「休日だけど、そんなに人多くないね」 「そうだな」 「寒いから引きこもっちゃってるのかな」 「あぁ、成程……」 今日は二度目のデート。 休日の割に人通りの疎らな街並みは、誰と肩がぶつかることもなく、歩きやすくて有難い。但しそれは、いつもなら、の話。 隣を歩く彼女と、いっそ肩がぶつかってくれればと思う。いや、身長差的に、俺の肩は彼女にぶつからないけれど。 「昨日ね、今泉くんが貸してくれたサントラ聴いたよ。洋画の」 彼女は映画が好きだ。そもそも仲良くなったのだって、俺が学校に持って行ってた映画のサントラCDに彼女が興味を示したのがきっかけだった。 「改めて聴くと、やっぱり綺麗な曲が多いね。6曲目がいちばん好きだったなぁ。今泉くんは?」 「あー、……3曲目」 「鍵盤曲?あれも綺麗な曲だよね」 ごめん嘘。違うことばっかり考えていて、どうにも頭がまわらない。正直3曲目がどういう曲かも思い出せない。 しかしそんなことを知らない彼女は、映画の内容をにこにこ笑いながら話している。 ……今なら自然と触れられるんじゃないだろうか、うさぎを思わせる真っ白な手袋に包まれた、その右手に。 (いや、でも急に触ると驚かせるかも知れないし……。だからって「手繋ぐ?」とか訊けないだろ、普通!) そこまで考えて、相手に聞こえないように小さく溜息を吐き、ひとまず落ち着く。 たとえば今日が普段通りの人混みであれば、どさくさに紛れることだって出来ただろう。 もしくは彼女が手袋をしていなければ、手の冷たさを心配する素振りで触れることだって出来たかも知れない。 でもその手袋は、他の誰でもない俺がプレゼントした物であり、怒りの遣り場が無くて頭を抱えた。だって想像以上に似合っているし。 「ね、今泉くん、聞いてる?」 「え、あ、悪い。ぼーっとしてた……」 「もうっ!映画館も混んでないといいねって言ったの」 「あぁ……、でも寒いし、ああいうとこは混んでるかもな」 「そうだよねぇ」 そうだ、映画に行くんだった。館内では手なんか繋げないだろうし、本当に今しか無いんじゃないだろうか。 恋愛モノなら手に触れたっておかしくないけどSFだし。何より映画好きな彼女には、俺の手なんかじゃなく映画に集中してほしい。 (二度目なんだし、手くらい繋がないと呆れられるかも知れない……。オレだって、繋ぎたいし) もだもだ考えている間も視界の端にはちらちら白い手袋が入り込んできて、俺の心を揺さぶってくる。 (……よし!) 顔を上げ、ぐっと拳を握りしめ、遠目に見える花屋を見据え、あそこの前に着いたら彼女の右手に触れようと、俺は小さく決意した。 決意は何度も容易く折れる (花屋を過ぎたら、横断歩道についたら、……渡り切ったら、絶対に!) 初書き今泉でした。ヘタレ泉くぅん。 14.12.06 |