そがまた実に下らぬ唄にて


【聖地バトゥカーダ】


朝から耳に張り付いている歌がある。
別に思い出のアノ曲とかではなくて、なんかこう歌えと言われても歌う内容もないような、むかーしネタ系のCMで使われてたようなっていう感じのフザケたフレーズだ。
思い出したのも特に何かキッカケがあったという訳ではなく、今日月曜日だしジャンプ読んでたら何かの拍子にふっと出てきてしまった。それ以来離れない。
ほっとけばそのうち忘れる、と思っていたのだが、これがまたしつこくて、メシ食ってるときも厠入ってるときもテレビ見てるときでさえ。パチンコやってる時はちょっと忘れてたが、今日はこれでもかってくらい大負けして長居できずに出てきてしまった。するとまた、自販機でジュース買ってる時とかに流れ出すわけだ。あの歌が。何なの、俺そんなにこの歌ラブだっけ。人生で初めて口ずさむくらいなんだけど。

「何か気ィ紛れるモンねーの・・・」
「あーありますよそういうこと。僕もお通ちゃんの新曲出るたびに一ヶ月はそんな感じですもん。まあそれが幸せっていうか新曲を僕の血肉とするために必要な期間なんだって受け入れましたけどね」
「イヤ俺のはそーいう宗教儀式的な何かじゃないから」
「うーん・・・違う曲を聴くとか、いっそ嫌になるまでその歌を歌ってみるとか、聞いたことありますけど」

でもそんなの邪道ですよ、とかいう新八の言葉を無視して俺は歌い出した。いいんだよ別に俺はこんなん血肉にしたくないから。
くだらない昔のCMソング(多分)を壊れたレコード盤のようにひたすらリピートしていたら、まさかそんな変なモンが俺の頭を支配していたなどとは知らない新八がちょっと引いた。それ外でやらないでくださいね、とか言って昼飯を作りにそそくさと台所へ入っていく。

「どーしてくれんだ新八ィィイイイ!!」
「知るかァアア!!まだやってたんですかアンタ!」

結局新八が昼飯ができたと呼びにくるまでずっと歌ってた。が、これがもうリピートするたびに脳内の音量レベルが上がっていくばっかりでぜんっぜん、なんっっにも、絶えてくれることがない。消えていくのは俺の意識レベルと声だけだ。
あーダメだ。これダメ。別の曲で頭切り替えるしかねーわ。
そこからは昼飯を食ってる間じゅう、終わってからもずっと、脳内でひとりミュージックステーションだった。紅白歌合戦だった。ひたすら往年のホップスから最近のヒットチャートまで俺が知りうる限りの歌舞音曲をかけて、途中から歌ってたのに、疲れてちょっと気ィ抜くとせせら笑うようにすぐ滑り込んできやがる。
たまに、中毒性の高いヤツがとって変わって頭ン中でぐるぐるし始めるのだが、それじゃあ意味がない。曲を変えたいワケじゃなくて、俺は頭から一切の曲を消し去りたいのだ。

「銀ちゃん、歌うのはいいけど窓辺で童謡歌うのやめてヨ、なんか怖い」

寺子屋から神楽が帰ってきたころには、俺はもうレパートリーが尽きていて、うーみーはーひろいーな、おおきーいーなー・・・とへとへとになりながら何とかぼそぼそ呟いていた。
何なんだ。もうコレ何かの呪いなんじゃないの。俺今度は何したっていうの?疲れた頭ではそんなことしか考えられなくて、フクザツな思考に耐えられなくなった俺の脳はまた安きに流れて壊れたレコード盤に戻っていた。

「銀さん散歩でもしてきたらどうですか。気分転換になるかもしれないし」
「おーそうだな・・・行ってくる」

頭の奥に根を張って離れないフレーズをお伴に、ふらりと俺は街に出た。頬にかかる風が涼しい。
自転車のベルやら、車のエンジン音やら、ガキどもの騒ぐ声に犬の鳴き声、どっかでガラスの割れる音。次いで飛ぶ親父の怒声。
街のなかには騒々しい音が満ち満ちている。
そのどれもこれもが愛すべき雑音だというのに、今の俺はそれすら喜んで抱えたいほどだというのに、俺の脳内にはまだあのヘンな歌が流れている。
もうこんな頭になってるのは世界中で俺だけに違いない。俺だけがこんなヘンなのに違いない。ああ、もし俺のほかにもこんなになってる奴がいるんだとしたら、この孤独と絶望を分かってくれる奴がいるんだとしたら、俺はきっとソイツと添い遂げる。
やけっぱちになっていた俺の目は悄然としていたんだろう。周囲から人が離れていくのをああやっぱり俺だけがなんて無限ループでしょぼんとしていたら、向こうから同じように涙目になって歩いてくる奴がいた。

