誘い合わせるワケではないのだが、たまに俺は万事屋に遊びに来た桂と呑みに行く。ちゃんとした居酒屋よりは、もっとテキトーな屋台のほうが多いのだが。まあ、俺とコイツのことなので、今更店選びに遣う気なんてない。
その日も焼き鳥の香ばしい煙にもうもうと揉まれながらちびちびと二人して酒を飲んでいた。ジジイが屋台なんてやると演歌が古いラジカセから流れてきたりして、それはそれでまたいいのだが、まだ30代半ばといったここの髭面店主はラジオを流している。屋台のラジオから若い女の声が流れてくるのが、何だか聴きなれない。

『・・・でしたー。さて、10時になりましたここからは花束のように歌を贈ろうミュージック・リザーブのお時間。お相手は引き続きわたくしKANRININがお送りいたします。
このコーナーではリクエスト・ソングをあなたとあなたの大事な人のためにリザーブ。毎週10時から11時のこのお時間に心を込めてお贈りします。
ご希望の方はお名前ご記入のうえ、お相手のお名前とメッセージを添えて番組までお送りくださいね。あなたとお相手とのエピソードなどもお待ちしております。お名前はお互いがわかるようなラジオネームでも結構ですよー。
さて今週のミュージック・リザーブは勢州鈴鹿のラジオネーム終桂もっとやれさんから・・・』

「リザーブだってよ。リクエストとどう違うのかわかんねーけど、なんか洒落たことやってんな」
「ナニ大将、キョーミあんの」
「いや俺は別に、でも女はこーゆーの喜ぶかね。結婚記念日忘れてたらカミさん拗ねちまってさ・・・」
「うむ、そういうのはちゃんとしたほうがいいぞ大将殿。奥方に逃げられて取り戻すのに必死な男を知っている」
「いやアレは記念日とかそーゆー次元じゃなくてまるでダメな夫だったからだろ」

大体女は記念日とかサプライズが好きなんだよ。私のこと考えてくれてる時間が嬉しいのーなんて言ってっけどアレ違うかんね、世間的に羨まれることされてるワタシって幸せなんだわって自分に言い聞かせて髪薄くなってハラの出てきた夫との生活を慰めてるだけだからね。
ホントにそうかは知らないが、テキトーなイメージを断言するように言い放って鶏皮にかぶりつく。銀時貴様講釈だけは立派だが、それだけオンナゴコロが分かっているのなら何故貴様はモテないんだなどと桂が余計なことを言って串を一本かっさらっていった。ちげーよ俺もサラッサラヘアーならモテモテだよ多分。俺がモテない唯一にして最大の原因はこの捻じれた天然パーマだから。年中サラッサラヘアー靡かせてるオマエにゃわかんねーだろうけどよ。

いつものようにじゃれあって、それっきりラジオなんざ聴いちゃいなかったのだが。

『さて、お次のミュージック・リザーブは住所秘密のラジオネームアフロなオオカミさんから住所不定の柱・・・あふ、ろう?さんでいいんですかね?柱阿腐郎さんへ』

ぶー!と思いっきり吹いた酒が大将の顔に直撃した。桂は口に入れたばっかりの鶏皮を勢い良く飛ばしてしまって大将の振っていた赤い団扇に汚ねーシミを作っていた。

「お、おいヅラこれって・・・」
「間違いない、アフロ隊長だ」

瞬間、「お礼参り」とか「報復宣言」とか物騒な単語が俺と桂の頭を駆け抜けていった。桂はともかく俺はアフ狼の性格を知っているのでそんな物騒な奴ではないことは分かっていたが、まあ、いくら温厚でも一回片思いの友情を裏切られあまつさえ殺されかけた相手にあんまり心穏やかでもいられないんじゃないかなとも思っていたので。

「くっ、アフ狼め俺を血祭に上げるとでも宣言するつもりか・・・!」

『メッセージは、「柱 阿腐郎 Z」。
・・・えっと・・・二人だけの暗号とかですかねー?』

「Zが完成したことを俺に知らしめようと!良かろう受けてたつ!!」
「あ、いやあのZはそーゆーんじゃなくて」

二人だけの暗号というか、暗号を理解できる二人はこの場でいえばむしろアフ狼と俺なのだが。
桂はついぞ知らないが、アフ狼のZはとっくに完成している。結局桂が想像したような物騒なイミじゃなかったのだが、あいつまだ桂と友達になりたいとか思ってんの?Mなの?
桂は隣でぐるるると狂犬のように呻っていたが、DJが若々しい女の声で曲のタイトルを告げると、え、と一瞬止まり、意味がわからないといったようにきょとんとした顔をした。ついでにいうと俺もそんな顔をしていた。

『ではアフロなオオカミさんから柱阿腐郎さんへ、ミュージック・リザーブは沢田研二で【ダーリング】。』

あれ、アフ狼このZ是非友達になりたいの略でよかった?是非友達からお願いしますの略に聞こえるんだけど。
アフ狼も俺と桂が聴いてるなんて夢にも思っちゃいないだろう。無口な男がガラにもなく恥ずかしい真似すると大体筒抜けっていうのはある意味、お約束だ。
難しい表情のまま俺から顔を背けて、黙って聴いている桂はまあ、俺は面白くないのだが。



≪これから言うことを聞いてくれ
 笑わないと約束してくれ
 あなたが欲しい
 あなたが欲しい
 あなたが欲しい、ダーリン・・・≫


「意外と熱烈だなアフ狼」
「・・・・・・・・・命だけ欲しがられてもな」

困惑を隠さない顔で桂が呟いた。
何故この流れで命を狙われていると解釈できるのかその思考回路は相変わらず謎だが、真選組が自分に恋などありえないと思ってでもいるのだろう。しかも自分が殺しかけた男だ。その通り、確かにありえない筈なのだが。

「じゃあさ、アフ狼に命だけ欲しいって言われんのとお前のココロもカラダも欲しいって言われんのとどっちがイイ?」
「やめろ、ぞっとせん」

否定してくれるモンだと思って軽口を叩いたつもりで、事実桂は眉を寄せて否定してくれた。のだが。
猪口に残っていた酒をぐいっと一気に飲み干して、二人でちびちび呑んでいた銚子のぶんも全部注いでしまって。桂は突然ピッチを上げて酒を煽りだした。こいつは明日は早いからそんな飲まない、お前が飲むのをちょっとだけ分けてくれなんて言ってたんだ、最初ココに来たときは。
桂は突然ピッチを上げて、飲みたい気分になったらしい。それはその、まさか赤くなった耳元の言い訳を作りたいからじゃ、ないよな?


≪僕にはもうあなたしかいない・・・ダーリン!≫




「・・・大将殿、もう一本くれ」

おい、嘘だろ。
勘弁してくれよ、ダーリン・・・。




















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