現代パロ。



「お前と一緒だったらどこへでも行けそうだな」
「は?ナニいきなりキモチワリーこと言い出したの」
「キモいとか言うな俺は真剣だぞ。何となく、お前とならどこでも何とかなりそうな気がしたんだ。たとえ地獄の釜の中でも」
「イヤイヤぜってー嫌だから。オマエは地獄行きだろうが俺は天国に行く」
「ふん、俺が地獄行きならお前もだろう。銀時俺は忘れんぞ、昔お前とやった蛙爆弾」
「ウッ・・・」

窓を開け放っていると涼しい風が入ってくる。学生のころから面倒くさがって引っ越しをしていない銀時の六畳間は川沿いの古いアパートだ。窓の外に散歩道が伸びていて、それに沿って植わった桜が季節によって色を変えるのがいい。やっと黄色く色づいてきた木々は、銀時の部屋の畳の色によく似ている。畳にごろりとした銀時の頭の上に見える窓の外の黄色い葉は、そこにギターでも転がっていれば何だか妙に青春じみた一枚の絵のようだ。
俺の突然の放言に、意外にも情熱的なそれに、銀時は面食らっている。

「そうだな、どこがイヤだろうな。お前と一緒でも・・・奥山住まいとか、無人島・・・・楽しそうじゃないか?浅間山の噴火口・・・太平洋の渦潮・・・」
「オイヅラ、どれもイヤなんだけど」
「ナイヤガラの滝・・・北極のオーロラ・・・」
「・・・あーまーソレはちょっと見てみたいような」
「箱根の大涌谷地獄・・・日光で華厳の滝とか」
「それもうただの旅行じゃね?ネタ尽きたんならそう言えよ」
「そうだな。お前どこがいい」
「え・・・」

JRのCMはよくできている。ポスターもいい。
ああ俺もあいつと一緒に、なんて。ストーリーの一端が垣間見える身近さがぐっとこちらの旅情も誘う。
仕事帰りにふと駅のポスターが目に入った。山形で紅葉を見ながら温泉なんていいなと思った。家に帰ってテレビをつけたらCMが流れてきた。そうだ、京都、行こう。と言われてそれもいいなと思った。
どうしてそんなに旅情を掻きたてられているかって、ちょうど、今年の10月10日は金曜日で、そこからは3連休だ。たまには旅先の誕生日なんていうのも、いいんじゃないかと思ってしまったものだから。でもフツーにお前の誕生日に一緒に旅行行こうなんて、いくら俺でも柄じゃなくて恥ずかしいくらいのことは思うのだ。確かにこの男とならば宇宙でも合戦場でも地獄の釜の中までも、何とかなるような気がしているのだが、別に俺だってそんなところは行きたいとも思わない。

「・・・俺だってさァ、オメーとならどこまでも行けそうな気はしてんだよ。イヤだけど」
「浄土の蓮の上でもか」
「何でさっきから天国とか地獄とか心中コース!?
まああとちょっとで3連休だしね?俺もオマエも休みだしね?3日で行って帰ってこれるトコならどこでもいーんだけどさァ」

天国地獄は行き帰りしんどいからパス、と言った銀時が読んでいるジャンプのページは一向に捲れない。珍しく俺の照れ隠しを読み取ってくれたようだが、どこか行きたいところでもあるのだろうか。貧乏が染みついてなかなか遠出などしようとはしない奴だが。
うろうろとジャンプ紙面を彷徨う視線といつまでも捲れないページは、じゃあどこがいいんだ、という俺の一声を待っている。

「3日で、俺とお前でどこまで行くんだ?」
「・・・ボロアパートの暗がり六畳間とかどう」
「・・・・・・一緒に行けそうなギリギリラインだな」
「無人島とか噴火口よりイヤ側なのかよ!!」
「冗談だ」
「・・・まあ、大江戸温泉物語くらいなら行ってもいいから」
「うん。じゃあ金曜の夜な」
「ん」

何だ。折角3連休なのに結局こうなるのか。なんか去年もこんなふうだった気がするが。
まあ、いい。広い湯船にのんびり浸かって、フィッシュセラピーにぞわぞわして、なんちゃって縁日でも冷やかしながらラムネを飲もう。暗い六畳間でビール数缶と4合瓶を空にして、そこでお前に喰われるのもいい。

行き先の決まった俺たちは、きっともうJRのCMやポスターにも旅情を抱かない。







































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