「・・・銀時・・・」
「・・・ヅラ・・・」

見慣れすぎた懐かしい顔に、思わず助けてくれなんて弱音が出そうになる。でもきっと、コイツだって俺のこの孤独と絶望を分かってくれやしねーんだ。
やさぐれた俺に、けれど桂もそれどころではないようだ。いつものふてぶてしい顔はどこへやら、眉を困ったようにハの字に下げて目に涙をためて堪えている。
それは、俺が桂を呼んだ拍子にぽろりと零れた。

「銀時、俺は・・・俺はもうダメかもしれない・・・」

ぱす、と桂の白い手が俺の肩に触れた。弱々しいそれ、擦れた声はいつもの桂らしくない。それにコイツは窮地であればあるほど表情を殺して耐える奴だったのに、それがこんなにぼろぼろ泣いてもうダメだなんて。オイ、ちょっとどうしちゃったのヅラ。
その瞬間ばかりはあのヘンな曲も消え飛んで、目の前の幼馴染のことしか考えていなかった。

「オイっどうしたヅラ。何があった、言ってみろ」
「・・・・・・歌が・・・」
「歌?ヅラ・・・まさかオマエも」
「朝からヘンな歌が離れんのだ。何しても消えなくて・・・声が嗄れるまで歌ってみた。頭の中でヒットチャートを流し続け夜もヒッパレしたりした!なのに・・・なのに俺は・・・ッ」

思いつめた潤んだ瞳が俺に縋るような視線を寄越す。悄然としたその目を見た途端、今日の俺の朝からの様子がぶわっとリフレインした。もしかして、コイツ、もしかしてもしかして。

「・・・ヅラ、ソレもしかしてすっげー下らねー歌?」
「そうだ」
「歌っていうかフレーズっていうか」
「中身もあんまりないような」
「それでいて妙にテンポ感のある」
「むかしCMで聞いたような〜みたいな」
「旅行勧めてるような、勧めてないような」
「行けと言われるワケでなく、ただ存在を主張されるような」
「「・・・・・・」」

言葉にするたび、俺と桂の瞳が晴れていくのが分かった。
通じ合っている。俺たちは今、確実に通じ合っている。
朝からの俺の苦悩を、孤独を、絶望を、コイツも共有していたのだ。しかもきっと同じ歌が!
こんな二人は世界に二組といやしまい。ていうかむしろ世界は俺とコイツのためにあるんじゃないの?今日ここでこの街で縋りあうように手をとるために世界はできたんじゃないの?

「銀時ィィィィィ!!」
「ヅラァァァァァ!!」

ガシィッ!!と抱き合った俺たちの腕はもう離さないというように固かった。いや、真実俺はコイツを二度と離すものかと思っていた。細い四肢、涙に潤んだ瞳。目の前に広がる薔薇色の世界。
往来でそんなことをしていたものだから通行人の目が白いような気がしたが、ここはかぶき町だ。何だってアリだ。第一、俺とコイツのためにある世界なんだからそんなことはどうでもいい。
手に馴染んだ身体を抱き締めるたび、ああもうコイツと一生添い遂げようと思った。俺とコイツは今までイロイロあったけど、落ち着くところに落ち着いたんだ。結婚しよう。

「ヅラ・・・」
「銀時・・・!」

そして俺は抱き締めた桂の頭をこちらに向かせ、腰を抱いたままゆっくりと顔を、



・・・・・・歌のことがいつの間にか頭から消えているのに気付いて冷静になるまで、俺たちの頭はイカれていた。
















歌ってみた。
「「いっせーの、で、」」

「のっぼっりっべっつーといえばっっ」「ヘビヘビワニワニカメカメカメカメ!」

「・・・アレ?」
「全然違うじゃん」



高杉「俺はただ壊すだけだ・・・この腐った世界を・・・(ギリッ」







































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