「純太、純太」
「はいはい、何ですか」
「見て」

桜並木道の途中。彼女が広げて見せた手のひらには、桜の花がひとつ、形そのままに乗せられていた。

「あーあ、摘んじゃったのか? いーけないんだー」
「違っ、落っこちてたの!」

そう言って、歩いてきた方の地面を指差す。よくよく地面を見てみると、散った花びらに混じって、彼女の手に乗っているような花そのままの形でひとつふたつ落ちている。自然な流れで桜の木を見上げ、理由はすぐにわかった。

「あー、スズメかぁ」
「スズメ」
「蜜吸う時に落とすんだろうな」
「え、鳥も花の蜜吸うの?」
「種類にもよるだろうけど、吸う奴も居るよ」
「へー、虫だけかと思ってた」
「鳥も甘い物には目が無いのかもな」
「甘い……美味しいのかなぁ」
「……落ちてたもん吸うなよ?」
「なっ、吸わないよ!」
「痛ッ!?」

先程スーパーで買った5個パックのティッシュ箱で俺の背中をぱこんと叩き、そのまま彼女は俺の前を歩く。桜の花を夕焼けに透かしながら歩く危なげな足元を見ていると、不意に爪先がこちらを向いた。

「なんか甘い物食べたくなっちゃった。やっぱりさっきお菓子買えばよかったね」
「買わなければ食べずに済むの!ってさっき豪語してた口が何か言ってるぞー」
「だって家での誘惑より、スーパーでの誘惑の方が断ち切りやすいじゃん。家にあったら絶対食べちゃうし」
「そりゃわかるけどさ」

肩に掛けたエコバッグを担ぎ直し、空いてる方の腕で彼女の肩を抱いて前を向かせる。少し驚いた表情の彼女に笑って見せ、歩きづらいという文句を無視してそのまま帰路を辿る。
風が桜の木を揺らして、花びらを散らす。風に驚いて飛び立った鳥たちは、甘い蜜に有り付くことは出来ただろうか。鳥と花びらを眺めながら、家に着いたら、未だ甘いものを欲しがるであろう彼女に、とびきり甘いミルクティーを淹れてやろうと思った。



花のように蜜は無くとも

(君に甘いものを与える手も、甘やかすための声もあるから)


常々言っていますが、手嶋くんの声が好きです。
16.03.25

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