ってくる。 「ちゃんと結びぃや、危ないで」 「うん、ちょっと待って。急いどった、から、あれ?」 「そっちとちゃう、こっちや」 「ん?」 「あーもう、ほら、結んだるから」 「あ、ありがとう、ごめんね」 「ちょうちょでええんやろ」 「うん」 マフラーひとつ結ぶのにもたつく彼女に溜息を吐き、自転車を門に立て掛けてマフラーをちょうちょ結びに仕上げる。 単純に後ろか前できゅっと結べばええのに、どうやら今年、女子の間ではこの結び方が流行っているらしい。 「出来たで」 「ありがとう。ふふ、御堂筋くんの耳あて、真っ白で可愛いね」 「……貰いもんや」 そう言うと、彼女が小さく首を傾げる。 身長差による距離にくわえてマスクをした僕の声は、聞き取りづらかったらしい。 言い直すほど重要なことでもないかと思い、応える代わりに彼女のこめかみ辺りのヘアピンに触れる。 「綺麗やな、それ」 そう言うと、嬉しそうにだらしなく頬を緩めた。 引っ込めようとした僕の手を、彼女の興味深そうな視線が追う。 「手袋、しいひんの?」 「……忘れたんや」 「マフラーと耳あてまでして、手袋は忘れてしもたん?」 くすくすとマフラーに口元をうずめて笑われる。何となくむっとして彼女のヘアピンを指先でぐぐっと押してやる。 「痛い!」と抗議する彼女を無視し、自転車を片手で押しながら、もう片方の手を彼女に差し出す。するとやはり首を傾げられた。 「……キミィも手袋してへんし、どうせ手ぇ冷たいんやろ」 「そう、やね。冷たいね」 「……察しの悪い子は置いてくで」 「え、あ、やだ!」 僕の言葉に慌てた彼女が勢い良く僕の手を掴む。ムードもへったくれもあらへん。 「うっわ、冷た。何で外で待ってたボクより冷たいん」 「指先すぐ冷えるんやもん……、離そっか?」 「誰も嫌なんて言うてへんよ」 「……えへへ」 「そのニヤけた顔でこっち見んのやめて」 真白の下に朱色を秘める (耳あてもマスクも要らんくらい熱いけど、してきて良かった) 手袋はわざと着けていない御堂筋さん。 14.12.06 |