桂さんが真選組で遊んでいるだけ小咄のその後。銀桂をラブいホモにしたいこのサイトの趣旨と向き合って挫折したVer.



おーいヅラ、とどこかのお茶のような間抜けた音で呼ぶのは怯えた声音に遮られた。
状況が呑み込めないのでもう一度声をかけたら、しっと人差し指を唇にあてて一瞬だけ黙ったあと、ウルセー声で咆えまくった。
ちらっと机を見やったら小さな黒いチップのようなもの。世の不幸な乙女たち(主に)を脅かすソレも、コイツにかかっては暇を潰すいいオモチャだ。


【サヴォイで踊らせて】


「・・・で?こんだけ?」
「うむ、他の部屋は無さそうだったな。本格的に調べたわけじゃないが」

手負いの獣が呻き声をあげているような、嫌な風の吹く夜だった。
神楽が寝入ってしまった後にも何やら寝つきが悪くて、一杯ひっかけて寝ようと思ったのだ。風が強いし雨も降りそうだったから屋台とかには入りづらくて、かといって居酒屋とかババアんとこってのも今金ないし、ヅラんち酒あるかなアイツなら起きてんだろ、とこういう流れだ。
バキッと威勢のいい音をたてて壊していた盗聴器は「倒幕」と手書きされた部屋の張り紙のウラにあったという。酒?無いな今茶くらいは淹れてやるから待ってろ、とヅラがお湯を沸かしている間に室内灯とかコンセントとか、ソレっぽいところは探したが、確かに仕掛けられていたのはコレだけのようだった。時限タイプの簡易なものが1つだけとは随分お粗末だが、コロコロ家を変えるコイツのことだから手間と金をかけて半永久タイプの機材を仕掛ける気力はあちらさんにも無かったのだろう。

「詳しいな」
「そーゆー調査の依頼も入るからな。そんでオマエは何で盗聴器仕掛けられて咆えてたの?電波どうしノイズでも入ってきた?」
「ふん、人の生活を覗こうなどする奴に覗きのリスクを教えてやっただけだ」
「オマエ人のこと言えた立場か」
「馬鹿か俺は覗きなぞせん。堂々と押し入る」
「より悪化してんじゃねーか!!」

あちちと呟きながら湯のみを渡してヅラが俺の隣に座る。手を離したそばから耳を触る仕草がレトロすぎていっそ似合いだ。
うううと一際大きな風が泣くように蠢いて、パパッ、と室内灯が点滅する。オイ電線大丈夫か。ヤだよ俺停電のなか一人で帰んの。

「・・・銀時、俺は雨戸を閉めたか?」
「あ?さっき閉まってたような気がするけど」
「そうか。ならいいんだ・・・ふ、そういえばお前はあの時負傷者組だったな」
「雨戸と負傷者がどうカンケーすんのか知らねーけど湿っぽいハナシはやめろよ」
「なに、湿っぽくなるのは俺と高杉だけだ。上下山を越えるころに一宿の恩を受けた村があったろう」
「・・・あったっけ」

俺がテレビのリモコンに手を伸ばそうとするのを遮るようにヅラは突然話し出した。正直俺は憶えていなかったが、その辺にいたころちょっと大きな怪我をした覚えはあるのでそんなこともあったかもしれない。まあヅラのことだから、話すだけ話してハイ作り話でしたーよくできてるだろう?とか言いかねないが。静かに話し出したヅラはそのとき町長の奥さんから雨戸を開けるなとヘンな言いつけをされたこと、高杉が敵襲の予感からそれを破ったこと、そしたら雨戸の隙間から嵐のなか何かがじっとこっちを・・・オイイイイコレ怪談!?いつの間に俺ヅラから怪談聞かされてんの!?ちょっやめて今室内灯点滅すんのとかホントやめて啼いてるから!今夜風啼いてっからァァアアア!!!

