ほとんど頭を介さず口走ってしまったので、自分のことながら戸惑いが隠せない。
え?俺デートすんの?ヅラと?


【ラブフォー・タイムセール!8】

きっかり午前10時5分前に、桂は万事屋にやってきた。何だかそわそわと落ち着きなく、新八が茶を出してもあっお構い無くとか言ってソファに座ったり立ち上がったり。こいつが電波と称される所以はその妄想の突拍子のなさもさることながら、どっかりと落ち着いた風情で突然予測不能な動きをするからだ。それがこんなに分かりやすくきょろきょろと浮わついた様は、長い付き合いでもひょっとしたら初めて見た。それは念願の肉球に対する期待からなのか、今更すぎる俺との初デートのせいなのか、残念ながらちょっとよく分からないが。

「ぎっ、銀時」
「おっ、おう。じゃァ行くぞ」

着替えて出てきた俺を見つけて、桂はガタッとソファから腰を浮かせた。神楽にヒューヒューと囃されながら逃げるように桂を連れ出して、程々に混んだ電車に揺られ、俺たちはサファリパークまでやってきた。

来るんじゃなかった。
しょっぱなから後悔したのはサファリパークの入り口にちょこっと立ってる顔出し看板。ライオンとトラが仲良くピンクの肉球を見せて「サファリパークへようこそ!」とかやってるのを、よりにもよってあれをやるぞ銀時!と桂が手を引きやがったのだ。蹴飛ばしたが。
顔出し看板なんて目を離したスキに1人でやってることはあっても俺を巻き込もうとしたことなんて無かったくせに、いま桂はこっちがちょっとビックリするほどはしゃいでいる。
ゲートをくぐったらもうすごくて、銀時銀時と桂は俺を呼びっぱなしだ。

肉球目当てのふれあいゾーンとやらに(桂が)長居をしていたせいで、サファリゾーンのバスは最終便だった。結局ふれあいゾーンにいたのはウサギとかカピバラとかで肉球がない奴もいたのだが、カピバラのあの間延びした顔と小さな肉球に桂は「かっカピバラ・・・殿・・・!」と新たな扉を開かされていた。もう俺は最近コイツがドコにいこうとしているのか本当にわからない。
バスに揺られて大草原が眼前に広がる。もうこのあたりで俺のHPはほぼゼロで、近づいてくるライオンに興奮してバスの檻をガタガタ揺らし添乗員に怒られる桂を、「怒られちゃった〜」と目線でこっちを巻き込む桂を、「馬鹿だろお前馬鹿だろ」と沈めることしかできなかった。

1人で行くと食われる仕組みなんかじゃなかったことについて、桂は何も言わなかった。こいつは昔からそうで、俺の苦し紛れの言い訳に騙されたふりで乗ってくれる。
疲れた風情で隣の桂を横目で見やる。大人しくバスの中から熱心に大型肉食獣を眺めている桂の横顔は見慣れすぎていて、ゲシュタルト崩壊でも起こすのかたまに全然知らない奴のようにも見える。それに戸惑う次の瞬間には「あっ見えた!今見えたぞ銀時!」なんて女のパンチラでも見たようなテンションで肉球の目撃報告をしてくるので、ああ桂だなと思えるのだが。

頭の回転の早い奴だ。電波なようで空気は読める。ノリもいい。ホントは長谷川さんよりも、こいつに洗いざらい全部暴露して協力してもらったほうが話は早かったんだと思う。
だけどそれをしないのは、多分、俺は桂の「告白」を聞いてみたかった。
だって桂だ。他の奴ならいざ知らず、俺たちの間には色んなことがありすぎて、その屍の山から山へかける言葉が「好きだ」とか、「愛してる」なんて、そんな綺麗な言葉になるとは思えなかった。
色々あるだろ。恨み言も、泣き言も。桂がそれでもこんな俺がいいと言うのなら、この際聞いてみたかった。お前はどうしたいの。攘夷攘夷と言ってるお前は、やっぱり戻りたいのか。あの頃、俺たちが護るべきひとを喪う前の、あの頃に。

