「あ、辻先輩。こんにちは」
「おー、新名さんや。久しぶりやなぁ」
「はい、お久しぶりです。井原先輩と石垣先輩も、こんにちは」

文化祭で混み合った廊下でも、比較的背の高い辻先輩は、よく目立つ。
声を掛けながら近付くと、石垣先輩と井原先輩も一緒やった。挨拶をすると、笑顔で返してくれはる。
辻先輩と井原先輩とは、委員会が一緒だ。校舎内で会うと声を掛けたり手を振ってくれたりするから、すぐに打ち解けた。
そんな彼らとよく一緒に居る石垣先輩にも名前を覚えてもらい、仲良うなった。

「どっか行くんか?」
「はい、部活の先輩のとこに。タピオカドリンクのお店なんですけど、サービスしてくれはるらしいんで」
「えー何やそれ、オレもついていこっかな」
「井原は行ってもサービス無しやろ」
「いや、単純にタピオカドリンク飲みたい」
「まーた太るで」
「やかましわ!」

辻先輩が井原先輩の脇腹をつつきながら声を殺して笑う。そんな二人を見て、石垣先輩が楽しそうに声を上げて笑った。相変わらず仲良しやなぁ。

「新名さんのクラスは、何しとるん?」
「私のとこ、バザー担当なんです。せやから、当日することって店番くらいで」
「あー、バザーは1年が担当やもんな。オレも昔やったわぁ」
「昔って。石やんいくつなん」
「2年前なんかもう昔やろ」

二人が会話する横で、辻先輩が「引きとめとるけど大丈夫か」と小声で尋ねてくる。笑って小さく頷くと、同じように返された。
井原先輩と話している途中、石垣先輩が「あ」と声を出す。

「店番ってあれか、御堂筋もするんか」

御堂筋くんは、私と同じクラスだ。この三人と打ち解けるのが早かったんは、御堂筋翔という共通点があったことも大きいかも知れへん。
部活外の御堂筋くんを想像できないらしい先輩方が、クラス内での彼について、私に色々と尋ねてくるのだ。

「しませんよ。御堂筋くんは裏方と、文化祭後の会計やってくれはるんで」
「裏方?」
「バザー品の値段決めたり、値札作ったり。御堂筋くん仕事早いんで、助かりました」
「へぇ。まぁ、ちゃんと参加しとるんならええわ」
「……石やん、保護者みたいやなぁ」

石垣先輩を挟んで、辻先輩たちが呆れたような視線を送る。

「先輩たちのクラスは、模擬店なんですか?」
「あー、オレと石やんが、縁日みたいなゲームコーナー担当で、井原のクラスが、」
「お化け屋敷や!」
「え、井原先輩、お化け役やらはるんですか」
「いーや、オレは上の方からはんぺん垂らして待っとるだけやで」
「あぁ!?あのはんぺんお前やったんか!」
「石やん顔面ヒットしとったな」
「ほんまか!オレめっちゃ上手いな!」
「お前のせいで、怖かったいうより、痛かったわ!冷たいし!」
「熱々のはんぺんぶつけるわけいかんやろ!」

先輩たちのやりとりに堪え切れず吹き出すと、井原先輩が思い出したようにポケットを探る。
「ん」と差し出されたのは、お化け屋敷のチケットやった。在校生が在校生にだけ配れる、いわゆるタダ券。

「新名も後で友達誘うておいでや、なかなか気合い入ってんで」
「いいんですか、5枚も」
「ええよ、配り忘れとった分やから」
「ありがとうございます」

手作り感溢れるチケットを生徒手帳に挟みポケットに仕舞う。

「新名さん、お化け屋敷とか平気なん?」
「あー、遊園地とかのは入りませんね。文化祭クオリティなら普通に楽しめますけど」
「はっはーん、そうやって油断しとったらええわ、泣いても知らんで」
「流石に泣きはしませんよ……」
「言うても、はんぺんぶつけられたり貞子みたいなん居」
「はいそこネタバレ禁止ー!」

井原先輩が辻先輩の口を手のひらでおさえる。ネタバレといっても、まぁ大体想像通りのものが出てくるのやろうなと苦笑する。

「そういえば、自転車部は何かしてはるんですか?」
「あー、希望出しとったんやけどなぁ。今年は出来ひんかったな、残念ながら」
「これだけクラスと部活があれば、模擬店もかぶるしな。争奪戦に負けてしもたんや」
「オレ、どうせならチャリ部の奴らでお化け屋敷やりたかったなぁ」
「お化け屋敷ぃ?」
「やって、御堂筋と辻にお化け役やらせたら完璧やろ」
「どういう意味やコラ」
「辻が白い布かぶって懐中電灯で顔照らしたら怖いやろなと思て」
「そんなんオレやなくても怖なるやろ!」

井原先輩の言葉に誘われるようにして想像してみる。……成程、雰囲気出るかも知れない。

「御堂筋なんか、立っとるだけで怖いわ」
「背ぇでかいからな」
「それだけちゃうわ、纏ってるオーラの問題や」
「そうかぁ?チャリ乗ってへん時はそんな怖ぁないけどな」
「石やん感覚おかしいで」
「まぁ、チャリ乗ってる時の御堂筋は怖いとかいうレベルやないよな……」
「あんなのがお化け屋敷の中でゆっくり追い掛けてきたら、大人でも泣くわ……」
「うわ何それ怖い……」
「……どないしたん、新名さん」

先輩たちの会話の途中から口元に手を当てて黙り込んでしまった私に気付いた石垣先輩が、顔を覗き込みながら声を掛けてくる。

「気分悪いんか?」
「お化け役の御堂筋想像して怖なったんか?」
「いえ、あ、あの」
「何や、ホンマにお化けでも見たような顔して」
「え、いや、お化けっていうか」

頭上にクエスチョンマークを浮かべた先輩たちに「あのですね、」と一拍置き、彼らの後ろを指差す。



さっきから御堂筋くんが聞いてます


この後5人でタピオカドリンク飲んで(御堂筋の分は井原の奢り)、お化け屋敷も行きました。
14.11.19

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