「何で・・・止めなかった」
「止めたさ。いちいち止めてるがこのザマだ。馬にでも蹴られた気分だぜ」

別れさせ屋・GINがたまを伴って屯所を訪れたとき、これを迎えた別れさせ屋・TOSHIの顔は大変に疲れていた。奥へ通されてみれば桂は既に入り込んでいて、その様子を見た銀時は事態の緊急性を認識した。
2人で話している桂と近藤の顔は実に甘く、幸せいっぱいの恋人たちのそれ以外の何物でもなかったからである。

【落下傘目に黄金・4】


「おお万事屋。と、たまさんだっけ。わざわざ悪いな」
「全くだよおいヅラ、このぶんは追加料金だからな」
「ヅラじゃない桂だ。銀時、俺は指輪の真相解明一切を依頼したはずなのだが」
「源外のジーさんにたまのデータベース拡張させたのは通常業務の範囲外だよ」

その検索領域の拡大について源外は詳しく説明してくれたが、そんなことは忘れた。銀時としてはとにかくこの忌々しいゴールデンリングが外れてくれれば何だって良かったのである。
その指輪を見せていただけますか、とたまの落ち着いた声がして、近藤と桂はそれぞれ左手をたまの目の前に差し出した。みーっとスキャナが動くような音がして、たまの視線が黄金色の指輪の上をなぞる。

「・・・該当1件。エンゲージ星のリングに大変似ています。桂様の指輪に刻まれている白百合のモチーフは結婚指輪の証、エンゲージ星では夫婦喧嘩で星が滅亡しかけたことがありまして、その過去の反省を生かして婚姻する2人は強制的に円満な夫婦になる指輪を嵌めます」
「どんな夫婦喧嘩!?ていうか、反省の生かし方もおかしいだろ」
「おいたま、そんでコイツらはどうすりゃ元に戻るんだ」
「エンゲージ星では端的に指輪を嵌めることが結婚、外すことが離婚をそれぞれ意味します。お2人は今ご結婚されている状態ですので、離婚すれば外れるのではないかと」
「そんなアアアお妙さんと結婚するまでバツはつけないって決めてたのに!キレイな身体でいたかったのに!!」
「安心しなゴリさん、俺たち別れさせ屋が立派なキズモノにしてやるよ。なっTOSHI」
「いやキズモノにはすんな。安心してくれ近藤さん、立派なバツイチにしてやる。なっGIN」
「だからバツつけたくないんだってばアアア!!!」

夫だの妻だのと冗談半分だったのに、実際に婚姻歴ができてしまった近藤と桂は困惑を隠せない顔をしている。離婚すればいいんだからと言われても、そもそも結婚なんてした覚えがないのにどう離婚しろというのか。大体結婚の事実は指輪を嵌めれば推認されてしまうのに、どうして外すのは離婚が認められてからなんだと桂が納得しかねるようでぶつぶつ呟いていた。離婚ありきということは、本格的に2人には別れる気を起こしてもらわなければならない。別れさせ屋として、銀時は挙げうる可能性を検討し始めた。

「離婚・・・ってどんなケースがよくあんの」
「ああ?・・・浮気されたとかじゃねェのか」
「DVや夫婦喧嘩とかな」
「最近は性生活の不一致が多いようですぜ」
「エッ」
「性生活の不一致」

いつから聞いていたのか、沖田がひょっこりと顔を出した。解決は銀時たちに任せるハラであるらしく、積極的に関わろうとする姿勢は見えない。俺ァココで観察させてもらいますと楽しそうにニヤリと笑って縁側にどかりと腰かけた。

「じゃァ・・・とりあえず片っ端からやってみっか。浮気とDV・夫婦喧嘩と性生活の不一致」
「待て銀時!ありもしない性生かっ・・・そのようなアレをどう不一致させろというのだ!」
「一発ヤってみりゃいいんじゃないですかねェ」
「お前はちょっと黙ってろ総悟」
「まァ他の2つで愛想尽けりゃいいんだろ。気合い入れてやれよヅラ。じゃあ浮気からな」

〜浮気編〜

「つまり俺たちが近藤さんか桂のどっちかを心変わりさせりゃいいんだな。じゃァ桂、とりあえずちょっとこっちに」
「コォラ土方、テメーの相手はそっちじゃねーだろ」

桂の腕をひいて、銀時は桂を手招きした土方を蹴飛ばした。腕を引かれた桂はそのまま銀時の胸に大人しく収まっている。それに銀時が人知れずホッと息を吐いたのを、桂ばかりがその腕を掴む手に不自然な力が入っていたことでそっと知っていた。きっと今冗談でも桂が銀時の胸を押し返したら、もう二度と銀時は桂を抱き寄せる度胸など無いだろう。不器用な奴め、と、心の中でだけ苦く笑った。
押し出された土方が近藤の前に突き出されて、なんだよ照れるなーなどと近藤が笑う。その奥で沖田がデジカメをスタンバイし始めた。

