ずっと好きだったの銀桂ver.



大量の野菜が入った重そうな買い物袋を下げて居間に入ってきた新八は、すでにあとは具を揃えて煮るだけの状態になった食卓を見て顔を安堵に綻ばせた。

「助かります」
「当然だ。コラ銀時起きろ・・・全く、何でコイツは既に出来上がってるんだ」
「・・・銀さん今日掃除の依頼で汗かいたところに皆さんからビール勧められちゃって」


【永遠のモンロー】


大都会の江戸シティ。年末年始はギリギリまで仕事だとか、年末年始郷里に帰るからそれまでに何とか恰好をつけなきゃいけないとかで、この時期掃除の依頼が増える。しかも、どうせ人を雇うならあれもこれも頼んでしまおうと思うのが人の常で、メンドくさいからと放っておかれた力仕事がここぞとばかりにやっといて、となる。
今日は朝から立て続けに3件大掃除の依頼が入った万事屋一行は、乾燥した真冬の空をほかほかと蒸気で温め、だらだらと真夏顔負けに汗水垂らして尊い肉体労働に勤しんだ。

この寒いのに汗だくで走り回る万事屋に大体の依頼主は優しい。つまりアレだ、お歳暮とかで大量に貰ったビールやジュースを水分補給にとお裾分けしてくれる。在庫処分ともいう。
振舞われたのは大体ビールで、普段の銀時ならば酔う酒でもない。しかし汗をかいてカラカラになった身体にビールで水分補給をすれば、血中アルコール濃度は大変に上がるのである。ビールで潤した身体でまた汗をかいて、それをまたビールで潤して、なんてしていたものだから、銀時の血はもうほぼアルコールと化していた。新八に尻を叩かれて、銀時は酒を飲んでも何とか仕事をこなしはしたが。

「それでこの有様か」
「3件目の奥さんゴミクズ見るような目で見てたアル。だらしねーナ」

へべれけの銀時を散々に言いながら、新八が切った野菜を神楽が沸いた鍋にぶち込んでいく。野菜に火が通って食べごろになったあたりで、ようよう銀時がふらふらと頭を上げた。

「お歳暮で戴いた酒を持ってきたが、こんな体では飲ませられんな」
「なんで攘夷志士がお歳暮とか貰ってんだよ・・・イヤ嘘飲む飲む、大丈夫酒とか抜けてきたから」

明日に差し支えるんじゃないのか、と言いたげな目で桂は新八を見やった。新八は湯気で曇ったメガネを押し上げながら苦笑して、明日は夕方に1件だけですからと言って煮えた鍋をよそっている。どちらが雇い主だか分からんなと桂は眉をひそめて、それでも持参の酒に手を伸ばした。

暖かく腹にも優しい鍋とコタツに全身を暖められて、ただでさえ酔っ払いの銀時の酒の回りは早かった。珍しく顔を真っ赤にして、上機嫌でさっきから桂の長い髪を弄んでいる。

「銀時、絡まるからやめろ」
「絡まねーよムダにサラサラしやがって。オメーの髪はホント扱いづらくてなんねー」
「銀ちゃんワタシの髪結ぶときよくヅラと較べるクセに心にも無いこと言うんじゃネーヨ」
「ばっおまっ・・・アレはちげーよ?神楽ちゃんの髪はヅラと違って結いやすくてイイナーってイミだよ?」
「フン、今更遅いネ。でもヅラのヅラはどうしてそんなに長いアルか。男なのに」
「ヅラじゃない桂だ。そうだな、結ったり解いたりして主に体温調整のためだが・・・サブの効用として天パのコンプレックスを擽ることができる」
「テメーそれワザとかァァアアア!!」

思えば銀時が初めて桂に出会ったときから桂の髪はいつも結える程度には長かった。まさかはじめから桂が銀時のコンプレックスを刺激することを考えていたはずはないが、それを銀時は思い出して、回りの悪くなった頭で黒い尾っぽを跳ねさせる幼い桂の面影を目の前の彼に求めた。

「オマエ髪切ってたの?ガキの頃から長かったよな」
「適当な長さをキープしつつ切ってはいたさ。俺は寧ろお前の髪は伸びるとどうなるのか気になってた」
「・・・あん時はカワイかったなァ」
「貴様はあの頃からふてぶてしかったな」

