銀魂高校3年生御一行様@某新幹線駅。

「じゃー18時に大阪南港集合ね。何かあったらケータイにって言われてるけど自分で何とかしろよテメーら」

はい解散!の手を打つ音が駅に響いた午前9時。


【シーラカンスに伝言 4】


「集合18時か。これは・・・京都か大阪あたりで遊んでこいってことだよな」
「おっ、いいねー。俺大阪でたこ焼き食べたい」
「たこ焼きは危険だぜ長谷川さん。このマヨキチが見事に犬のエサにしちまわァ」
「人のぶんまでマヨネーズかけてやる義理はねェ」
「大阪って俺行ったことないんだよなあ。折角だから通天閣と道頓堀と大阪ドームと」
「近藤さん、集合18時だから」

土方が人数分の切符を手に携帯のアプリで大阪の地理を調べている。そんな土方に群がりながら、Z組3班はあれがしたいここに行きたいと好き放題である。土方はまるで聖徳太子にでもなったみたいだと奈良に逃げたい気持ちに駆られつつ、切符を渡して人数を確認した。近藤さん、いる。総悟、いる。長谷川さん、いる。桂、

「・・・桂!行くぞ」
「ん、ああすまん」

カシャ、と音がして、少し離れたところで桂が振り返った。両手でスマホを持って、多分写真でも撮っていたのだ。まだ見慣れたいつもの駅だというのに気が早いが、こいつも修学旅行に少なからず浮かれているのだろう。意外と可愛いところもあると、土方は心の中で桂の評価を若干上方修正した。
銀魂高校の修学旅行は5月である。
受験組がいるからあまり遅くすることもできず、さりとて2年生のうちに済ませるほど進学メインの学校でもなく、春の行楽シーズンが落ち着いた5月下旬、毎年長崎に行くのが定番だった。長崎までは大阪南港からフェリーで1泊。大阪までの間で遊び、夜は船酔いに苛まれ、翌日朝から長崎で遊ぶという、高校生の体力を過信したスケジュールである。でもまあ、大体毎年生徒たちは頑張って高校生活の思い出作りに励んでいるらしかった。
飲み物とおやつを買ったら新幹線に飛び乗って、ここまでは皆一緒だからほとんど貸し切り状態だ。3人席を向かい合わせに座ってペットボトルのキャップを捻ったら、いよいよ修学旅行の始まりである。

「長谷川さん、はいチーズ」
「いえーい」
「そっちも撮るぞ。土方もっと寄れ」

カシャカシャと、桂は機嫌よくシャッターをきっていく。電線が邪魔でうまく撮れない富士山から近藤と長谷川のポッキーゲームまで、まるでこの時間をすべて写真に収めてしまいたいと言わんばかりだ。ポッキーのチョコを舐めつつ、長谷川が桂の携帯を覗き込んだ。

「・・・ヅラっちって、そんな写真とかとるタイプだっけ」

教室で休み時間などに携帯電話の使用が禁止されている訳ではないが、桂が日ごろからスマホで写真を撮るようなところを見たことはない。長谷川は2年次も桂と同じクラスだったが、文化祭や体育祭のようなときでさえあまり写真を撮っていた記憶がなかった。見れば桂はLINEを起動させていて、誰かに写真を送っている。今日一緒に来られなかったエリザベスだろうかと思ったが、そういえばエリザベスは携帯を持っていないはずだ。

「いや俺はモノより思い出派だが、斉藤に送ろうかと思って。近藤たちとも付き合いが長いと聞いていたし」
「え、さっきから終に送るためにあんなに撮ってたのか」
「そうそう俺聞きたかったんだよ!何で終と桂が仲いいの!?お前ら最近一緒に帰ってるよな!」
「あっあのアフロの子!?ヅラっち今その子にずっとライン送ってたの!?」
「何だ、知ってたのか」
「知ってたっていうか嫌でも目に入ってたっていうか」
「終兄さん最近凄く楽しそうですぜ。尾っぽが見えるみてーだ」

ありゃ惚れちまってらァ、という一言はもう少し面白くなるまで沖田はとっておくことにした。
たまたま話すようになっただけだ、と桂は多くを話さない。しかしさっきからLINEの画面は開きっぱなしで、撮った写真はどんどん増えて、桂の口元はちょっと緩んでいる。意外と分かりやすいな、と沖田は心の中で邪悪な笑みを深くした。