「・・・銀時、どうした」
「イヤこの中に甘味王国への近道があるって聞いて・・・」
「何だ知っていたか。仕方ないなホラんまい棒チョコレート味」
「いらねェェェ!!」

気づいたらヅラの羽織の中に顔を突っ込んでいた。俺がオバケとかそういうのがちょっと、ホンのちょっとだけニガテに思ってることもヅラは長年の付き合いで知っている筈だが、何だってコイツはいきなり俺にそんな話をし出したんだ。こんな、一人で帰るのも覚束ない風の呻く夜に。こんな、室内灯もいつまで保つかわからない頼りない部屋で。

「・・・あの時そうして羽織でも被って寝てしまえば良かったな。ふ、まあ、敵襲の可能性が視野に入っていた以上今でもあの時と同じようにしか動けなかったと思うが・・・」
「ね、ねェヅラくんもうやめない?いいじゃんお前結局今だってとり殺されたりしてねーんだからさ、今更ムダだってこんな話してもオメーのしぶとさにもう諦めたってオバケも」
「うん、俺もそう思ってこんな話をするのだが・・・最後にニイイッと口を割いて笑った奥方のな、あの言葉が気になっ「ヤメロォォオオオ!!!」

口裂け女とかそんな単語が頭をよぎったがそんなんいねーから。オバケなんてないからオバケなんて嘘だから。寝ぼけたヅラと高杉が見間違えただけだから。
とにかくこの憎らしい口を何とか塞がなくちゃならないのだが、手は生憎ヅラに握らされたんまい棒で埋まっている。コレ砕けるとすげー食べづらくなることは知ってるので殴るワケにもいかず、結局歯をぶつけるようにして唇でそのつるつる喋る口を塞いだ。
殆ど頭突きに近かったソレにヅラは背中から倒れこんで、離れた唇を尖らせて俺を見上げ文句を言う。

「痛いぞ銀時」
「お・・・オメーがくだんねーことばっか喋ってんのが悪ィんだよ」
「お前は聞いていないからそんなことを言うがな、斬られた筈の奥方は翌朝俺と高杉に」
「だからヤメロっつーの!!」

もう一度口を塞いだら、ヅラは合わせた唇のままニイッと笑って両手を俺の首に回してきた。
アレ、コレもしかして、コレもしかする?
ふっと沸いた疑念をよそに、珍しくヅラの方から舌が差し入れられる。それを絡め取って咥内に押し入り歯列をなぞったらヅラがまた器用に笑いやがるので、軽く舌を噛んでやった。ひゅっとその瞬間肩を竦める仕草をするように伸びた舌がひっこんでいく。
煩い口を黙らせるだけのつもりが、じゅるじゅると耳元で卑猥な音を聞いていたらムラッときて、手元のんまい棒をうっちゃって腕を背中に回した。それを合図と知ったのか、ヅラはすりっと俺に頬擦りしながら耳を甘く噛んで、俺に吐息ごと馴染んだ声を流し込む。

「・・・まあ、そんな話だ。なかなかよく出来ているだろう?」

あ、やっぱりコイツの作り話だった。
何だよやっぱオバケなんていねーじゃん。安堵する気持ち半分、何だって俺にこんな話をしたんだとイラっとする気持ち半分。
甘味王国への近道だった羽織を脱がせたら、腕に回っていた手も俺の着物ベルトを外しに降りていった。流れるような、もう慣れ切ったその所作を見た瞬間、あ、やられた、と思った。
テレビのリモコンに伸びそうな瞬間遮るように始めた話。俺がほんのちょっとだけ苦手な怪談。両手に握らせた砕けやすいんまい棒。すぐ離れた最初のキスのあと、懲りずにまだ続けた話。スタンバってましたと言わんばかりに首に回された両腕。よしよしよく引っ掛かったとご満悦に漏れる笑み。

「・・・もしかして誘ってた?」
「ふん」
「分かりづれーんだよオメーはよォォオオオ!!」

コイツはどうしてこういちいちメンドくさいのか。面倒くさい女は嫌いだった筈なんだけど。男なんてもっとイヤなんだけど。コイツのメンドくささに限ってはもうガキの頃から馴らされていて、もう嫌いになるのもメンドくさい。
だから俺は毎回のように、こんなメンドくさい奴の相手ができるのは俺だけだと思いながらコイツを抱くのだ。膝を割って、手を馴染みのいい白い腿に這わせて、首筋を舐めて鎖骨の下を強く吸って。

「っん・・・銀時、」
「ナニ」
「ふ、・・・あっ、ぎん、銀時」
「だから何だって」
「ふ、ふ、・・・銀時」

だから俺は毎回のように、こんなメンドくさい奴の相手ができるのは俺だけだと思いながらコイツを抱くのだ。ホントはそんなことないってことも知ってはいるけど。
そう言ったら多分コイツは笑って言うんだろう。「知らなかっただろうけどお前実は結構面倒くさいの好きだぞ」と。









































































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