あれからしばらく、べたべたひっついてくる唯ちゃんと適当にじゃれ合い、物質的な誕生日プレゼントも渡された。
受け取ったデローザの冬用グローブをはめて感触を確かめていると、唯ちゃんが自分の両手をぱんっと合わせて音を鳴らす。

「なん」
「じゃあ行こっか、お墓参り!」
「は、今日行くん?」
「思い立ったが吉日って言うでしょ」
「キミもボクも、思い立ったんは今日やないやろ」
「いいの、気持ちの問題なの」

そう言ってピンクのコートを羽織った唯ちゃんに倣い、溜息吐きながら僕も上着を羽織る。
この寒いのに何でバスやなくてミニベロで来たんやろと思とったけど、こういうことかと合点がいった。
霊園までの道のりはそこまで距離も無ければ急な坂も無い。僕が少し速度落として走れば丁度ええかなと頭の中で走り方を組み立てる。

「唯ちゃん、自転車用の手袋持っとんの。普通のやと今日ちょっと寒いで」
「えへへー」
「……なん、キモイ」
「じゃーん!」

唯ちゃんが鞄の中から、僕にくれたものと同じ、デローザのロゴが付いた手袋を掲げて見せた。

「Sサイズもあったから、買っちゃった。お揃いっ」

そう言って、にこにこしながら手袋をはめてはまた僕に手のひら広げて掲げて見せる。
……可愛いとか、せやったら尚更特別大事にしようとか、なんやいろいろ思ったけど、口にはせずに飲み込んだ。



冬はとことん自転車に向いてない季節やなと思う。目に風が当たるたび涙出るし、頬も耳も冷たいし、少しでも防寒を怠れば身体の芯まで冷える。
そうなれば家でローラー回したり、春先に向けての身体作りをするしかなくて、冬は退屈であんまり好きやなかった。寒いの苦手やし。
けど、唯ちゃんが傍に居るようになってからは、退屈せぇへんし、ほかほかするし、まぁ冬も悪いもんやないなと思えるようになってきた。

「それでも寒いもんは寒いんよなぁ……」
「え、なぁにー?」
「なぁんも。足元気ィ付けや、転ぶで」

近くの有料駐輪場に自転車停めた後、散々悩んで買った仏花を持って、霊園に続く階段を彼女は僕より数段早くとんとんと上っていく。
はしゃいどるみたいに見えるけど、緊張しとるんやろなと思う。僕は一段飛ばしで上り唯ちゃんに追い付き、彼女の手から仏花を奪った。

「ん?」
「そない強く握ったら、花が折れてまうで」
「う……」
「何も緊張することあらへんよ。ただ手ぇ合わせてくれたらええのや」
「で、でもほら、挨拶とか自己紹介とか、近況報告とか!」
「別に今更。キミのことなんて散々話しと、る……」

完璧な失言。緊張ほぐしたろと思てぺらぺら喋ったんが仇となった。慌ててネックウォーマーで口元覆ったけど、そんなものは当然意味も無く。
ちらりと視線を落とすと予想通りだらしなく口元緩めた唯ちゃんが居て、小さく舌打ちして再度階段を一段飛ばしで上る。

「わぁっ、待って、早い!」
「がんばって走ったらァ?正月太りが解消されてええんちゃうの」
「ひどい!もうちゃんと戻したよ!」
「太ってたんかい」

暗い雰囲気になる、なんて。何を勝手に不安がっていたのやろかと苦笑する。
暗かったり、張り詰めていたりする空気を、いい意味で緩めてくれるような子やから、好きになったというのに。



「唯ちゃん、これそっち立てて」
「はーい」

花を替え、持ってきたロウソクに火を付けたげると、唯ちゃんがお線香に火を移す。
一連の行為と香りに対する苦手意識が、彼女が一緒に居るだけで和らぐんやから、僕も落ちたものやなぁと呆れる。

「いい天気で良かったね」
「ほやね」

耳あてと、ぐるぐる巻きにしたマフラーを外した唯ちゃんが墓石の前に跪く。
僕も同じように跪くと、彼女は一度僕を見て微笑んで、それから前を向くと「こんにちは」と言い、手を合わせて目を閉じた。
僕はといえば、今月は二回目やな、と話し掛けたきり、彼女が隣に居る以上特に話すこともなくて、ぼんやりと煙が昇るのを見つめた。
隣に視線を遣ると、唯ちゃんは未だに手を合わせていた。何をそんなに熱心に喋っているのやら。
こんな真剣な横顔を見るのは新鮮やなとまじまじ観察していると、彼女が目を開いてばっちりと視線が合う。

「え、な、何?」
「……べぇつに。キミのお喋りは相変わらず長いなァ思て見とっただけや」
「えへへ、話し出したら止まらなくて。ごめんね、待たせちゃったね」
「いや、ええよ。……人と話すんが好きなひとやったから、喜んどると思うわ」
「そっか。だといいなぁ」

そう言ってふわっと笑った唯ちゃんに、思わず手が伸びて彼女の髪をゆっくり撫でた。
彼女の手からマフラーを奪い、風が入らないように丁寧に巻いてあげていると、少し隠れた口元からやわらかい声が漏れる。

「私ね、翔くんが好きだよ」
「……何やの、急に」
「だからね、翔くんにはいつだって、ずっといっぱい幸せでいてほしいの。……そしてね」

唯ちゃんのマフラーに添えたままの僕の手に、彼女の手が重ねられる。長い間冷たい空気に晒されていた手のひらは、ひどく冷たい。

「そんなふうに翔くんを幸せにできるのが、私だったらいいなって思うんだよ」

彼女の両手を、今度は僕が包む。こんな冷たいのにあたたかいとか、キモイ。どうかしとる。

「……唯ちゃん、今日はほんま、僕の台詞ことごとく奪っていくなぁ」
「え?」
「今の、僕の台詞やて言うとるんよ。ほら、帰るで。これ以上身体冷やしたらあかんわ、風邪ひくで」
「ね、ねぇ、今の!今のちゃんと言って!」
「風、邪、ひ、く、で」
「違う!」
「こないな場所でよう言わんわ、阿呆ちゃう」





デローザの小物は、お揃いにするととても可愛いと思うんですよ。
15.01.31

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テーマ「人外ファンタジー」
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