気が付けば周囲が暗い。
暗幕を引いた薄暗闇に影。恭順に跪いた視線の先でか細く揺れる蝋燭の灯。薄く広げられただけの粗末な布の向こうで、大いなる存在に抱かれる気配が知れぬうちに両の指を組ませていた。迫害を受けた信徒を匿う礼拝堂のような洞穴の暗所。縋る聖母の面差し。鳴き声を悪魔に聞かれることを恐れた子羊のように、震える唇から幽かな声が漏れる。

「ロボッ娘様、ロボッ娘様・・・」

ここは懺悔室。
声を潜めているのはボロのダンボールを積み上げただけの簡易な造りで外に聞かれちゃたまらないからだ。スナックお登勢の窓際で気まぐれにやっている相談室は、散々な目を見たのは銀時ばかりでたまは割と気に入っている。その日も雨降りの軒下で迷える子羊を迎えていた。

「そろそろ来るころだと思っていました」
「・・・」
「今日はどうしたんですか」
「・・・今日、誕生日で」
「銀・・・あ、失礼しました。あなた様の?」
「イヤ・・・ツレの・・・」
「まあ。お祝いはされたのですか?」
「いいトシのオッサンがオッサンの誕生日わざわざ祝ったりしねーよ」
「でもそのことでいらしたのでしょう」
「あーウン・・・まァ・・・、・・・、」

銀・・・子羊は言い淀んでいる。
今日が誕生日だという子羊の恋人は、本日まだ1度も子羊の前に姿を現さない。誕生日を祝えとぶーぶー文句を言いに来ることもあったのに、今年は大人しいもんだと子羊は安堵する反面ソワソワしてもいたのだった。
それが、しかし子羊は見てしまった。誕生日を祝われて嬉しそうにしている恋人を、である。

「いや別に祝いに行ったとかじゃねーよ?たまたまアイツん家の近くのパチンコが新台入れ替えだったからちょっと通っただけでさ・・・そしたらアレじゃん、お尋ね者のクセに『エリザベスゥゥゥ!!』とか大声が聞こえんじゃん。あのバカと思ってひっぱたいてやろーと思ったらさ・・・何かでっけーオバQのぬいぐるみ抱きしめてんの。そういやこないだコンビニの一番くじか何かで欲しがってたやつで」
「宇宙海賊ステファンのA賞ですね」
「まーアイツはいつも一緒のペットだしね、ヅラが欲しいっつったらそりゃ頑張るだろーよ。それは別にいんだけどさァ」

その時、ふと子羊の頭上が暗くなったそうである。見上げれば飛行船のようなものが飛んでいて、突然恋人の家に落下した。半壊した家から出てきた恋人はすぐにどこかに電話をかけて、家を壊された直後とは思えぬ明るい口調で誰かと話しだしたのだ。

「アレ絶対辰馬だわ300円賭けてもいいわ。蓮蓬篇で久しぶりーとか言ってた割にアレ以来ちょいちょい話してるっぽいんだよねー・・・」
「ヤキモチですか」
「そんなんじゃねーよ」

十中八九そんなんである。
子羊と辰馬とやらは知り合いらしいから、ひょっとしたら自分が外されているのが寂しい気持ちもあるのかもしれない、とたまは踏んでいる。
しばらくの沈黙の後、小さく子羊が鳴いた。

「・・・長ェ付き合いだからさ、ガキのころから見てきたけど・・・昔からクソ真面目でさ、またアイツ頼られるんだよな。任せてきた俺もアレだけどさぁ・・・。
ウチに来たばっかのころは肩肘張ってて、それが段々ほどけてきてさ。一緒にバカやるようになったと思ったら戦争でまた肩肘張らなきゃなんなくなって、それっきりでさ・・・、
・・・また構われたがってワガママ言ってくっと嬉しかったんだよ。ウザいけど。何か裏で企んでんなーと思ってもそれでついね。やっと言えるようになったかってさ・・・」
「だからいんだよ、構ってやるのが俺じゃなくても。むしろあのオバQや辰馬はヅラに甘いからアイツも色々言いやすいんだろ。そーゆー奴と一緒にいたほうがいいの。そういう奴なのアイツは。
・・・って口では言うんだけどさァー・・・」
「銀時。それは結局ヤキモチとどう違うんだ」
「違わねーんだよチクショー認めたくねーのこの後に及んで・・・あん?」
「ヤキモチは恋愛の醍醐味だぞ銀時。ちなみに俺はいいトシのオッサンに誕生日を祝われるのも嬉しい派だ」
「ヅラ!?テメッいつから・・・おいたまァァアアア!!!」
「申し訳ありません銀時様。開店時間になってしまいましたので、桂様に代わっていただきました」
「ん。お安いご用だたま殿」

スナックお登勢の中から顔を出し、無表情でてへぺろ、と頭を小突く仕草のたまに外から桂がドヤ顔で頷いた。
一番聞かれたくない迷えるココロを一番聞かれたくない相手にすっかり聞かれて、子羊は子羊のように白くなった。もう何も信じない。信じられない。怒る気力も残っていない。

「呑んでいかれますか」
「うん。今日は俺の誕生日だからな。銀時のツケで」
「それはおめでとうございます。銀時様、お祝いできて良かったですね」
「ん、何だ銀時、何か俺に言いたいことでもあるのか?あっハッピーバースデーか?歌ってくれても構わんのだぞ。たま殿、ちょっと電気消して」「これ以上ウタえるかァァアアア!!」
「あ、うまいな」
「うるせーよ!!!」











自白することを歌うというと聞いて、詩的だな・・・と思ってしまいどこかで使いたかった



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