「とっつぁん、そういうワケなんだがその・・・最近そういうヘンな指輪の情報なんかは」
「馬鹿野郎男が一度指輪なんて無粋なモン嵌めたんだ、腹ァ括れや」
「いや括ったらマズいんだって!真選組潰れちゃうんだって!!」
「そうと決まれば呑みィ行くぜ!護るモンできた男の懐の深さ見せてやれ近藤ォ!」
「アンタ呑みたいだけだろォォォ!!」


【落下傘目に黄金・2】


「そんでオマエも目出度くゴリラの嫁か。祝儀は出さねーぞ」
「銀時貴様何故俺が嫁だと決めつけるのだ。俺だってアレだぞ、立派な日本男児・・・」
「立派な日本男児はダーリンダーリン言わねーんだよボケェ!!」

昼時の穏やかな万事屋に、手土産を持って桂が訪れた。
桂が手土産など持ってくる日は大概ロクなことがない。銀時俺の代わりにレンタルビデオ借りてくれとか、銀時あの4丁目の路地裏によくいる美人な、ホウイチ殿のカノジョだろうか気になるから調べてくれとか、凄まじくくだらないことを一緒に持ってくるからだ。もう手ぶらでいいから大人しく来て大人しく帰ってくれと毎回銀時は祈っている。
今日、黄金比プリンなんて銘打たれたそれを包んできた桂の左手の薬指には黄金色の指輪が嵌っていて、銀時をぎょっとさせるにはそれだけで十分だった。桂の指を見るなりどうしたソレと聞いてしまった銀時は、プリンを拒否する余地もなく桂の「依頼」を受けざるをえなくなった。

「ヅラァ、オマエいいトシして妙なモン拾ってくんな」
「ヅラじゃない桂だ。銀時お前にだけは言われたくないぞ、貴様連載中何度拾い物でトラブルに巻き込まれている」

唇をとがらせて腕を組む桂の、右腕に添えられた左手が気にかかる。白い指に深い金色、繊細な細工の指輪は目立って綺麗で、桂の身に華を添えていた。
幾松のところに桂を送り出した日が不意に蘇って、イヤ状況が違うだろと銀時はかぶりを振った。
知らない指輪を嵌めている桂の画がこんなに息苦しいとは。
望むことさえおこがましいとあの日は送り出せたのに。自分で帰ってきた桂に妙な夢想でもしたか。
甘いはずのプリンが舌に乗っても何だか分からず、苛立ったようにかきこんだら桂がまたそんな食べ方をと怒った。

「まあともかく、妙な指輪であることだけは確かだ。こちらでも情報収集に勤しんでいるのだがなかなか心当たりが見つからなくてな。協力してはもらえまいか」
「ダーリン警察だろ。任せときゃいいんじゃねーの」
「・・・ダーリンも調べているのだ。俺も何もしないという訳にもいくまいが・・・攘夷党の情報網は当然、攘夷関連のものだからな。何だかワケのわからんヘンな物ならやはりここしかあるまいと思って」
「よーし歯ァ食いしばれ」

桂に頼られるのは満更悪い気もしないが、「万事屋」向きの依頼じゃない。銀時にとっては100%私情、個人的な問題だからだ。
その指輪が外れたら、この息苦しさは全部元通りになるの。
よっぽど確認しておきたかったが、銀時の聡さと臆病さがそれを喉元で押しとどめている。

「・・・仕方ねーな」

不服そうな顔をして、ィッと見せつけるように歯を剥いた桂の額にデコピンをした。





そのヘンな指輪をどこで拾ったと聞いたら千代田の巧断坂のあたりというので、銀時は桂を連れて実地検分と決め込むことにした。落ちてた場所なぞあまりアテにはならないだろうとは思っていたが、そんな変な指輪ならば地球由来でない可能性がある。それならば、最近そのあたりで何か変な出来事があったとか、切欠になる情報が得られるかもしれない。
このへんで拾ったのだがそうしたら真選組がと現場指示を始める桂の形のよい後頭部をぼんやり眺めながら、やっぱり場所自体は何の変哲もない坂だよなと銀時が考えていた。ら、神田の方角からよろよろと坂を上ってくるものがある。ひとつは凭れ掛かるようにして、もうひとつはそれを支えながら。

「ダーリン、どうした顔色が悪いようだが」
「ハニー・・・うぷっ」
「おい近藤さんここで吐くな!せめて端でやってくれ」
「・・・おい、まさか貴様ら暢気に酒など飲んでいたのではあるまいな」

おぼろろろろ、と近藤が凭れ掛かっていた土方から身体を離して道の端につくばって吐いた。漂う近藤の酒臭さを感じ取って、桂はぎっと恨めしげな視線を投げつける。近藤だって調べているのだから自分が何もしない訳にはいかないと銀時に言ったのに、その俺の心遣いを貴様らよくも無にしおって、という目だ。そんな桂の視線の意味を汲んだのかどうかは知れないが、土方が近藤を庇うように解説を入れた。

「警察組織を束ねてンのは松平のとっつぁんだからな。不審なことがあれば報告がいってるかもしれねェと思って近藤さんが行ったんだが・・・祝儀だとか聞き込みだとかいって連れ出されて」
「松平の伴だと!?おいダーリン、貴様この俺を妻にしながら女遊びとはいい度胸だ!!」
「ちょっハニー今デカい声で喋んのやめっ・・・おぼろろろろ!」
「ん、何だ貴様ゲルググ袋持ってないのか。アレは必携だぞ船酔いをした黒もじゃに対応できる」

マーライオンの如きリバースに涙目になっている近藤は、桂に背をさすられながら手渡されたゲルググ袋に顔を突っ込んだ。これでは話にならないと判断したのか、桂は土方がしていたように近藤の背に腕を回し、支えるように近藤をゆっくりと立たせてやる。貴様は少し女にだらしがないのではないか、いや違うってお姉様方は裏事情にも詳しいからさ、フンどうだか、と痴話喧嘩のようなものをしながら坂を下っていくのを、残された銀時と土方は止めることもせず無言で見送っていた。

「・・・やっぱアイツも遂にゴリラの嫁かね」
「オイやめろ。こっちは組織かかってんだ、遊びじゃねェんだよ」

段々小さくなっていく2人は、遠くなればなるほど桂のほっそりとした体躯と艶やかな長い黒髪が細君のシルエットを作り上げていく。それを同じような無感動の瞳で眺めつつ、銀時と土方は互いに視線も合わせないまま淡々とした声を交わした。

「テメーは桂に頼まれたか」
「・・・自分のツレがある日突然ゴリラに嫁いでいくのをどんな顔で見送れってんだ」
「人の実家に勝手に嫁いで来んな。こっちも攘夷志士を姐さんなんて呼ぶ気は更々無ェよ」

鋭い視線が気怠げな視線と交差した。ほんの一瞬。それだけで互いには十分だ。今相手が何を考えているかなんて、互いに手にとるように分かっている。

「・・・利害は一致したみてーだな」
「・・・今回だけだ」
「たりめーだろ」


『別れさせ屋』GIN&TOSHI誕生の瞬間であった。











 

















































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