その唇を独占する(荒北)

※大学生、喫煙者荒北
微エロというかベロちゅー表現があります
━━━━━━━━━━

カチッと言う音がして、ちりちりと乾いたものが焼ける音。
ついでふぅーっと煙を吐き出すその姿は、いい加減見慣れてきた恋人の喫煙シーン。
二十歳を越えたその日、私の恋人である荒北はタバコを吸うようになった。
自転車にのる大事な体にそんな有害物質を取り込んでいいのか、と聞いたことがあるが、荒北はいつものようにニヤリと笑い、こんなもんで俺の走りが変わると思ってんのォ?なんて得意げに言っていた。
正直なところ多少なりとも心肺機能が落ちるだろうと思っていたのだが、同じ部に所属する金城くんに聞いても全くそんなことはないらしい。
まぁどうせこの男のことだから、心肺機能が低下しないように人知れずペダルを回しているのだろう。人の三倍練習し続けてきた荒北は、今でも毎日毎日飽きずにペダルを回し続けている。福富くん、荒北は立派にロードレーサーやってるよ。

そのおかげで出掛ける時間は普通の恋人より少ないが、そんなこと高校の時からわかっているし、本人がやりたくてやっていることの邪魔をしてまで一緒にいたいよ、さみしいよなんて考えるだけでプライドが傷ついた気がする。
寂しくないわけではないが、そのことを荒北が気にしているのも知っているし、時間が空いたときはどこかへ出掛けるのに付き合ってくれるし、高校時代とは違って、家に帰ればそこへ荒北も帰ってくる。会えない日はないのだ。

それだけでも高校の時より随分マシに思える。しかし人間とは欲張りなもので、そんな環境になれてくると少しずつ欲が出てくる。今だって同じ部屋にいるのに、私を差し置いて荒北の唇を奪うあいつが正直憎らしい。
じっとりとタバコを満喫する姿を眺めていると、視線に気づいた荒北がこちらを見て目を細める。

「ナァニィ?」

独特なその口調が、今は少し腹立たしかった。
その質問に答えることなく、腰掛けていたソファから立ち上がり、換気扇の下にいる荒北の傍へ。どうしたのだと言いたげな視線をよこすその口元に加えられた存在を指でつまんでシンクへ投げた。先程洗い物をしたばかりなので、シンクはまだ濡れている。これで火事にはならないだろう。

「ちょ、まだ吸い始めたばっか!」

不満と私の行動に対する不可解さを顔に浮かべる荒北の手を掴み引っ張ると抵抗することなくついてきた。そのままソファに無理やり座らせると、ぼふりとクッションが鳴く。眉をしかめてこちらを見上げる荒北を見下ろしながら、その申し訳程度に存在している黒目と黒目から養分を奪って成長したのかと思う下まつ毛を眺めてみる。あーくそ、かっこいいな。

「…もしかして、怒ってんのォ?」

不満げだった表情が伺うようなものになる。口も悪いし気も短いが、なんだかんだ喧嘩をしたとき先に謝るのは荒北の方だ。今回のこれは別に誰が悪いというわけではない、ただの私の個人的な嫉妬なのだが、そんなこととは知らない荒北はそろりと私の腰に手を回す。細いくせに筋肉のついた体。かたいその肩を力を込めて押すと、荒北の体が背もたれに押し付けられる。そのままその膝の上に乗ってやると、荒北は目を細めて私を見た。

「ねぇ、知ってる?」

薄い唇をなぞりながらそう言うと、荒北の喉がゴクリと鳴る。じんわりと熱を帯び始めた瞳が、獣の色を映していく。腰と太ももに、骨ばった手が這うのが分かった。

「…なんのことォ?」

私の言葉にもうさして興味もないくせに、こちらを見上げて首を傾げる荒北の頬をなでると、鋭い瞳がきゅうと細まる。この顔が好きだ。猫のような仕草をするくせに、ひどく色気を孕んだ表情。

「煙草を吸う人は口が寂しいらしいよ」

小さくそう吐き出すと、返事を聞く前に目の前の唇に噛み付いた。普段は荒北に好き勝手にされるが、今日は私が思うままに、赤い舌を絡めて、吸い上げ、歯列をなぞる。上顎には男女関係なく性感帯があるそうだ。そんなことを思い出しながら、深く深く貪る。つ、と荒北の口端から唾液が伝う。ああ、エロいな…。時折漏れるくぐもった声と、背中や腰、太ももを撫で回す手に下腹が疼く。

「…ン…ッは…権兵衛チャァン…」

「そんな声出したってダメ。」

「なんでそんな怒ってるわけェ?」

「…別に。ただちょっと、口寂しかっただけ」

「…フーン…」

「…あんた今日から禁煙ね」

「えッ…」

「その間私が…」


その唇を、独占する

(煙にまで嫉妬)




その唇が苦い味を忘れるまで

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -