4つ並んだ傘マークを見て、思わず溜息が出た。そりゃ梅雨だし仕方ないけれど、流石にここまで連日雨予報だとうんざりしてしまう。 俺の溜息を聞いて、向かいに座っていた彼女が顔を上げた。新発売だという開発者のセンスを疑うようなフレーバーのジュースを飲みながら首を傾げる。 「ケータイ見ながら溜息なんて、恋をしてる人のすることだよ純太くん」 「恋ならしてるよ」 「自転車に?」 「……言わせたいの?」 「言ってくれたらこのジュースあげる」 「美味い?」 「全然」 「じゃあ要らないし言わなーい」 そのまま机に伏せた俺の頭頂部を、彼女が指先でつんつんとつついてくる。そこには腹を下すツボがあるって聞いたんだけど、どうなんだろう。 「一体どうしちゃったんだいマイダーリン」 「……今週いっぱい雨なんだってよマイハニー」 「あらあら」 教室でする会話じゃないなと思いつつ、誰も聞いてないしいいかとも思う。昼休みの教室は、他人の会話なんて聞こえないほど賑やかだ。 「雨の日の部活は大変なのに、嫌だねぇ」 「んー。それにやっぱりチャリは晴れの日に乗りてーよなぁ」 そう言っている今も、外ではしとしとと雨が降っている。キャノンデールは部室に入れ込んで来たから心配無いけど、それでも溜息くらい吐きたい。 雨のせいで普段より癖の付いた俺の髪を、彼女がゆっくり撫でる。心地好さに目を閉じていると、やがてその手が俺から離れた。 頭上で何かしゃかしゃかと音がして視線を上げてみれば、彼女がティッシュを3枚程取り出しているところだった。 「こらこら、資源は大切にしろ」 「資源よりも彼氏の笑顔を守りたいお年頃です」 「オレの笑顔はティッシュで守れる程度のものなの?」 「そう。しかも街頭で貰った出会い系の」 「女の子がそんなもの貰うんじゃありません」 「純太、それ使わないなら貸して」 「……はいはい」 俺の手首に付いていたヘアゴムをご所望の彼女にそれを渡し、同時に俺の笑顔を守るものが何なのかも理解出来て、それだけで少し気持ちが和らいだ。 ティッシュにしては綺麗に整えられた形にヘアゴムを巻き付け、机に顎を乗せたままの俺の眼前にそれがちょこんと置かれる。 「あーしたてんきにしておくれ、ってやつです」 「音痴だなぁ」 「うるさいな、没収するよ」 「ごめんごめん、ありがとな。明日晴れたら、お礼に美味しいジュース買ってやるよ」 「あ、じゃあこないだ出た新しいやつにして」 「……失敗してるくせに、懲りねぇなぁ」 「誰かが買ってあげないと可哀相でしょ」 「おまえ菩薩か何かなの?」 降り続く雨、降り注ぐ愛 (雨も悪くないって思わせて、溜息なんて吐けなくさせて) 手首にヘアゴム付けてる男子高校生。 15.08.02 |