「ハッピー ハロウィーン!」 唯ちゃんの家に誘われて、自転車走らせて向かい、玄関のドアを開けたらコレや。 彼女が着ている黒いワンピースは以前見たことあるやつ。けど、黒いマントを身に纏い、魔女っぽい帽子までかぶっとる。 両手広げて言われた言葉で趣旨は理解したけれど、慣れへんことに上手く反応出来ひんまま立ち尽くす。 「なぁ!何か言うて!寂しい!」 「あー……うん、……うん」 「うん、やのうて!」 ガッと僕の腕を掴んでリアクションを求めるけど、タイミング逃して今更何言うてええかわからん。 「どないしたの、その帽子……」 「押入れから引っ張りだしてん。昔、お楽しみ会で使うたやつ」 「だいぶ昔の話やろ、それ」 靴を脱ぎながら、唯ちゃんの帽子のつばを優しく引っ張った。 頬を一度撫で、手を引いて彼女の部屋に向かう。 「お菓子買うてきたで、魔女っ子はん」 「え、ほんま?やったぁ!」 「ハロウィンやからな」 正直、僕はそんなイベントどうでもええけど、イベント好きな彼女を持つ身としては、無視するわけにもいかんかった。 実際こんな格好までして待っとったし、買うてきて正解やったなと安堵の溜息を吐く。 「ここのケーキ屋さん、唯ちゃん好きやろ」 「あ、好き!」 「ケーキやと崩れそうやったから、プリンにしたで。かぼちゃの」 ハロウィンデザインの器に入っとるプリンを見て、唯ちゃんが好きそうなやつやと思ったのや。 自分が食べたいやつより彼女の好みを優先させるあたり、相当毒されとるなと自嘲する。 プリンの入った箱を唯ちゃんに差し出すと、彼女が手を伸ばす。ちょっとした悪戯心で、箱を僕の頭上まで持ち上げた。 「……くれへんの?」 「欲しい?」 「……欲しい、です」 僕の意図がわからない唯ちゃんは、びくびくと返事をする。 手を引いたまま唯ちゃんの部屋へ入り、閉めた扉に彼女を押し付けた。 「ハロウィンはな、お菓子あげへんと、悪戯されるんやで」 「そう、やね?」 「それって、もはや一種の脅しやと思わへん?」 「……そういうイベントやもん」 「ボクな、お菓子あげる側に、もうちょっとメリットあってもええと思うんよ」 持っていた箱を彼女の手に握らせ、落としてしまわないように僕の手を重ねる。 唯ちゃんの肩口に額を擦り付けると、ぴくんと身体を揺らす。かいらしい。 「なぁ、唯ちゃん」 お菓子あげるから、悪戯させてや 御堂筋の方が魔女コス似合いそう。 14.10.31 |