「ドリさーん」
「お、どうした?」
「いえ、姿が見えたもんですからつい」
「 はは、そうか」


そう言ってドリさんは私に手招きをして、自分の隣をぽんぽんと叩いた。座れ、ってことかな。そう思って、すとんとドリさんの横に座った。ドリさんを見たのはもう練習が終わった後で、クラブハウスの廊下のベンチに腰掛けていた彼を見て勝手に口が動いてしまっていたのだ。"ドリさん"と口にするだけでもどきどきする。彼の名前を心の中で唱えるだけ、たったそれだけのことでも。


「今日も大変そうだったな」
「え、あー…まあ ふふ」
「監督が無理言ってるんだろ」
「んー…まあ、そんな感じです」


私が苦笑いとともにそう零すと、ドリさんの大きな右手が私の頭をぽんぽんと軽く叩いた。ドリさんには私が勝手に片想いしているだけだ。ドリさんのなにもかもが好き。大きな手、優しい性格、ピッチに立っている時のたくましい表情。でもきっと、彼は私のことを妹としか見ていないんだろう。いつだってこうやって私を撫でたりしてくれるけど、それはきっと恋愛感情ではないのだろう。ドリさんからそういった素振りをされたこともないし。私とドリさんの年齢もかなり離れてるし。


「…監督のお世話も大変だろうけど、俺達のサポートも忘れずにやってくれよ?」
「あ、はいもちろんです!任せてください」
「出来れば、俺一人だけのサポートをしてくれたらいいんだけどな」
「え、それってどういう、」


そう言いつつ顔を上げると、ものすごく真剣な顔をしたドリさんがそこにいて、なんだか世界が一瞬だけ止まったような不思議な感覚に陥った。だってこんな真剣な表情、サッカーをやっている彼ぐらいからしか想像出来るもんじゃない。胸が高鳴る。ドリさんから目が離せない。ああもう、なんでこの人はこういうことを言えてしまうんだろう。私の気持ちを知っててわざとやっているんだろうか。意外に人をからかうことが好きな彼のことなら、有り得るかもしれない。彼が私の名前を小さく呼んで、今度は眉を寄せて悲しそうに笑ってみせた。すこしだけ、愛おしそうな表情だなあなんて思ったのは内緒。




勘違いから生まれるもの
(これが勘違いじゃなかったらいいのに)




(110505) 

《勘違いから生まれるもの》
:うろこ様


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