「・・・DVっつってもな。近藤さんと桂はお互いケンカできねェんだろ」
「あーそーなの。じゃ口喧嘩だな。ガキが手ェつけらんなくて教育方針でモメてるうちに夫婦仲悪くなるパターンでいくか」
「ガキって誰のことだ」
「俺達以外に誰がいんだよ」


【落下傘目に黄金・5】


ソッチは楽でいーよな、と、銀時は楽屋裏で盛大に着崩したセーラー服のスカートを短く捲り上げている。ギャルギャルしい派手な装飾溢れる学生カバンにそこまでする必要があるのかと思いつつ、土方は学生服のまま煙草に火を付けた。なりきるには雰囲気というものが重要だ。近藤たちにも、自分たちにもだ。

「しかしあのバカに任せて大丈夫かね」
「さっきは随分ノリノリだったが・・・演技ベタなのか」
「ヅラの妄想電波劇場はオスカー賞モンだよ。そうじゃなくて」

既にイメトレは済んでいるのかむっつりとテレビを観ているような近藤と、時計を気にするそぶりでそわそわとエプロンの裾をいじる桂の傍ら、はいテイク1ー、とのんびりした沖田の声が飛んだ。

~DVっていうか夫婦喧嘩編〜

ガチャッ(ドアを開ける音)

「トシ!またそんなに喧嘩をして!その怪我は何だ!」
「う・・・うっせーよ親父!テメェにゃカンケーねェだろ!!」
「お前っコレ煙草じゃないのか!未成年だろ!」
「死にゃしねェよ煙草ごときで。もう俺ァヤニがねェと生きていけねぇんだよ、放っとけ」
「トシ!!」
「銀子!今何時だと思ってるんだ心配をさせるな!」
「あー良妻賢母気取りですかァマジウザーいダチと遊んできただけだっつーの」
「誰とドコで遊んでたというんだ、こんな時間まで」
「ハァ?何でそんなことアンタに言わなきゃなんないの、いーでしょ誰とドコで遊んでもォ」
「銀子!!」

バタン!!

「・・・ハニー、言いたかないけどアイツらの教育方針マズかったんじゃないのか」
「何だとダーリン、夫婦共働きで2人で育ててきたのだろうが。俺にばかり責任を押し付けないでもらおう。大体貴様はウンコだとオムツ替えるの嫌がったし十四郎が6つのとき熱でうなされてるのにタオルびしょびしょのままデコに乗っけて悪化させただろ。そういうところが中途半端だから銀子が最近あたしの服お父さんのパンツと一緒に洗わないでとか言い出したんじゃないのか」
「マジでかアアア!ちょっ銀子、お父さんのパンツは汚くないぞ!!ああいうのはアレなんだ、お父さんのパンツは汚いんじゃないかとかそーいうこと思っちゃうお前の心根の清らかさを試されてるんだ!心の清らかな乙女ならお父さんのシミついたパンツだって純白のシルクに見えるんだ!!」
「試されてんのはテメーらの記憶力だァァア!!!」

当初の目的を覚えているのかいないのか、早速夫婦喧嘩があさっての方向に行きかけて、銀時は渾身の咆哮で軌道修正をかけた。
ヅラの言いがかりまではいいトコいってた、そこからもっかい!と共演女優のダメだしが入り、はいテイク2ー、と沖田の笑いに震えた声が飛ぶ。

「・・・トシといい銀子といい、喧嘩も夜遊びも親にあてつけるようにして。だっ大体妻のお前が愛情かけて育ててやればこんなことには」
「俺があの子らに愛情をかけなかったと?フン、十四郎の喧嘩っ早さなど若い頃の貴様にそっくりだ。誰の影響かなど明らかだろう」
「それを言うならな!銀子の夜遊びだって昔のオマエそっくり・・・あ・・・」
「・・・そうだ。あの子らはそっくりだ。あのころの・・・満たされない愛を求めていた俺たちに・・・」
「そうして寄り添いあった俺たちが同じ過ちを繰り返しちゃ・・・いけないよな」
「ああ。俺たちがあの子らに教えるべきは社会規範でも道徳観念でもない。・・・愛だ」
「ハニー・・・」
「ダーリン・・・!」
「「オイお前らホントに別れる気あんだろうなァァアアア!!!?」」

手に手を取って新婚気分に戻り始めた父と母を不肖の娘と息子が張り倒す。思いっきり頬を張られた近藤はその反動を利用し応えるかのように渾身の力で拳をふりかぶり、

「トシィィイ!銀子ォォオオオ!!」

バキィッ!

