桂さんが真選組で遊んでいるだけ小咄の、桂さんその後の話通常運転Ver.







ふううう、ふうう・・・

ふうううう・・・・・・


雨戸の外では生温い風がとぐろを巻いて寄せてきた。
深手を負った蛟がのたうつようで痛々しいそれは、心なしか生き物の生臭い匂いがする。
ざざざ・・・と鱗を引きずるような音をたてて庭の木々が鳴いた。

ガタガタと雨戸を閉めながら、けれどこの哀願するような蛟の咆哮を抱き締めてやりたい。


【モーメンツ・ノーティスの嘘】


トントン、と玄関を叩く音がした。
律儀に訪いを告げたと思えば、植木鉢の下から鍵を勝手に取り出してガチャガチャと開けだす。そこに鍵があることを知っているのは、そしてこんな時間にこんなことをするのは、あれしかいない。
やはり来たのか、と、少し悲しいような、不謹慎にも浮き立つような思いがした。

「オーイ、ヅ「うわあああきっ貴様はあ、あのときの・・・!」
「は?オイ・・・」

しい、と人差し指を立ててやって、俺は特撮番組の怪物のようにかまわず吼えた。
帰ったら盗聴器を仕掛けられているのに気付いたので、ちょっとからかっているのだ。
銀時は机の上に目をやって、晒された盗聴器を見つけると事情を察してふうと息を吐いた。裏声でオバケの真似をしてやって、バキッと叩き割ってやる。さて、と銀時に向き合ったら、オマエいっつもこんな手の込んだ暇人芸してんのと呆れた声音が降ってきた。

「ごくたまにだ。度々やるとあっちも慣れるからな」

ガタガタと、雨戸が鳴っている。
いつもは来て早々に胡坐をかいてテレビなぞを見だす癖に、今日銀時はしょぼくれた子供のように戸の前に突っ立っている。
どうしたんだ、くらいのことは聞いてやるのが客人への礼儀なのかもしれないが、こんな顔をしていてはそれを問うさえ可哀想な気がしてやめた。それに、どうしたのかなんて、聞かずともわかっているのだ。だから銀時は俺のところに来たのに。

「・・・まあ、座れ。そんなところに立たれたら茶も出せん」
「・・・ここで茶なんて出てきたことあったっけ」

銀時は促されるままにどすっと腰を下ろした。見るからに沈んでいるくせに口が減らないのは、だからまだ大丈夫なんだと俺にいらん意地を張っているからだ。
ガタガタと、雨戸が鳴っている。
しゅんしゅんとヤカンが音を立てているのが部屋じゅうに響いていた。銀時はテレビもつけず、胡坐をかいてゆらゆらと揺れながら、ぼんやりと家の天井なぞを見上げている。
コトン、と茶を机に置いたらそれきり一切部屋の内側から音はなくなってしまって、外の不穏な音ばかりが響いてきた。
ガタガタと、雨戸が鳴っている。

ふううう、ふうう・・・
ふうううう・・・・・・

「今日は荒れてるな。台風でも来てるのか?」
「さあ。そんな予報は見てねーけど」

銀時は白い湯気を上げる茶をずず、と一口啜る。
飲む気があるのかないのか、熱い湯のみを暫く持っていて、もう一口ずず、と啜ると、それぎり机に湯のみを置いてしまった。
ごと、と、俺の肩に銀時の頭が寄りかかってくる。
それはずるずると下にずり下がっていって、俺の膝のうえに落ち着いた。
湯のみを持っていた両手を空けて、俺は懐かしい白い癖毛を撫でてやった。
もう何年もそんなことをしていないのに、慣れた仕草はすぐに手に馴染んでいく。

ふううう、ふうう・・・
ふうううう・・・

「・・・リーダーはもう寝ちゃったのか」
「ん。アイツなんか怖いモンなしだから」

ふううう、ふうう・・・
ふうううう・・・・・・ ・・・

銀時の両腕が躊躇いがちに俺の腰にまわる。
耳元に絡む髪を手櫛で整えて、そのまま耳をちょっと撫でた。銀時はちらりとこちらを見たようだけれど、それ以上特に何も言わない。
ガタガタと、雨戸が鳴っている。
さりげなく銀時が怖いと言った外の風は、いよいよじくじくと痛む傷に呻いている。
いつかあの男も獣の呻きといったそれ。両手から零れ落ちるものへの愁嘆、悔恨、懺悔。世界への怨嗟。あの日銀時が戦場に置いてきたはずのものが、亡霊のようにいまだ痛みに耐えている。

ふううう、ふうう・・・
ふうううう・・・・・・ ・・・

苦しげに大きく口を開けた蛟は牙をむき出しにして、声にならない声を挙げてのたうち回っている。身に纏わりつく生臭い匂いに気が狂いそうになりながら、傷だらけの鱗を引きずって。
大声をあげて叫ぶことすら許されないと信じ切って、歯の隙間から腹の奥の膿を出し切ろうとするさまは、

(・・・お前のようだと思ったよ)

雨戸を開けて迎え入れてやりたかった。そうしたらお前が訪ねてきたものだから。
傷を舐めるように、いまは返り血ひとつない綺麗な白い髪を撫でている。
こうしてやるのを幾度も間に合わなかった。
縋りつくように回った腕は、銀時が何も手放せていないことを語るようだ。恨みも、怒りも、哀しみも。それを抱えて縋りつく、この腕を尊いと思う。
その腕がもう何も零さなくて済むように、抱え込まれた俺はお前と一緒に一切を抱き込んでやろう。
そうして全部守りきれたら、その手で今度はやっと泣き出した俺を撫でてくれ。


ふううう、ふうう・・・
ふうううう・・・・・・ ・・・

ガタガタと、雨戸が鳴っている。
雨戸の外では、まだ銀時が泣いている。



ふううう、ふうう・・・

















































「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -