恋人兼幼馴染である唯とは家族ぐるみの付き合いで、たまにではあるけど、どちらかの家に集まって食事会みたいなのを開いたりする。
そしてそういう時は大概、俺たち二人で買い出しに行かされる。若いのが一番食べるんだから、自分らで調達して来いとのご命令や。
受験生対象の放課後の課外が終わった後、そのままその足でスーパーへと向かった。今日のメニューはすき焼きらしい。
俺が押すカートの横に立ってあれこれ吟味している唯を見ていると、幼い頃付き合わされたままごと遊びが進化したみたいな感じがする。

「すき焼きとか久々で嬉しいなー」
「こないだのバーベキューの時もおんなじこと言うてたな」
「そうやっけ?まぁ何でも嬉しいんよ、石垣家とのごはんは」
「オレが居るから?」
「ごはんが豪華になるからー」
「おい」

けらけら楽しそうに笑う唯はそのままレジの方へ足を進める。親から預かったお金で俺が会計を済ませている間に、唯が袋詰めをするのがいつものこと。
2家族集まるだけに量も多くて、一気に3つの荷物が出来上がった。

「いっこ持つ」
「ええよ、別に。おまえ今日カバン重い言うてたやろ」
「もーつー」
「えぇー……、じゃあ、一番軽いのな」
「当然や」
「何で偉そうやねん」

スーパーの出口を抜けると、甘い香りが鼻孔をくすぐった。店内からではなく何で外で、と首を傾げると、唯の「あ」という声が響く。
その声に誘われるまま目を向ければ、出口から少し離れた場所に、たい焼き屋の屋台が出ていた。
そういえば、ここでいつも何かしら屋台が出されていた気がする。焼き鳥だったりクレープだったり、いつもバラバラやけど。

「光太郎、たい焼き」
「オレはたい焼きと違いますよ」
「知っとる。ね、たい焼き食べたい」
「晩飯入らんようなるで」
「そんなヤワな胃袋してへんよー」

まぁ買い食いなんていつもしとることではあるけど、それでも今日は久々の食事会やし、あんまり食べへん方がええ気する。
せやけど唯が一度言い出すと聞かへん奴なのは知っとるし、それを差し置いても、俺はとことん彼女に甘くて、弱い。

「はんぶんこが出来るええ子になら、買うたげるで」
「光太郎が買うてくれるん?」
「預かったお金使ったら、買い食いバレるやろ。ほら、黒?白?」
「白っ!」

目をキラキラさせて答えた唯に苦笑しながら、屋台のおじさんに白あんのたい焼きをひとつ頼んだ。
そしたら何故かベビーカステラを4つおまけに付けてくれて、ちょっと複雑な気持ちでそれを受け取り、唯と顔を見合わせて笑う。
スーパーから家路を辿る途中の河川敷に差し掛かると、唯が小走りで先を行き、振り返って俺に大きく手招きをして見せた。

「ちょっと座って食べてこ?」
「寒ない?」
「平気」
「スカート汚れんようにな」
「光太郎、おかんみたい」
「彼氏ですけど」
「……えへへ」
「何なん……、どっちから食べる?」
「あったかい方からがええなぁ」

紙袋の外から確かめるとたい焼きの方が温かかったので、そっちから食べることにした。半分にして唯に渡すと、へらっとした笑顔で受け取る。

「昔、ここでよう遊んだなぁ」
「そうやなぁ。唯の自転車練習にも、ここで付き合わされたっけ」
「いきなり手ェ離されてずたぼろにされたやつなっ」
「そういうもんやろー、チャリの練習なんて」

それにしたって、と唇尖らせた唯の横顔は、昔から全然変わらない。変わったとすれば、唇に少し色が乗ってるくらいやろか。

「これも懐かしいなぁ」
「何?どれ?」
「まだ作れるやろか」
「聞いて、オレの話」
「光太郎はぶきっちょやから、作られへんかったねぇ」

そう言って、唯はシロツメクサをひとつ摘んで見せた。そういえば昔一緒に作って、でも俺は相当不器用で、なかなか形にならへんかった。
懐かしんでいる俺の横で唯はぶちぶちとシロツメクサを摘んで冠を作り始めている。……まだおやつ残っとるんやけど。
溜息吐いてベビーカステラを半分かじり、残った半分を彼女の口元に運んだ。なんや餌付けでもしとる気分。
冠を作るために摘まれる花を見ていると、花の周りを囲むように生えているクローバーが目に入る。

「……オレさぁ、シロツメクサとクローバーが同じモンって、全然気付かへんかったんよなぁ」
「あー、わかるかも。クローバーの形が印象強すぎて、これに花があるって感じしいひんのよね。もうこれだけで一種の植物みたいな」
「そうそう。初めて知ったときびっくりしたわ」

俺はいつだって、茎が編まれる唯の指先と、出来上がった花冠ばかりを見て、地面のクローバーの存在は気にも留めていなかった。

「うちが冠作ってる間に、光太郎は四つ葉のクローバー探したら?」
「見つけようとすると見つからへん気ィするけどなぁ」
「四つ葉見つけたら、うちが光太郎に七つ葉クローバーあげるで」
「七つ葉!?言うか、そんなん持ってんのやったら四つ葉要らんやろ!?」
「持ってへんよ、作ったげるの」
「え、手作り……?意味わからん……」
「四つ葉見つけたら教えてあげる」
「えぇー……絶対教える気ィあらへん、この子……」

そう言いながらも視線はクローバーの大群に向けられるし、指先はそれを掻き分けてはひとつひとつ選別していく。
まさか葉っぱ千切って七つ葉作る気ちゃうやろなと思いながら大量の三つ葉を指で避ける。

「四つ葉見つからへんかったら、家まで花冠付けて帰ろうね」
「なにその罰ゲーム」
「昔は喜んで付けてくれたやん」
「いや、今は無理やろ。学ランに花冠てお前」
「かいらしいで」
「アホか、明日ご近所さんの話題独占やわ。意地でも見つけたる、四つ葉」
「がんばれー。ギネス並みに凄いの見つけてくれてもええで」
「いくつ葉クローバーなん」
「56葉」
「無理」



探す前に見つけてた探し物

(しあわせをもたらすクローバーを探している今が、しあわせなんだと知る)


七つ葉クローバーには、「無限の幸福」という花言葉があります。
15.06.07

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