≪俺たちのマドンナ 悪戯で困らせた
 懐かしいその声 くすぐったい青い春・・・≫



桂が帰ってきた。

「まさかお前に一人暮らしができたとはな・・・ちゃんと食べてるのか」
「まあな」

俺の実家は住宅地の中にあって、隣は同い年の男の子がいる家族だった。当然、俺たちは一緒に育ち、真面目で世話焼きな小太郎くん・・・桂は不良の名を欲しいままにした俺に手を焼きながら青春をこの町で過ごしたのだ。
今、同じ町にいながら仕事を持った俺は家を出て、桂の知らないアパートで暮らしている。大学を出て、算盤塾をほとんど趣味でしながら陶芸作家として活躍する松陽先生の弟子に入って、やっと最近自分の作品を商品に出してもらえるようになった。その間桂は帰らず、大学に行った先の土地で教師になったと聞いていた。「小太郎くん」の帰ってきた理由なぞいちいち聞きはしなかったが、桂はこの町で教職に就きなおしたのだと道すがら話してくれた。

ガラリ、と窓を開けた。暗闇に漁火が星のように散っている。遠くに海が見える見晴らしのよいこのアパートは気に入っていた。最初はこんな距離でも漂ってくる磯臭さに閉口したが、慣れてしまえばどうということはない。
ラジオの声ばかりの響く部屋に携帯が鳴った。着信画面には坂田銀時とこれもまた珍しい幼馴染の名前。

「何だよ」
「ヅラ帰ってきたの聞いたか?辰馬が呑むって騒いでんの」
「今一緒にいる。ヅラより何で辰馬はこっちにいるんだよ。大体今からか?」
「うん。まあ、かるーく一杯?」
「軽く、ねェ・・・。わかった」
「じゃあ今からそっち行くから。掃除しといてね」
「ウチかよ!」

『・・・でしたー。さて、10時になりましたここからは花束のように歌を贈ろうミュージック・リザーブのお時間。お相手は引き続きわたくしKANRININがお送りいたします。
このコーナーではリクエスト・ソングをあなたとあなたの大事な人のためにリザーブ。毎週10時から11時のこのお時間に心を込めてお贈りします。
ご希望の方はお名前ご記入のうえ、お相手のお名前とメッセージを添えて番組までお送りくださいね。あなたとお相手とのエピソードなどもお待ちしております。お名前はお互いがわかるようなラジオネームでも結構ですよー。
さて今週のミュージック・リザーブは奥州仙臺の案ずるより萌えるが易し高桂さんから・・・』

電話が一方的に切れて、また部屋は静かになった。

「銀時か?」
「ああ。今から辰馬と飲みに来るってよ」
「そうか、行く手間が省けて何よりだ。それより晋助、お前もまだ聴いていたかこのラジオ番組」

オーディオからラジオが流れてくる。高校生の頃から聴いていた番組は最近奇抜なコーナーを始めた。土曜の夜のこのラジオ番組を、昔桂に勧めたのは俺だ。それから俺は荒れて土曜の夜などラジオの聴ける場所にいたためしが無かったのだが、桂は聴き続けていたらしい。真夜中に泥やら傷やらどっさり抱えて帰ってきた俺の部屋に窓から伝って入ってきて、今日のラジオはなと延々内容を聞かせてきたのだった。
濡れたタオルで泥と血を拭って、キティちゃんの絆創膏なんか貼れるかよと突っぱねたら問答無用でドラえもんの絆創膏を貼ってきたりした。その間もずっとラップとか初めて聴いたが、なんかアレ俺でもできそうだなとか言いながら。「やるなら今しかねー ZURA」とか歌いはじめたときはラップナメんなと言って手刀を食らわせてやったが。

知らない街で、それでもこのラジオを聴いてたかい。この町に帰ったお前はまた土曜の夜にラジオを聴くのか。その後窓を伝ってきても、その部屋にもう俺はいやしないが。
午後10時から11時。あのとき丁度お前が好きなDJ・・・エリザベスとかいったか?ヘンな名前の奴だったよなァ。ソイツのコーナーがあって、気合い入れて聴いてたのもこのへんの時間だったよな。俺ァ知ってんだぜヅラァ、テメーがエリーマイラブなんて恥ずかしいラジオネームでリクエスト垂れ流してたの。
生憎DJは変わっちまったが、お前もってことはお前もまだ聴いてやがったか。お互い変わんねェな変なとこばっかり。

「あの頃喧嘩ばっかりしてたからな貴様。絆創膏詰めながらよく聴いていた」
「そうかい。・・・・・・ヅラ、」
「ヅラじゃない桂だ。どうした」
「・・・。・・・・・・いや、何でもねェ」

俺はリクエストなんざしたことは無かったが、するならコイツだって曲はある。
その歌の出だしはこうだ、≪この町を歩けば蘇る16歳 教科書の落書きはギターの絵と君の顔・・・≫
俺はギターなんざやらなかったし、テメーの顔なんぞ落書きしたりもしなかった。そもそも授業出てなかったしな。
だが久しぶりに故郷の町に帰ってきた奴に向けた歌だよ。ぴったりだろ。
ぴったりだろ、聞きたいことが残ったまんまになってるのもな。

『今週のミュージック・リザーブは長州・萩の黒い獣さんから同郷の電波バカさんへ・・・仲良しさんなんですかねー?あっ幼馴染って書いてありますね。いいですねーこういう遠慮のない関係みたいなの。メッセージは、・・・アレ?メッセージないですね。意味深ですねー。歌がすべてを語ってるとかですかね!
では黒い獣さんから電波バカさんへ、ミュージック・リザーブは斉藤和義で【ずっと好きだった】。』


≪ずっと好きだったんだぜ 相変わらずキレイだなぁ
 ホント好きだったんだぜ ついに言い出せなかったけど
 ずっと好きだったんだぜ 君は今もキレイだ
 ホント好きだったんだぜ 気づいてたろうこの気持ち
 話し足りない気持ちはもう止められない
 今夜みんな帰ったらもう一杯どう?二人だけで・・・≫


「・・・晋助?」
「まァ、アイツらどうせ「軽く一杯」じゃ帰らねェだろうがよ」







≪ 教えてよ やっぱりいいや・・・あの日のキスの意味 ≫















※12/13一部改変


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