「御堂筋くん、ちょっと図書室寄ってもええ?」
「ん、ええよ」

試験前が好きになったのは、御堂筋くんと付き合うようになってからのこと。普段は部活漬けの彼と、一緒に帰れる貴重な数日間だ。
お互いの部活が終わる時間が同じときは一緒に帰ることもあるけれど、御堂筋くんは遅くまで残ってることが多いから、なかなか一緒には帰られへん。

「何か借りるん」
「うん、朝読書の本読み終わったから、返してから続き借りよう思て」
「ふーん、ボクも何か借りよかな」
「御堂筋くんは、いつも何読んでるん?」
「家にある本、適当に持ってきて読んどる」

図書室へ着き扉を開けると、端の机に居た二人と私の背後に居る御堂筋くんが同時に「うわ」と声を上げた。
その声に反応し、こちらに背中を向けて座っていた人が振り向く。

「あ、御堂筋やん。何や久々やなぁ」
「……図書室では静かにしてくださァい」
「御堂筋くんのお友達?」
「いや、知らん人やからほっとき」
「おいっ!」
「新名さん、本返しといで」
「う、うん」

御堂筋くんに声掛けはったひと、見たことある気がする。御堂筋くんの部活の先輩やったやろか。
カウンターで本を返却し、シリーズの続きが置いてある棚へ向かう。しかし、以前あったはずの場所にその本が見当たらない。
図書室は月末にいつも蔵書整理があって、どうやらその時に移動させられてしまったらしい。
作家名を頼りに辿っていくと、棚の一番上に目当ての本を見つけた。おぉ、あんなところに。なんてチビに優しくない。
御堂筋くんに取ってもらおうかと彼を振り返ると、先輩二人と何か喋っているようやった。
邪魔したらあかんよな、もう少し待とうかと思っていると、背後から腕が伸びて来て、私が手を伸ばしかけていた本が抜き取られる。

「これか?」
「あ、ありがとうございます」

さっき、御堂筋くん見て声上げたひとや。御堂筋くんほどやないけど、背が高い。
本を受け取り、先程返した本の続きであることを確認する。再度お礼を言うと、「どういたしまして」と返される。

「そのシリーズええよな、オレも読んだで」
「ほんまですか!面白いですよね、これ。私、この作家さん好きなんですー」
「あ、じゃあこっちも読んだ?」
「読みましたっ、その途中に出てくる仕掛けが凄」
「新名さん、辻くぅん?」
「おわっ」

辻くんと呼ばれた先輩の肩に、御堂筋くんが手を置きながら声を掛ける。机の方に居る先輩が何か言うてはるけれど、お話、終わったんやろか。

「何しとんの」
「いや、オレ、辞書取りに来てんけど」
「上の方に本あったの、取ってくれはったんよ」
「……あっそ。手間掛けさせて堪忍なァ、辻くん。あとはボクが面倒見るから、受験生様はお勉強に集中してええで」

そう言って先輩の背中をぽんと押す。辞書の棚がある方へ押しているあたり、御堂筋くんらしいというか何というか。
ぐるんと私の方を向くと、頭の上に手のひらを置かれ、私の手元の本に目線を遣ったまま言葉を紡ぐ。

「届かんのやったらボク呼べば良かったやろ」
「あ、えと、先輩とお話しとったから……、邪魔したらあかんかなって」
「阿呆か、ボクはキミに付き合うてココ来とんのや。あんなのとお喋りするために来たんちゃうで」
「おい、あんなのって言うなや、あんなのって!」

声を荒げた先輩を一瞥して溜息を吐いた御堂筋くんに、私のバッグの紐をくいくいと引っ張られる。

「借りるのそれだけやったら、行こか。早よ出な、うるさくてかなわんわ」
「え、あ、うん。御堂筋くん、何も借りひんの?」
「今日は要らん」

紐を引っ張られるままにカウンターの方へ脚を向ける。一度振り返り先輩方に頭を下げると、手をあげてこたえてくれた先輩に「待って」と言われた。
その声に、御堂筋くんが眉を顰めて振り返り、面倒そうに口を開く。

「何ィ?早よ帰らせぇや」
「いや、お前ちゃうわ」
「ハァ?」
「新名さん」
「はいっ!?」
「御堂筋のこと、よろしく頼むな」

ひどく優しい表情と声で、思いもよらない言葉を掛けられて困惑してしまった。
私の隣で御堂筋くんは大袈裟に溜息を吐いて、べぇっと舌を出して見せる。

「キモッ、先輩ヅラほんまキモイ」
「先輩やもーん」
「18の男が、もんとか言うなや」
「あ、あのっ」

思わず出た声は上擦ってしまった。けど、頼まれたのだから応えなくてはと思い、その感情のままに言葉を滑らせる。

「がんばりますのでっ、お任せください!…………、あれ、何か違、う……?」

一瞬の間を空けて、先輩方に揃って吹き出され、御堂筋くんはと言えばきょとんとした表情を浮かべている。
そしてすぐ呆れたように眉根を寄せ、「阿呆やな」と呟かれた。

「ふはっ、うんうん、任せるわ。ええ子やな、新名さん。なぁ、御堂筋」
「……キミに言われんでも知っとる」
「おーおー、惚気ですかー」
「ウッザ、井原くんのそういうとこほんまウザイ」
「お前オレに対しての扱い酷ないか!?」
「やかましわ、お口チャックしてお勉強に集中しぃ。行くで、新名さん」
「う、うん」

手をひらひら振ってくれはる先輩たちに頭を下げ、本の貸出手続きを済ませて図書室を後にする。
隣で未だにぶつくさ文句を言う御堂筋くんを見て、思わず小さな笑みが漏れる。だって、こんな彼を見るのは初めてだ。

「賑やかな先輩たちやったね」
「素直にうるさいって言うてええで」
「そんなことないよ、あんな先輩たちが居てくれはったら、部活も楽しかったんやない?」
「……別に、部活が楽しいのは自転車のおかげや。あんなザクら、関係無いわ」
「そうかなぁ」
「早よ帰るで。ボクん家で勉強すんのやろ」
「うん!」



君の世界を彩り象るもの

(気付かないだけで沢山あること、どうやったら伝わるだろうか)


自転車降りた御堂筋にはちょっと強気になる先輩ズ。
15.01.23

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