「痛ッ!?ナニすんだテメー!!」
「父の愛だ・・・!」
「もういいっつってんだろ!止めだヤメ・・・ん?」

ずしゃあああっ!と吹っ飛ばされた銀時と土方は当然、全力で抗議した。ツッコミ入れた時点で演技は終わりなのだ、バカの演技に付き合った挙句の殴られ損では納得がいかない。
しかし、その途中で気づく。吹っ飛ばされた自分たちを抱き留めていたその腕の存在に。2人が顔を上げると、右腕に銀時を、左腕に土方を抱え込んだ桂が涙目で見つめたかと思えばギュッと2人の頭を抱き寄せた。

「母の愛だ・・・!」
「たたみかけるんじゃねェ!!!」

ごっ!と重い音がして桂の頭が地面にめり込んだ。
めり込んだ桂の腕を逃れて、立ち上がった銀時と土方の重い溜息がふたつ沈痛に漂う。沖田もカメラの前にうずくまって震えていた。アレは笑っている。
見上げれば空は既に薄紫に滲む藍色。カァー、とカラスが人恋しい声をあげた。

「ダメだったか・・・」
「だからコイツの演技に任せたらダメだっつったんだよ!次行くぞ次!!」


〜性生活の不一致編〜

暗くて画が撮りにくいんで部屋入ってくれませんかねェと監督の要望が入り、撮るなという土方の怒声もむなしく撮影は室内に移行した。
白々とした蛍光灯の下、和室の畳がよそよそしい。布団が仕舞われている押入れが妙に存在感を示してくる。

「ぎ、銀時・・・まさか本当に不一致させるのではないだろうな」
「させねーよ一致しちゃったらどうすんだ」
「そういう問題か!しかし、ならばどうするつもりだ」
「こーゆーのは頻度もさることながら性癖の不一致が大きいんだよ。お前らどうせドン引きするような性癖持ってんだろ、ソレ晒せ」
「貴様に言われたくないわ!!」

俺は至ってノーマルだ、と桂がぷいと拗ねてみせた。おっ俺だって!と近藤がそれに重ねて弁解する。意地なのか恥じらいなのか、このままでは埒が明かない。お互い付き合いが長いのだし、銀時は桂の性癖にある程度思い当たるところがある。土方だって近藤の性癖くらい熟知しているだろう。銀時と土方は顔を背ける2人の傍でちらりと目配せをし、それぞれの美しい友情を裏切ることに決めた。

「ノーマルだぁ?ヅラァ、人妻好きのNTR萌え属性は立派なアブノーマルだろうが。人妻だよ?フツー旦那から寝取るほうだろ。何でオメーが寝取られるの?オマエが人妻に寝取られたいの?」
「銀時貴様こんなところで何を!!」
「ところで近藤さん、何だっけアンタが本棚のウラに隠してあるAVのタイトル・・・『直立するド変態〜おはようからおやすみまでクリ氏をハメ撮る「それは男と男の暗黙の秘密だろトシィィイイイ!!!」

味方に後ろから思いきり斬りつけられて、近藤と桂は逃げるように互いの手に縋った。

「・・・人妻好きの何が悪いんだ」
「そうだよな、ハニーお前もアレなんだろ。追われるよりも追いかけたいっていうか」
「ああ。追いかけたいというか、愛されるよりも愛したいマジでっていうか」
「そう!!それなんだよ愛したいの俺は!俺たちは変態なんじゃない、ただ愛に溢れているだけなんだ!悲しみの天使がまだ迷ってるだけなんだ!!」
「わかってくれるかダーリン・・・!」
「ああハニー!」
「「だから一致してどーすんだァァアアア!!!」」

銀時と土方の声が腹の底からハモった。
それぞれに頭を掴まれて、ごづん!!と近藤と桂は互いの額を思いきりぶつけた。痛いと抗議する二人の側で沖田がチッと舌打ちをする。デジカメの電池がとうとう切れたらしい。

「電池も切れたし、もういいですよ旦那方。じゃ、協議離婚しやしょう」
「「あ?」」
「この国の離婚の9割は協議離婚ですぜ。離婚するって一言言やぁいいじゃねーですか」
「「・・・あ」」












































































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