「なーるこくんっ、迎えに来たよー」
「おー、ちょっと待ってなー」

店番が終わると聞いていた時間に鳴子くんを迎えに行くと、彼はまだくるくるとたこ焼きをひっくり返していた。
邪魔になるといけないので、お店の脇の方で待つことにする。だいぶ繁盛しているようで、裏方も忙しそうである。
いつもより賑わう校庭をぼんやり眺めていると、「お待たせやでー」と頭をこつんとたたかれた。

「お疲れさま、大盛況だね」
「昼時やからなぁ、手首おかしなるかと思たわ」

両手首をぽきぽき鳴らしながら、鳴子くんが楽しそうに笑う。
頭に巻いてたハチマキをはらりと解くと、失くさないためにか手首にぐるぐる巻きつける。
今日の鳴子くんは制服のシャツの上に赤い法被をまとっている。背中にはたこのイラストと、店の場所である中庭という文字が大きく書かれている。

「似合うね、法被」
「せやろー?ほんまは浴衣着たかったんやけど、枚数用意できん言われて。でも法被も楽でええな、文字も書けたし」
「その格好のまま行くの?」
「宣伝にもなるしええかなって。あ、新名が嫌なら脱ぐで」
「ううん、そのままでいいよ」

そっか、と笑顔を浮かべ鳴子くんが私の手を取る。校内だからか少しぶっきらぼうな握り方は、それでも充分すぎるほど優しい。

「とりあえず、飯やな。クラスの奴がたこ焼き持たせてくれたから、あと何か適当に見てみよか」
「そだね、飲み物も欲しいね」
「あー何かさっきシェイクみたいなん持っとる奴が居ったで」
「え、飲みたい!」

片手でがさがさとパンフレットを広げると、片側を鳴子くんが持ってくれる。
今居る場所から少し歩くけれど、どのみち飲食スペースもその辺りなので、ゆっくり向かうことにした。

「新名のクラスは、賑わっとるか?」
「うん、思ってた以上にお客さん来てるよ」

私のクラスは、染め物体験を担当している。ティッシュケースや巾着の形に縫った真っ白の布に、葉っぱなどで染色をするのだ。

「保護者の人とかね、ちっちゃい子にも割と人気みたい。珍しいんだろうね」
「そっか、良かったやん」
「うん。巾着いっぱい作るの大変だったけど、楽しかったし」
「そやな。ワイはどっちかと言えば体育祭の方が好きやけど、文化祭はまた違う楽しさがあってええよなぁ」
「私は文化祭の方が好きー」
「ああ、新名は運動神経切れとるからな」
「繋がってますけど!?」

鳴子くんの失礼な言葉に言い返すと、声を上げて楽しそうに笑われた。
賑わう人混みの中を、模擬店の看板を確認しながらゆっくりと歩く。いい香りが中庭いっぱいに漂っている。

「お好み焼き、からあげ、ヨーヨーつり、あ、かき氷もあるやんけ」
「縁日みたいだねぇ」
「ホンマやな。金魚すくいがあれば完璧や」

本当にそんな感じだ。呼び込みの声も、鉄板焼きの音も、氷を削る音も、縁日の雰囲気によく似ている。
足りないものといえば、浴衣、花火、お面、金魚すくい、あと、

「あんず飴も無いね」
「あんず飴?」
「あれ、知らない?」
「りんご飴なら知っとるけど」
「りんご飴?」
「え、知らん?」

関東と関西の違いなのだろうか。鳴子くんとお喋りしていると、たまにこういうことが起こる。
まだ16年しか生きていなくて、知らないことばかりで。だからこそいっぱい話して教え合って知っていけばいいと言ったのは、鳴子くんだ。
その言葉の通りにあんず飴のことを教えると、「あんず飴なぁ……」と呟き、何かを思い出すように空を見上げる。

「そういや、夏祭りは一緒に行ってへんなぁ」

そうだ。夏休み明けから付き合い出した私たちは、共有している夏の思い出が少ない。
軽く握られていただけの手のひらをぎゅっと強く握られ、肩が触れるほど距離を縮められる。

「来年、行こな。そんでその時、一緒にあんず飴食べようや」
「……うんっ」

近いようで遠いような、次の夏の約束。それは、短いようで長いそれまでの時間を、一緒に過ごそうってことだ。
さらっと言った彼の言葉に、どこまで考えられた意味が込められているのかわからないけれど、それでも自然と頬が緩む。

「りんご飴も、いつか食わしたる」
「え?」
「アレや、ほら。ずっと一緒に居れば、いつか一緒に大阪行く機会もあるやろ」

心なしか早口で、耳を赤くして言われれば、こっちもつられて頬が熱くなる。

「あ、りょ、旅行とかやで!?深いイミちゃうで!?」
「……深いイミって何?」
「うっさい!」
「うるさくないしっ」
「あー!腹減っとるから変なこと言うてもうたんや、忘れェ!」

繋いだままの手を私の頭に押し付け、そのままぐりぐり動かされる。地味に痛い。

「ねぇねぇ、深いイミってさ、大阪のおばあちゃんとかに会わせてくれるってこと?それって、」
「ああもううっさい!忘れんでええから蒸し返すな!」
「うん、忘れてあげなーい」
「……何やねん、もぉ……」



まだまだ先の、けれど確かな未来の約束


鳴子って何でこんなに照れさせたくなるんですかね。可愛いからかな。
14.11.22

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