お正月といっても、特に何かが変わるわけやない。ちょっとした非日常を交えながらも、それすら日常に溶けていく。
元日でも構わず僕はペダルを回すし、非日常といえば、貰ったお年玉で久屋家のみんなに甘いものをお土産に買うくらいのこと。……だったのに。

「なーんで、初詣なんて来なあかんの」
「まぁまぁ、そう言わずにー」
「自転車乗りたい……」
「きっとデローザだってお正月休み欲しいって言ってるよ」
「ボクのデローザはそんなこと言わへん」

初詣なんて、まったくもって興味無い。神様なんか信じてへんし、そもそも自分の力で叶えたい願い事しか持ち合わせてへん。
人が多いのも分かりきっているし、何でわざわざそんな場所に自ら赴かなきゃならないのか、理解に苦しむ。

「オトモダチ誘えばよかったやろ、何でボクなん」
「んー、誘えば来てくれるってわかってたからかな」
「暇人って言いたいん?」
「優しいって言ってるの」
「……キモ」

ネックウォーマーを口元まで引っ張り上げながらそう返すと、唯ちゃんは楽しそうに笑った。新年早々ほんまキモイ。
二人とも阿呆みたいに手が冷たかったから、唯ちゃんが持っていたホッカイロを間に挟んで繋いでいた手が、汗ばんでいるように感じる。

「お参りの後、おみくじ引きたいな」
「好きにしたらァ」
「翔くんも引くんだよ」
「えぇー……」

神様も信じてへんのに、占いなんて尚更信じているわけもない。おみくじとか、生まれてこの方、片手で足りる程しか引いたこと無いし。
それでも結局付き合わされるんやろなと諦めに似た感情を抱きながら、お参りの列に並んだ。まだ三が日やし、流石に混んどる。

「唯ちゃん、何お願いするか決めとんの」
「なーいしょ」
「うわぁ、ウッザ」
「翔くんは決めた?」
「考え中」
「もう順番来ちゃうよー」

そう言われても特に困らない。端から何も考えてへんのや。さっき言った通り、神様への願い事なんてありはせんのやから。
唯ちゃんの願い事は何やろ。彼女のことだから、自分のことではなく周りの幸せとかそういうのを願うんやろうな。その中に、僕も居たりするんやろか。

(そうやったら、うん、……嬉しい、かな)

そこまで考えたところでふと気が変わり、願い事のひとつくらいしておこうかという気分になる。
唯ちゃんが願わないであろう自分のことを、僕が願ってあげようかと、まぁ正月早々、らしくもないことを考えただけやけど。
先にお賽銭を用意しておこうと小銭入れから10円玉を取り出す。すると僕に倣って、唯ちゃんもお財布を取り出した。

「翔くん、5円玉にしないの?」
「何で」
「ご縁がありますように、って」
「……しょーもな」
「べ、別に私が言い出したことじゃないよ!?風習っぽくなってるんだよ!」
「今日日、募金箱にも札が入れられとる時代に、5円て」
「日本の神様はそういうお茶目なシャレを受け入れてくれるって信じてるもん……」
「駄洒落好きな神様に、真面目な願い事してええものか悩むなァ」

そもそも何を言われようと僕の小銭入れには5円玉が無いから、そのまま10円玉を用意する。そして唯ちゃんも結局5円玉のままいくらしい。
順番がまわってきたのでお賽銭を投げ入れ、鈴を鳴らす。二人分の柏手を響かせ、目を閉じ、ゆっくりと願った。自分のことではない分、大事に。
それでも僕が目を開けたとき彼女はまだ願い事の最中で、5円玉には荷が重そうやなと思いながら遠慮がちに背中をぽんと叩いた。
後ろに並んでいた人に会釈をして列を抜け、おみくじを引くために社務所の方へ向かう。少し離していただけで冷えた手を、また繋いで。

「願い事、叶うかな」
「知らん」
「翔くんと同じ願い事だったらいいな。そしたら絶対叶いそう」
「唯ちゃん、自分のことお願いしたん」
「え、違うけど」
「じゃあおんなじちゃうよ」
「……翔くん、私のことお願いしたの?」
「ちゃんと前見て歩いてくださァい」

繋いだままの手を唯ちゃんの後頭部に当て、力任せに前を向かせた。少しバランスを崩した彼女の手を引き寄せてまた歩き出す。

「だいたいボクとおんなじ願い事やったら、唯ちゃんかボク、どっちかしか叶わへんで」
「……んん!?どゆこと!?何願ったの!?」
「言わへんって」


ここからは、内緒の話。
神様がもし本当に存在するのなら、力添えして欲しいことは、ひとつだけ。
どうか、どうか。僕の一番大切なひとが、世界で二番目に幸せでありますように。



一番はいつだって僕のもの

(君が傍に居る限りずっと、な)


御堂筋くん共々、今年もよろしくお願いします。
16.01.07

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