暴れる頭を押さえつけて後ろを振り向かせてみたら、黒い後頭部にちょこんとお団子が乗っていた。ついでに、オレンジ色のリボンがついていた。
「女のコといえば長髪にリボン」って何十年前のステレオタイプだ。道行く女のどれもその条件備えてねーよ。
ていうかさ、せめて女にしない?
【3】
「テメーはどうでもいいんだよ。ゴリ子さん見なかったか」
ひとしきり取っ組み合いの喧嘩をして、好感度が10%まで下がった後、土方もといX子チャンはポケットから取り出した煙草に火をつけた。いつもはやたらキツそうなやつ吸ってるくせに、今日のパッケージはなんかやたらピンクでキラキラしていて、メンソールライトとか書いてあるのは乙女心の表れなのか。ビミョーすぎて反応に困る。
「ゴリ子ゴリ子って、いい加減トイレくらい一人で行けんだろなんで女子ってトイレ行くのにわざわざ友達誘うの?」
「連れションじゃねーよ!!」
あ、また好感度が1下がった。血圧の高い野郎だ。いや、今は女のはずだから野郎じゃないのか・・・
ピコーン♪
『X子チャンの好感度が一桁になっちゃったヨ!
そんなオンナゴコロのわからないダメ男レスキューイベントが強制発動!このカンペをX子チャンに言ってみよう!』
「えっ何ソレ」
『そんなことより、X子今日放課後空いてる?』
放課後って何!?まさかさっき女子とかトイレとか言ったせい!?
さっきからぎゃんぎゃん口汚く罵りあっていても何も言わなかったから個々の会話は感知してないと思っていたのに、意外としっかり聞いてやがる!
学生設定にしては、X子はとんだ不良女子だ。未成年喫煙ダメゼッタイ。
「そ・・・そんなことよりさァ、X子今日放課後空いてるゥウ?」
『よかったら二人で』
「よかったら二人で」
『一杯いかない?』
「なんでだァァアアア!!!」
未成年飲酒ダメゼッタイ!!
学生設定どこいった!女誘うのに残業終わったサラリーマンみたいな台詞しか出てこないあたりコイツもよっぽどダメ男だ。
不機嫌そうな顔でレスキューイベントを聞いていたX子はつかつかと俺の目の前に歩いてきた。え、まさか効いたの。アレでいいの不良女子。
若干引いた俺をよそに、X子は咥えていた煙草を一度大きく吸って離し、
ふーっ
殴らせろ!好感度なんてどうでもいいから俺にコイツを殴らせろォォオ!!
顔面にきたよ顔面に!副流煙ってご存知!?
光の早さで手が出た俺と同時かそれより少し早く、X子がひょいっと首を傾げたと思うと耳の後ろをチリッとひりつく感覚がした。
ドガァアアン!!
「X子さんまァたこんなところで油売って、ゴリ子さん見つかったんですかィ」
しゅうしゅうと煙草どころではない煙を上げて、バズーカ片手に姿を見せたのはドS王子・・・今は王女というべきか?だった。X子は慣れたと言わんばかりの表情だが、こっちはあんまり見慣れない。沖田の後ろ頭にはポニーテールと、黄緑色のリボン。
そういえば、昼間こいつとヅラにDSが反応していた・・・。
「お、沖田くーん・・・」
「あり、ダン・・・」
ピコーン♪
『この子は総子チャン!ヤンデレな妹系女子だヨ!好感度は現在41%!』
「・・・お兄ちゃん」
「イヤ空気読まなくていいから」
「お兄ちゃんどうしてX子さんと一緒にいるんですかィ」
沖田は持ち前の順能力でDSのムチャ振りに対応してくれた。コイツのこういうノリの良さは却って使えるかもしれない。幸い好感度の初期値も高いし、このまま総子ルートに乗ってさっさとクリアしちまったほうが皆幸せになれるんじゃないの。
なんて思ってしまったその矢先。
「お兄ちゃんは総子だけのお兄ちゃんなのに・・・この女?この女ですねィ?このゴリ子さんの隣に居座る邪魔なアバズレ、マヨビッチの癖に総子からお兄ちゃんを奪おうとするなんて許せない許せない許せないゆるせないゆるせない」
「オ・・・オイ待て総子、誤解だ」
「死ねェェェX子ォォオオ!!!」
総子怖すぎンだろォォオオ!!
重いバズーカをさっさと置いて、刃を閃かせ総子はX子に切りかかっていった。沖田の順能力の高さはヤンデレ部分までしっかりカバーしていたが、もうアレイチャモンのレベルだからね!俺に対するヤンデレの発露というより完全に私怨、ていうかX子抹殺がメインになってるからね!
逃げるX子と追う総子がどんどん遠ざかっていくのを見ながら、X子と総子は攻略を諦めた。どっちのルートに乗っても確実に総子に殺される。
こんなんで結野アナのところまで無事辿り着けるんだろうか。残り3人、うち1人はヅラだから、あと2人・・・。いや諦めるな。信じろ。このクソゲーせめて報われなきゃやってられないだろ。製作者だってそんくらい分かってるだろ。
心折れそうになりながらとぼとぼと雑踏の中を踏み分けていくと、途中道のすみっこでなんか蹴飛ばした。
ゴミというほど小さくなく、ぐにゃっとしている。犬や猫なら鳴くだろうし、多分酔っぱらいかホームレス。
こんなトコで転がってんじゃねーよとは思うが、ボケッと歩いてたこっちの前方不注意なので、無視する訳にもいかない。
「オッサン悪ィね、大丈夫・・・」
果たして俺の前に転がってたのは行き倒れたオッサンで、それを腕をとって起こしてやった。ここで初めて気づくのも薄情な話だが、引き上げたその顔には見覚えがある。顔っていうか、そのグラサンに。
ピコーン♪
『このコはマダオチャン!まるでダメなおねえさんだヨ!好感度は現在47%!』
「アンタもかァァアアア!!!」
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