「晴れなかったねぇ」
「そうだな」

昼休み、廊下の窓から外を眺め、彼女がぽつりと呟いた言葉に小さく返す。
七夕。俺の誕生日。この日は毎年どうにも雨が多い。まぁ梅雨も明けていないのだから仕方ないよなと思う。

「毎年お誕生日が雨って、嫌じゃない?」
「別に。雨、嫌いじゃないっショ」

雨が降ったってロードには乗れる。俺の走り方じゃ他の奴より多少危険度が上がることなりそうだが、今のところ別に何の問題も無い。
ふぅんと不可思議そうな声を漏らした彼女は、真っ黒な雲がかかった空をぼんやりと眺める。

「織姫と彦星、逢えないのかなぁ」
「いや、逢えるショ。空の上は晴れてンだから」
「うわぁ、リアリスト」
「何だよ、逢えてない方が良かったってのか?」
「そうじゃないけどぉ」

唇を尖らせながらも楽しげに頬を緩める彼女に首を傾げ、紙パックのジュースを飲み干す。
だいたい、織姫と彦星の話をバカにしなかっただけでも、ずいぶんとリアリストでは無くなった。どれもこれも、彼女に出逢ってからだ。
ストローをずずっと鳴らし、紙パックを丁寧に潰しながら、彼女と同じように視線を空へ向ける。

「……なぁ、1年に1回しか会えなくなったらどうする」
「裕介に?」
「うん」
「距離は?」
「……海の向こう?」

彼女は俺の言葉を聞いてそのまま唸りながら考え込んでしまった。遠いよな、そうだよな。想像つかねェよな。
俺のリアリスト具合が少々伝染ってしまった彼女の脳内には、きっと今頃、会いに行くのに必要な経費や時間が駆け巡ってるに違いない。
無理して考えなくていいと口を開こうとしたとき、唸り声が止んで、「難しいけど」と前置き彼女が言葉を紡ぐ。

「会いに行くかなぁ、って思うよ。何回でも」
「……いきなり前提覆しやがったな」
「だって私と裕介でしょ?それなら織姫と彦星みたいに、誰かによって引き離されたわけじゃないだろうし、年に1回なんて規制も無さそうだし」
「そりゃそうだけど」
「離れたくて離れたわけじゃないのなら、会いたいときに会えるはずだよ」

気が抜けるほど真っ直ぐなその言葉は、とても彼女らしくて、俺の真ん中にあっさりと突き刺さる。

「……会いたくなったら、すぐ会いに来られたらいいよな」
「ん?なに?」
「いーや、何でも。売店行くわ、飲みもん無くなっちまったショ。来る?」
「えー、混んでそうだしなぁ」
「来るならレモンティー買ってやるけど」
「行く」
「ちょろいな」



今は言えない、来年の今日のこと

(来る?なんて言えないから、せめて今はめいっぱい傍に)


お誕生日話とは思えないシリアス感。
15.07.08

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