住所不定の身ゆえ、基本的には手紙なぞ届かない。俺に書簡なぞ寄越すのは大体が攘夷に縁ある人物だから党員などを介して手渡されることがあるが、そのくらいだ。
たまに、コンビニの荷物店頭受取みたいにして知り合いのところに手紙や荷物が届けられることがある。まあそういう危なっかしい手紙や荷は、あちらも届かない可能性があることを想定しているものだから、万が一見られなくてもそんなに困ることはない。

桂さん、と声を掛けてきたのはよく行く二八蕎麦の屋台の主人だった。アンタに渡してくれって荷物が届いてんだけど、早く持ってってくんない、と。
この蕎麦屋に一緒に来たのは誰だっけ、エリザベスと銀時と、党員たちと・・・ああそうだこないだ坂本が地球に来たときシメで連れてったな、あと誰かいたっけか・・・。

怪訝な顔で荷を持ち帰ったら、差出人は坂本だった。トランシーバーみたいな電気機器で、なんか、ラジオが聴けるらしい。
何の変哲もないポータブルラジオに見えるが、しかし坂本の寄越すものだからよくわからない。アイツは宇宙を飛び回っているはずだから、なんか一見ラジオ様の変なものかもしれない保証はないからだ。

同封されていた手紙には懐かしい字で桂小太郎様、と書かれている。銀時の名前は間違える癖に俺の名前はちゃんと書けるのだから、まあ、名前の前に二重線で消されている「ヅラ」の文字くらいは見ないフリしてやってもいい。
手紙の中身はそっけなかった。元気かと身を案ずる旨と、自身の変わらぬ近況、俺が住所不定ゆえ届かなくても仕方ないと思いながら、もし届いたら土曜の夜10時にこのラジオを聴け・・・と。

何やら最後に奇妙な指令がきたな。チューナーは合わせてあるからとご丁寧に書いてくれる割に、土曜の夜がどの土曜なのか書いてない。そういうところは変わっておらんなと大きくため息を吐きながら、確か蕎麦屋の親父は一昨日届いたと言っていた・・・と必死に記憶を手繰り寄せている。
一昨日なら、直近の土曜日は今夜だ。時計を見たらそろそろ10時で、ギリギリセーフだったなとラジオの電源を入れる。
ザザ・・・と暫く電波が揺れる音がして、またすぐにクリアになる。

『・・・でしたー。さて、10時になりましたここからは花束のように歌を贈ろうミュージック・リザーブのお時間。お相手は引き続きわたくしKANRININがお送りいたします。
このコーナーではリクエスト・ソングをあなたとあなたの大事な人のためにリザーブ。毎週10時から11時のこのお時間に心を込めてお贈りします。
ご希望の方はお名前ご記入のうえ、お相手のお名前とメッセージを添えて番組までお送りくださいね。あなたとお相手とのエピソードなどもお待ちしております。お名前はお互いがわかるようなラジオネームでも結構ですよー。
さて今週のミュージック・リザーブは備州倉敷の産めよ増やせよ坂桂さんから・・・』

ほう。何やらハートフルな企画をしているな。ラジオの向こうでは可愛らしい女子の声でキラッ★とした歌が流れている。
しかし何故これを聴かせようなどしたのだろう。大体あいつは宇宙にいるのだから、地球のラジオの電波など届くはずがないのだが。

『さてお次のリザーブは・・・あらっ宇宙からですね!宇宙のラジオネーム大人のオモチャさかもっさんから住所不定の自爆装置ヅラさんへ、メッセージは・・・あらら土佐弁ですね再現できるかしら。自爆装置ヅラさん大人のオモチャさかもっさんの口調を思い出して聞いてくださいねー。コホン、ええと・・・

「地球ば寄ったら面白そうなラジオ番組ばやってたきリザーブしておいたぜよ。
それじゃ聴いてください。宇宙から愛を込めて。アッハッハーエリザベス?に先越されたがワシもいつかおまんに言ってみようと思っちょった!」

では大人のオモチャさかもっさんから自爆装置ヅラさんへ、ミュージック・リザーブはビートルズで【FROM ME TO YOU】。』

あいつ、コレをしたいがためにラジオごと送ってきたのか?
相変わらず読めぬ奴だ。手紙で言ってくれればいいのに。こっちなら標準語だったろうし。
流れてきた歌も異国の言葉でよく分からない。だから坂本の意図は多分40%くらいしか伝わってないのだろうが、繰り返されるフロムミートゥーユーくらいは理解できた。
よくわからない。が、荒んだ俺の心を慰めてくれるのは、いつだってあいつのよくわからない行動と突き抜けるような笑顔なのだ。荒みに荒んだ状況で出会ったときから、ずっと。


≪(何かほしいものがあるなら 何か僕にできることがあるなら
  僕に頼んでおくれ すぐに届けてあげる
  愛を込めて 僕から君へ
  僕に頼んでおくれ すぐに届けてあげる
  愛を込めて 僕から君へ・・・)≫

 
いつか俺が本懐を遂げたなら、フロムミートゥーユーしてもらいたいものは決めている。
一番大きなものだ。精々覚悟をしておくことだな。


≪(君のほしがるものなら何でも持ってる 例えば偽りのないまごころ
  だから僕に頼んでくれ すぐに届けるよ
  愛を込めて 僕から君へ)≫



そうか。それなら上等だ。

















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