まるでダメなおねえさんは、よく見ると耳の下あたりから低いツインテールをして、白いリボンをつけていた。残り2名中、1人がもれなくオッサン。絶望的だ。

【ラブフォー・タイムセール!4】


「オイ長谷川さん、生きてる?」
「あたた・・・善良なホームレス蹴り飛ばすとか何かヤなことあったの銀さん」
「場末のスナックのママみたいなこと言うんじゃねーよ。もう今朝からヤなことなんざ雪崩のようだっつーの」

手をひいて立たせたマダオチャンは傾きはじめた陽を眩しがるようにグラサンをかけ直す。
そのとき上げた手にツインテールの毛先が触れて、あー枝毛ひっどいなーとか言う。あ、やっぱりソレはもうあるものとして受け入れられてるんだ・・・。イヤいいんだけど、別にいいんだけど、あんまり考えたくないのでそんなふうに「攻略対象」性を見せつけないでほしい。

「アレ、銀さんそれ3DS?今なんかやってんの?」
「ウン・・・今アンタも強制参加の多人数プレイでやってる」
「イヤ俺DSなんて持ってねーよ。どうしたさっきから」

そういえば、そういうギャルゲーであることを相手に告げてしまうことはルール違反なんだろうか。特にDSのほうからは何も言われてないし、ゲームと知って冗談のテンションで好感度を上げてくれてさっさと告白して終わらせてくれたらこんなに平和なこともない。
まあ、ルール違反だったら何か言うだろ。そんでリセットされるとかなら万々歳だ。
俺は恥を忍んでウッカリ他人宛ての荷物を開けちゃったこと、中身がクレイジーなギャルゲーだったこと、攻略対象は残り1名を残して全員男、長谷川さんもその1人だったことをぼつぼつと喋った。その間もDSは大人しくて、ウンともスンとも言わない。

「へー、そりゃ御愁傷様としか言いようがねーな。全員野郎じゃいくらなんでもねぇ」
「全員じゃねぇまだ結野アナが残ってっから」
「イヤイヤそこはDSだって初志貫徹でしょ」
「ヤな初志持つんじゃねーよ!いらんところが貫き通されちゃうだろーが!!」

アレ銀さんが貫徹されちゃうの?と穏やかでないことを言いはなって、長谷川さんはしげしげとだんまりを決め込んだDSを眺めている。貫くとかぬかねーとか、長谷川さんとは疑惑が払拭されてない問題が残ってるもんだから、俺はしまったと思って身を竦めた。話題、何とか話題を変えて、と目をうろうろさせていたら、そんな俺には全然気づいてないふうの長谷川さんが俺を見て何か閃いたというように笑った。

「あっじゃァさー、俺が告っちゃえばコレ終われるんじゃない?」
「えっ・・・そ、そりゃー有難いけど」
「一軒奢りで手ェ打とうや。俺だって銀さんにマジで攻略されても困るし」

あああああっぶねぇぇえまるでダメなおねえさんで良かったァァァアアア!!
冗談のテンションで告ってくれたら、なんて自分で考えておきながら、少女漫画のヒキのような長谷川さんのセリフにビビっていた俺にとってその後に続いた打算的なセリフは天の福音のようだった。
好感度はMAXじゃなくていいの?と好感度を確認しながら、長谷川さんはDSをこねくり回している。やがて満足したのか、さっさと終わらせてタダ酒飲みたいのか、じゃあいくぞー、とひとつ咳払いをした。

「えー、坂田くん好きです付き合ってください」

ピコーン♪

『マダオチャンから告白されたヨ!でもココロが込もってないからノーカン!次はマダオチャンのホンキのラブをゲットだ!』

「えええええ・・・ちょっと長谷川さん、もうちょい演技派ぶってくれない」
「無茶言うね銀さん・・・銀時くんっずっと好きだったのっ付き合ってぇ!」

『ンーチョット不自然だネ!ビッチなのか清純なのかハッキリしろヨ!』

「銀さん・・・好き!」

『清純派はマダオチャンには向かないんじゃな〜イ?』

「銀時さま抱いてッッッ!」

『ハハハ気持ち悪いネ!』


「銀さんこんなモン早く捨てろよォォオ!!」
「俺だって捨ててーよ!!」

さっきから容赦ないどころか理不尽極まりないDSの演技指導のせいで、何度もキッツい告白を受ける身にもなってほしい。
好感度?好感度足りないからハードル高いの?
いい加減セリフの尽きた長谷川さんからとりあえずコッチ上げてからにしてみようという提案を受け、俺はマダオチャンの好感度アップに励むことになった。しかしコイツも大概マダオなので、嘘でも金出すとかアレソレ買ったげるとか即物的な煩悩で上がる。オイ俺ヤなんだけどこんな女。男の価値が金と結び付いてるのはある意味女の真意を表しているのかもしれないが、少なくともそれは裏にしまっといてほしいと男が切に願っている部分だ。ギャルゲーでそんな残酷な真実見せないでほしい。
愛は、愛はねーのか。男はみんな君だけのロックンローラーじゃねーのか。

「マダオ・・・お前って普段明るく振る舞ってっけど、実は強がりだって・・・俺知ってっから」
「銀さん・・・」
「・・・泣けよ」

ピコーン♪
『ワオ!少女漫画的展開に女の子は弱いネ!マダオチャンの好感度もギュンギュン上がっちゃうよォォオ!』

「エッ」

見れば長谷川さんはなんかもじもじしだしていて、グラサン越しの顔はほんのり赤くなっている。
えっちょ、確かに愛はねーのかとか言ったけどコレはなんかちがくない?マダオチャンの女子力いらんところで高くない?

「お、オイ長谷川さん自分を取り戻せ」
「ぎ、銀さ・・・へぶっ」

ぶぎゅるっ

好感度がほぼMAXに近づき告白イベントがマジで発生しそうだったマダオチャンの頭は、しかし空から突然降ってきた白い足によって地面にめり込まされた。
長谷川さんを踏み台にして悠々と立っていたのは真っ白な長いツインテールの美女だ。頭につけた黄色いリボンは、それが俺の最後の攻略対象であることを教えている。がしかし、俺にはこの女に一切の覚えがない。

ピコーン♪

『あっあのコは・・・いやあの方はァアア!!』
















































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