恋なんて自覚しただけじゃ、何が始まる訳でもない。恋愛の要はその次のアクションだ。これをどうとるかで彼女の心は決まるんだよ!

テレビの中で三枚目の男がエラソーにのたまって、恋敵の背をそうとも知らずに押していた。

その次の、なんてとれれゃ苦労はねーやコンチクショーと思ったけれど、思ってるうちにもまた屋根の上を駆け抜けて黒髪が跳ねるので、バズーカ一発お見舞いしてやりました。


【切欠はなんてほのかな】


ジョーワジョーワ・・・ジィーョジィーョジィーーー・・・

やっと傾きだしたと思ったが、まだまだスタミナ溢れる太陽の下をひとり歩いている。ジリジリジリと歩くたびに膝のあたりがチリつくのは隊服がゴキブリよろしく黒いからだ。上は流石にシャツ一枚で通しているが、さっきから背中が汗で張り付く感覚が非常に不快だ。
今日はとりわけ暑かった。一緒に巡察していた隊士が熱中症でヘバったのだから、これを機に真選組は夏服を考えたほうがいい。できれば袖とかギザギザしてないやつ。
倒れた隊士はテキトーに周囲に任せ、ぐるっと周って屯所に戻る道すがらだ。腕を上げることすら億劫になるこんな真夏日は犯罪さえ起きやしない。
汗が睫毛をかいくぐって目に入る。これをなんとかぬぐっていたら、曲がり角で少年少女に出くわした。

「あり・・・チャイナとメガネ。何だ随分涼しそうじゃねーか」
「沖田さん。いや今日暑いですよ。僕たちは今まで室内にいたので」
「新八ィそんなんほっとくアル。半紙が汗でベチョベチョになるネ」

万事屋の地味メガネと生意気なチャイナ娘は、自分と比べてこの猛暑の中随分涼しそうにしていた。
といってもチャイナのほうは夜兎の娘、この紫外線の強い季節には弱いだろう。愛用の蛇の目傘とくるくる巻きにした半紙を手に握り、既にじんわりと汗をかいていた。見るとメガネのほうも何やら半紙を手にしていて、まるで習字教室にでも行ってきたかのようだ。

「あ、コレですか?最近知り合いの方に字を習いに行ってるんですよ。ホラ道場の看板とか・・・ゆくゆくは自分で綺麗に書いて出したいですし」
「フフンオマエよりよっぽどキレイに書けるネ!綺麗な字はイイ女の嗜みヨ」

今日は一番綺麗に書けたって、といってチャイナはパンッ、と巻いた半紙を両手で張った。なるほど「艶女」とご丁寧に「アデージョ」のルビまでふって、画数の多い文字ながらそれなりに整った字が半紙の上に写っている。それに上からオレンジ色の墨で大きなハナマルが舞っていた。ハナマル・・・というか、「ゆかいなコックさん」の絵描きうたの途中みたいなキモチワルいマルが。
なんか、どこかで見たことのあるモチーフだ。じーっとソレを見つめる俺にメガネが何か気づいたのか、神楽ちゃん、と袖をひく。

「おいメガネ」
「は、はい?」
「お前らよく字ィ習いに行ってんのか」
「え、ええまあ、神楽ちゃんの夏休みの間だけですけど」
「さてはコイツ神楽サマの美しい字にマジボレしたアルなウゼー」
「ンなワケあるかィ。おいメガネ」
「は、はい・・・?」
「俺も連れてけ」

艶女をチャイナ娘に突き返し、有無を言わせぬ目つきでメガネを見る。と、思ったとおりに顔を引きつらせたメガネが小さな声ではい、と鳴いた。
また戻るアルかとこの暑さですっかりヤられたチャイナがぶうぶう言うのをメガネは冷たい麦茶でも貰おう、と言って宥め、俺を連れて戻っていく。その額にじわりと汗が浮いているのは暑さの所為だけではないだろう。
前を歩く二人が足を止めたとき、そこは小さな古い一軒屋だった。夏らしくチリーン、と風鈴がそよぎ、ボロい竹柵には年季の入った趣きで朝顔がつたっている。開け放された障子の内側は立てかけられたよしずで見えないが、縁側には洗ったばかりの筆と硯がみっつ並んで干してある。
メガネは、ちょっと話を通してきますといっぱしのことを言い置いて家の中へ駆け込んでいった。桂さん!と慌てた声で家主を呼ぶのがこんな家では筒抜けに響いてきて、思わず「バーカ」と声に出そうになる。
暫くして出てきたメガネに通されて家にあがると、古い藺草の匂いと少し埃っぽい昔の家の匂いがした。

「・・・沖田さん、あの、この人が書道の先生で」
「どうも。ジョーイ・ド・カツーラです」
「オイせめて日本名にしろォォオオ!!」

外から見たよしずの内側、影になったそこに背の低い長机をしいて、それに凭れるようにして桂は座ったまま俺を見上げた。
もっとしっかり変装してくるかと思ったが、桂は得意の女装や宇宙キャプテンなどでなく、ざっくりとした麻の夏着物にレトロな丸眼鏡、それからすぐ落ちそうな口ひげをつけただけだった。それでも随分印象が違うのは、どうでもその長い髪が束ねられて上に纏められているせいだろう。ぐっと上にあげられた髪のせいで白い鶴首が露になる。これまで髪を下ろしたところしか見ていなかったから、そこを見るのは初めてだ。
ざり、と桂のよじった膝が畳の上で音をあげる。


「それで、何のために来たのだ?童」
「・・・・艶男(アデオス)って書きに来ました」


ともあれビンゴ。切符は掴んだ。
周りを伺うにどうやらこの家居住も兼ねているらしい。暫く偵察がてら監視といこう。
とりあえずは知らぬフリして居座って、ちょっとでも怪しい動きを見せたらお仲間ともども縄にしまァ。
艶男か、アレは難しい字だからな、まずは童から始めよう。
あちらもそ知らぬフリを見せた桂の、付けたばかりの口ひげが早速落ちた。






































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