西日に照らされて、真っ赤に染まった車内で桂の隣に座っている。その非現実的な空間に、それでも桂がいることだけが俺にとってはリアルで、相変わらず熱心に銀時銀時と実況中継をしてくれる桂の顔をずっと眺めていた。



「リーダー達への土産は何がいいかな」
「旅行じゃねーんだぞ。別にいいだろ」
「いいではないか。あっ見ろ銀時!肉球饅頭などカワイイな!!」
「オメーが欲しいだけだろソレ!」

バスを降りて、桂は名残惜しそうながらも相変わらずの上機嫌だ。トイレに寄ったついでのみやげもの屋で楽しそうに万事屋への土産を選んでいる。
先に外に出ていたら、日暮れがたっぷりと園内に落ちていて、人恋しさを誘われる。閉園の音楽が流れてくるころ会計を済ませて店を出てきた桂を、何だかずっと待ちぼうけていたような気分で迎えていた。
待っていた俺を見つけた桂は、「銀時」と名前を呼んで、昔から変わらない瞳で真っ直ぐ俺のところにやってきた。人恋しい音楽のせいかわからないが、その瞬間、「銀時」と名前を呼ばれたその瞬間、ぶわっと昔の桂の顔が今の桂に重なって、夕陽に染まった真っ赤な桂が何故だか無性に愛おしい。震えそうな声で帰るぞ、と言ったら、ああ、と、とても綺麗に微笑った。

「・・・ヅラ、帰ぇーるぞ」
「ああ。帰ろう、銀時」


ピコーン♪

『おめでとう!!ハッピーエンドだヨ!ヅラ子チャンとヨロシクやりやがれよコノヤロウ!
=GAME CLEAR!=』


「・・・エッ?」
「む、何だ銀時こんなところまでゲームなど持って来おって。廃人か貴様」

もはや桂を落とさなきゃならないことすら忘れてたところに、突然のエンドロール。まさかの展開に何が何だかわからない。
見れば画面を覗きこんできた桂のリボンは解けていて、羽織もいつもの無地に戻っている。

「・・・ヅラ、お前さっき何か言った?」
「ヅラじゃない桂だ。貴様こんなところまでゲームを」
「いやソレじゃなくて。ピコーンて鳴る前に何か・・・銀さん好きー、とか・・・」
「・・・・・・銀時、糖尿とは幻聴の症状も出るのか」

引くわー、みたいな桂の頭を叩いたら、残った可能性はひとつしかなかった。帰るぞ、と言った俺に応えたアレだけだ。
何であんなもんが。いつも言ってることじゃねーか。惚れたも腫れたもない「帰ろう」が何で告白扱いされるんだ。

「銀時、いつまでゲームいじくってるつもりだ。帰るんだろう」
「お、おお」
「リーダー達が待っているぞ」

そう言った桂の顔はまたあの綺麗な微笑だったので、俺は息を止めた。世界もそのまま切り取られた。沈んでいく陽に照らされて、それでも日の出に向かうような桂の微笑みのかたちのままに。
ねぇ、ひょっとして、「帰ろう」って言ってくれたの。俺と一緒に、おんなじところに。また・・・。
気づいたらイキナリ視界がぼやけて、あ、やばい、泣きそう、と慌てて下を向いた。
悪かった。桂。あの頃に戻りたいのかなんて、見くびるような真似をした。お前は、攘夷攘夷言う癖に1度も俺を本気で連れていこうとはしなかったのにな。

「・・・悪かったよ」
「何がだ。あああの顔出し看板付き合ってくれなかったことか?今から撮ってもいいんだぞ?ん?あっあの親子連れにキャメラ頼むか」
「オメーそこまだ諦めてなかったのかよォォォ!!」







そうしてリボンのついていた俺の世界は元通りになった。
万事屋の額の裏には、ムカつく笑顔のトラと死んだ目のライオンが笑う写真が加わった。きっとこれからも増えていくのだろう。ここに帰ってくる奴が、増えたぶんだけ。















お付き合い有難うございました!



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