「よ、よし、じゃあいくぞ・・・近藤さん、アンタいつになったら奥さんと別れてくれるんだ」
「とっトシ・・・アイツとは話し合ってるんだ。いつか必ず・・・!」
「いつかっていつだよ!!俺はもう耐えられない、アンタ俺がどんな気持ちでアイツを姐さんなんて呼んでると・・・」
「トシ・・・」
「・・・俺にしてくれ、近藤さん。俺なら真選組を切り盛りしていける!テロリストの押しかけ女房なんざ土台無理な話だったんだ!」
「・・・そうだよな。真選組はいつだって俺達の・・・お前が守ってきてくれたものだったんだ。ここは俺達の家だよな!」
「ああそうだ!!だからさっさとあの嫁と別れて・・・」
「俺は嬉しいよトシ!そこまで真選組のことを考えてくれていたなんて・・・次の局長はやっぱりお前しかいない!!」
「エッ?」
「ずっと考えてたんだ・・・真選組って人気投票上位とかいいながらやっぱトシと総悟に集中しちゃうじゃん?俺だってたまーにシリアス顔もあるけどやっぱイケメンには敵わないのかと思ったらもう疲れちゃってさ・・・ネタキャラ?いじられポジ?俺もう局長降りてお妙さんの家の壺としてずっと生きていこうかなって」
「い、イヤ突然何言い出すんだ近藤さん、俺の大将はアンタだけだって言ってるだろ」
「あーあーあーそこ!そーゆートコがイケメンの株上げちゃってるワケ!わかってねーんだよ非モテの構造ってやつをさァ」
「わかってねーのはどっちだ!!アンタが頭にいなきゃしょーがねぇっつってんだろうが!」
「はいはーいそこまで何か違うハナシになってんぞお前ら」

不穏な空気が漂い出した空間の淀みを清めるように銀時が柏手を打った。
意外としょっぺぇストーリーでしたねと沖田が録画した動画を再生している。桂ァコレ編集して披露宴で流していいですかィと、やってることはこちらのほうが余程別れさせ屋に近い。好きにしろと桂が応じるのを披露宴させねーためにやってんだバカと銀時がはたいた。

「やっぱ土方くんには荷が重かったかねー。まァ見てろよ、おいヅラ」
「ヅラじゃないか「桂、」
「桂、俺・・・昔ッからオメーに一言だけ言えなくて・・・そんで今凄く後悔してんだ。お前が・・・、・・・」

腕の中に納まっていた桂の、その肩にかけた腕を引き寄せて近づけた顔のまま銀時は桂の言葉を遮った。
近づいた馴染みの琥珀色が真っ直ぐに銀時を射貫いて、あ、しまった、とそこでやっと銀時は気が付いた。
桂を口説くだなんて。ずっと逃げてきたことから、ここではもう逃げられないのだ。

「銀時?」
「・・・、」
「どうした銀時。口説いてくれるんじゃなかったのか」
「わーぁってるよ!だからその・・・お前が・・・」
「うん」
「・・・誰かのモンになっちまうのは・・・」
「うん」
「・・・・・・」
「・・・」
「・・・・・・・・・ヅラ、やっぱ、俺と、・・・」
「・・・。銀時、お前がもう一度俺とともに?」
「ん?あ、ああ・・・まあ、そう?アレ?そう?」
「銀時!やっとウンと言ってくれるか!俺と攘夷で」
「joyしません!!!やっぱりソコにいくのかテメーは!」

軽い調子で桂の肩を抱き寄せたはずの銀時が、桂の顔と向き合って口ごもり始めたあたりから、こちらもやはり演技のようには見えなくなっていたことは、土方は触れずにおいてやった。だって大人だもの。
桂がまるで銀時が言いよどむのを知っていたかのように、無理やりこじつけたように見えた攘夷の勧誘。桂の中にも何かしら突破口が見えそうな気はしたが、ここは根が深いからやめておけと何故か本能が告げている。

「ハッ、荷が重いのはどっちだかな万事屋ァ」
「うるせー!大体このバカを真正面から口説こうなんてのが無茶なんだよ!!
・・・おいヅラ、こうなったら既成事実だ。不貞行為だ。ちょっとツラ貸せ」
「なっ何をする気だ銀時貴様まさか公衆の面前でちゅー・・・!」
「おー、ぶちゅっとやっから大人しくしやがれ」
「はっ破廉恥な!ちょっ待っ・・・だっダメ・・・ダメだ銀時・・・ああッおやめになってお米屋さん!!私には夫が!」
「誰が米屋だ!何で昼下がりの団地妻設定にノリノリだァァアアア!!!」

ドンッ!と昼下がりの団地妻に突き飛ばされ米屋銀時による不貞行為は叶わなかった。拒絶されたショックとツッコミとで勢いよく手が出たが、指輪の効力が発動して近藤が止めに入ってきたので心置きなく銀時は近藤をボコボコにした。ほとんど私怨と八つ当たりだ。オイ人の大将そんなにバカスカ殴ってくれるなと土方が絡んできたものだからまた空気が不穏になって、
・・・沖田が回した動画によると、場が落ち着くまでにはたっぷり数刻かかっていたことが後々判明した。







 










































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