よく考えたら、長年ずっと一緒にいてさえ告白イベントなんざ生じなかったのだ。「お前は凄いな」「さすがは銀時」なんて、コイツの好感度はいつでもMAXだったはずなのに。
それを一朝一夕でどうにかしろなんて、下手したらもっかいマダオチャンの好感度MAXにするほうが余程簡単だ。
それでも意地になって桂に告白させようとしているのは、・・・やはり好感度MAXを目の前にちらつかされると食い付かずにいられない、馬鹿な男の性だ・・・ということにしておきたい。

【ラブフォー・タイムセール!7】


結局その日は桂とゲームをしていたら夜になってしまった。卵かけご飯の夕食を神楽と3人でもそもそと食べ、洗い物をし終えたら桂と神楽がなりきりゴッコをして遊んでいた。今日は探偵が大物政治家とダーティなやりとりをしている。こないだは重婚的内縁がバレた女と一方の相手の妻だった。どこでそんな設定が練られているのか、こいつらは視線をひとつ交わしただけで当然のように設定を共有する。神楽が桂の電波を受信してしまっていやしないかと、日々ヒロインの身を案ずる俺だ。
スキャンダルをネタに探偵が政治家の協力を取り付けているのを右耳から流しつつテレビをぼんやり見ていたら、ストーリーに一区切りついたらしい桂がさてと言って立ち上がった。

「長居をしてしまったな。そろそろ帰るとしよう」
「おー帰れ帰れ」
「銀ちゃんだから銀ちゃんはマダオヨ。レディが夜遅くに帰るって言ったら雨止まねぇし泊まってけよって引き留めるか紳士に送るかどっちかネ」
「晴れてんだから一択だろうが」

件のカレシとやらを連れてきたり、思春期を感じさせてお父さん達を焦らせる年頃なのだが、一体どこでそんな言い回しを覚えてくんの。寺子屋でハーレクインでも回し読みしてんのか。ジャンプなら俺らもやったけど。
大体ヅラ送ってどーすんだと思っ・・・たところで、神楽は今の桂もといヅラ子チャンを女として扱っていることに気がついた。
そうだ。「オンナノコは家まで送る」のだ。そういえば。そんなもんが必要な女が思い付かないのですっかり忘れていたが。まあ、それなら桂も明らかに不要の部類だ。
それでも今天啓のように「それだ!」と膝を打っているのは、まさにそれこそ俺が桂にしてこなかったことだからだ。
長年の付き合いでも告白イベントなんざ発生しなかった。それを一朝一夕でどうにかしろってんだから、俺たちの何かが変わらなければならない筈だ。今まで俺が桂と・・・「男」の桂とはしてこなかったことに、その答えがあるんじゃないのか。例えば、帰りを紳士に送るとか、初々しいデートとか、甘い口説き文句とか、そういう男女の甘酸っぱい恋愛プロセスなんか。
何て言うの、とにかく、思春期に死線ギリギリで肉体関係持っちゃって今もズルズル曖昧な感じに雪崩れこんでるとかじゃないやつ。

「お、おう・・・じゃァ行くぞヅラ」
「何だどうしたんだ銀時、お前らしくもない」
「ウルセーなコンビニ行くついでだよついで」


ひんやりとした風が首筋を震わせる。
昼間はまだまだ暖かいが、ここのところ朝晩冷え込むようになった。
じゃりじゃりと拙い舗装の道を、隣を歩く桂は上機嫌のようで、外れた調子で鼻歌など歌っている。

「・・・ヅラ、寒くない」
「ああ。寒いのか銀時」
「イヤ・・・オマエ寒がりだったじゃん」

寒い、と返されても、だからといって何か羽織るものをかけてやれるとかではないのだが。俺の羽織を・・・なんてベルト外しだしたら只の変態になることはわかっている。
まあそれでも、そこの自販機でホットコーヒーくらいは渡してやるつもりだった。
手をあっためさせて、お前だけ温かくなってんなよなんて口実つくって指を滑り込ませてやればいいのか。
恥ずかしい。桂相手にこんな少女漫画みたいなマネ・・・と思えば叫んで走り出したくなる。
そりゃ、女相手の口説き文句ならいくらでも出る。このトシだ、恥ずかしくもない。でもいくらリボン付けてるからっていつもの桂に、よりにもよって桂に・・・!
けれどそうも言っていられない。俺たちは変わらなければいけないのだ。少なくとも、設定上だけでも「女」の桂をその気にさせなければならない。
よし次の自販機で、あそこのアレにしよう、別に桂に声なんかかけなくていいんだ、無言で缶コーヒーだけ買えばいい、そしたらコイツだっていくらなんでも立ち止まるはず、

「銀時、ちょっとそこのコンビニ寄っていいか。厠借りたい」
「トイレは済ませてから出てこいよ!!」
「突然催しちゃったらしょうがないだろう。お前もコンビニに行くついでだって言ってただろうが」

ホントについでなワケあるかこのバカ!!オマエホントに幼馴染!?ツンデレキャラの俺の属性くらい見抜きやがれってんだ。
桂はしれっと自販機をスルーして向かいのロースンに入り込み厠を借りていった。
予定は狂ったが、まあ、コンビニにも缶コーヒーは置いている。俺は桂が厠にいる間に微糖と書かれた缶コーヒーと口実のためのチョコレートを買って桂を待った。
暫くして、コンビニから出てきた桂の手には。

「やっぱ厠借りるだけって何か悪い気がするからな・・・あっ何だ銀時お前も買ってたのか」

選ばれたのは綾鷲でしたァァアアア!!?
温かい小さなペットボトルを両手で包んで、はーあったかいなぞとのうのうとのたまっている。確かに俺の計画通り桂の手はあったまったが、俺の手も想定外に既に暖まってしまった。ガラスのハートは冷えたけどな。
くそ、これじゃいつも通りだ。送っていったからって何もないんじゃどうしようもない。何かないか、何か・・・。

越してから何度か来ている桂の家の前、エリザベス様は帰っているのか家の電気はついている。引き戸の玄関に手をかけて、桂が振り向いた。

「ありがとう銀時。茶でも飲んでいくか?・・・ああコーヒー買ってたんだっけな」
「ん、・・・。」
「・・・?どうしたんだ今日はホントに」
「いっ、いいいいや何でもねーよホントに」
「そうか?・・・ではな銀時、おやすみ」


「・・・ヅラ!」
「ヅラじゃないヅラ子だ」
「明日ヒマ?ヒマだよな。じゃァその・・・なんだアレだ・・・でっデートすっから」
「・・・銀時、貴様何を企んでいる」
「ちげーよ!あああアレだホラ、お前サファリパークチャリで行って失敗したろ!?今度は一緒に行ってやるから!アレ1人だと喰われる仕組みだから!!」
「マジでか!そんな仕組みが・・・ありがとう銀時!これで俺もあの大きな肉球に!!」
「そ、そーだよだから明日10時にウチな」
「・・・それってデート?」
「だからそう言ってんだろーがァァアアア!!」














 




























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