大阪で土方がたこ焼きをマヨネーズで埋めてドン引きされたり、道頓堀に落ちた近藤を引き上げたりしながら何とか3班は長崎行きのフェリーに乗ることができた。またここで合流した各班の面々が今日の思い出を肴に談笑している。新幹線や飛行機は高いし1泊ぶんホテルをとることを考えたらと、コストカットのためのおんぼろフェリーだったが良かった良かったと教師陣が胸を撫でおろす。しかしこのフェリーはえらいこと揺れたので、教師も生徒も関係なく、半数くらいはデッキや便所でうずくまっていた。

「近藤、お前もデッキ組か」
「桂・・・お前っ、コレ、良く・・・」
「ふふん日ごろの鍛錬が足りんのだ。しかし坂本先生は行かなくて良かったな」

大きな背中を丸めて蹲っている近藤の隣で、桂は暗い海の向こうを見つめた。今夜は星がよくでている。
遠くなると星か漁火か区別がつかない。こうしてみると星空に浮かぶみたいだ。
と、尻ポケットで、ヴーッと携帯が震えて、桂ははっと死屍累々の現実に引き戻された。

「終?」
「ああ。お前らの船酔いを心配していたぞ。その傷んだバナナ食べちゃったゴリラみたいな顔撮ってやろうか」
「やめろよ・・・でも何か不思議だ。お前が終となあ・・・」
「まあ俺も、ここまでになるとは思わなんだが」
「・・・あいつ喋らないし、誤解されること多いんだけど・・・いい奴なんだ。ほんとに。仲良くしてやってくれよ、桂」
「ああ。分かっている」
「で、お前らもう付き合ってんの?」
「は?」
「イヤ・・・総悟がアレは絶対付き合うっていうから・・・」
「なっななな何をハレンチな!俺と斉藤が×××で××××して××などすると思うのかァァァ!」
「イヤそこまでエグいことは思ってないけど・・・おぼろろろ!」

もう知らん勝手に吐いていろ!と桂は近藤から逃げるように部屋に戻った。もぞもぞと2段ベッドの薄い毛布に潜ってしまって、震える携帯の相手は明日だ。
俺と斉藤が、絶対付き合う?
顔に残った謎の熱をもう少し潮風で冷ましたかったけれど、そういうわけにもいかないまま。

翌日の長崎は快晴だった。
グラバー園、ハウステンボス、平和公園。メジャーどころで他班の生徒たちと鉢合わせにもなりつつ、中華街でちゃんぽんとお土産選び。ザ・観光を満喫している。
なあなあこのビードロ良くない!?お妙さんへのお土産にしちゃおっかなあなんて近藤がはしゃぐのを、志村だって一緒に来てんだから土産じゃねェだろと土方が諭す。土産物屋に色とりどりにきらめくビードロはステンドグラスのように繊細に光を集めて、桂の目にちかちかと輝きを送っている。

「あ、それキレーじゃん。ヅラっちもお土産買ってく?」
「長谷川さん。イヤ、ちょっと、綺麗だなと思っただけだ」

桂が手にした丸いフォルムのビードロは薄いオレンジ色をして、暖かそうな橙の光を手のひらに届けている。土産物屋に入って誰かへのお土産を考えないことはないし、こんなにきらきらと光を弾くようなオレンジで誰を思い出したかなんて言うまでもないけれど、昨日の近藤の言葉が耳に残って、何となく買いづらい。

「せっかく長崎まで来たんだし、買ってっちゃえば?後で欲しくなってもなかなか来られねーよ」
「む、むう・・・それもそうか」
「あのアフロの子のお土産?」
「エッあっ、・・・・・・そ、そうだ」
「いいねー来年修学旅行楽しみになるじゃん。いい先輩だよヅラっち」
「そ、そうだな」
「で、2人は付き合ってるの?」
「!!?」
「えっ・・・あ、いや沖田くんがアレは絶対付き合うっていうから・・・」
「沖田貴様今すぐここに直れェェエエエ!!!」



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