しみじみと呟いた声音に新八と神楽は目を見張った。だって、まさかあの銀時が、子供のころとはいえ桂を可愛いだなんて。そりゃ心の中でそう思っているだろうことは普段の態度を見れば明らかだけれど、それがするっと口から出てくるのは銀時が既に限界ギリギリまで血中アルコール濃度を高めているからだろう。
しかし言われた当の桂は驚くふうでもなく銀時と杯を重ねて笑っている。それってつまり今までも酔ってそのくらいは言ってたってこと?じゃあかなりMAXに近いこの酔いレベルではどのくらいまでデレるんだろう。言質をとっておきたい。そしていつかこの傍若無人な雇い主への対抗カードにするのだ。二人は共犯者の顔で目を見合わせた。

「ヅラは顔だけはいいからナ。ちっちゃい頃なんて女の子と区別つかなそうアル」
「あーオメー声変わりするまで間違えられてたよね」
「あ、それ以降はもう男性らしく育ってきたんですね。坂本さんたちといたときとかもう格好良い感じだったんですか?」
「イヤ・・・まァ男には見えたけど・・・あん時のヅラは・・・」

新八と神楽に促されるまま、今の銀時は今後の話の流れを予想して適当に逸らすということができない。ほとんど活動していないだろう大脳、聞かれたことを疑うことなくそのまま本心を吐露することしかできなくなった銀時の口は、しかしちょっとだけ言いにくそうにまごついた。その肩に寄りかかったままちらっと桂を見たのに、何だ俺は何かおかしかったかと桂が唇を尖らせなければ、銀時はそのまま口を開かなかったかもしれない。

「おかしいっつーか・・・あん時のオマエはキレーだったよ。そりゃもう、ホントにヒトかってくらい綺麗でさ・・・毎朝起きるたんびになんでこんなに綺麗んなるのかなァって見惚れてた・・・まァ口開くとアレなんだけど」

頭のてっぺんから爪の先まで酒がまわってもまだ恥ずかしいと思う心は死んでいないのか、銀時は桂から視線を逸らしてずるずると桂の肩からずり下がっていく。恥じらいの足がコタツの中で神楽の膝に当たった。

「血塗れンなっても難しい顔しててもあん時のオマエはとにかくキレーで・・・具体的にどーとか、うまく言えねーけど」
「銀時、昔の俺を随分褒めてくれるが、今はどうなんだ」
「今ァ〜・・・?」

そんな、強くて男らしかったけどたまにカワイイところもあったくらいの発言を予想していたらナナメ上の発言が飛び出したので、新八と神楽は素面ですら脳の対応が遅れた。
銀時はもう今自分に話しかけているのが桂であることさえ分かっているか怪しいのに、ぐずぐずとコタツに縮こまって眠そうな声で桂の問いを考えている。

「・・・オメーは相変わらずキレーだよ・・・」

銀時はまだ取り皿に鍋の具を残したまま、コタツに寝転がってそっぽを向いてしまった。桂はそれをくっくっくっと笑いながらひとり杯を重ねている。
上機嫌の桂を見てやっと声をかける気になった新八が、録音でもしておけば良かったですねと茶かす。そうヨいずれ皺くちゃのガンコジジイになったとき昔はこんな恥ずかしいこと言ってたって聞かせてやるヨロシと神楽がそれに重ねた。
桂は笑ってそれを聞いていて、隣で既にうとうとしている白髪頭を一度くしゃりと撫でてやる。

「そうだな。・・・だがこれは50年後も同じことを言うだろうよ」


お前は今も綺麗だ、と。














★銀さんの言質はこうやって使う
「神楽ァ今日晩飯ヨロシク」
「今日銀ちゃんの番ヨ」
「銀さん今日二日酔いとパチンコ敗けこみでハートがパリンてしてるから元気でねーの」
「働けヨこのマダオが。二日酔いって銀ちゃんまたヅラ口説いてきたアルか」
「エッ何ソレまたって何ソレ」
「毎朝なんでこんなに綺麗なのかなァって見惚れてたって、ヅラは今もキレーだって言ってたアル」
「エッいつ?ねェいつなのソレヅラいた?」
「こないだべろべろに酔ってた時ヨ。ヅラは〜アレェいたっけトイレ行ってたような気もするネ」
「か・・・神楽ちゃーんソレヅラには・・・」
「銀ちゃん、今日晩御飯銀ちゃんの番ヨ」
「・・・ハイ」
「豪華にしてネ






































































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