『・・・でしたー。さて、10時になりましたここからは花束のように歌を贈ろうミュージック・リザーブのお時間。お相手は引き続きわたくしKANRININがお送りいたします。
このコーナーではリクエスト・ソングをあなたとあなたの大事な人のためにリザーブ。毎週10時から11時のこのお時間に心を込めてお贈りします。
ご希望の方はお名前ご記入のうえ、お相手のお名前を添えて番組までお送りくださいね。お名前はお互いがわかるようなラジオネームでも結構ですよー。
さて今週のミュージック・リザーブは越州越後の近桂布教大歓迎さんから・・・』

『・・・さてお次のリザーブは、住所不定のラジオネームフルーツチンポ侍さんから住所不定のフルーツポンチ侍さんへ。メッセージは、
「ワンチャンください」
・・・あらー、何かチャンス逃しちゃったんですかねー?ざまあないですねー。
それではラジオネームフルーツチンポ侍さんからフルーツポンチ侍さんへ、ミュージック・リザーブはB’zで【I’m in love?】。』


悪いのは、江戸から離れて反乱分子の統率などという男臭い任に当たっているせいか?
組織を取り込みつつ、追手のかかる江戸から真選組を逃がした桂は周到だった。攘夷戦争の頃の知古など伝手という伝手に自ら信書をしたため、今こそそこにいる真選組とともに、と決起を促した。戦時中、桂に命を助けられた者や桂に憧れていた者は少なくない。もとより現在の桂の知名度は抜群だ。重い腰も上げてやろうという気になるようで、桂の口添えがどんなに真選組の行脚を楽にしたか知れない。それはいい。
桂はたまに自らやってきた。身体が空けばできる限り自分の目で状況を把握したいと思うものらしく、現地の士気がそれで上がることも多い。一緒に酒を飲んでみたいという願いも、このとき叶えられた。それもいい。


≪あなたの影が夜ごとに現れて
 恥ずかしながら睡眠不足の今週の僕・・・≫


「近藤」
「うわ!か、桂・・・」
「完全に油断していたな。そんなことでは後ろからやられるぞ」
「お、まえ、気配消して」
「なかった。何だ俺の影が薄いのが悪いとでも言いたいのか?」
「イヤお前の影はメッチャ濃いと思うけど」

寝てしまったと思っていたのに。
桂はさっきまで酒瓶と笑い声が飛び交っていた和室の障子を開けて、縁側までやってきた。月明かりが煌々とその姿を照らして、障子にまで影を伸ばす。
隣に並んだ桂は、ひどい酒宴のあとにも関わらず相変わらず涼しげにきっちりと着物を着こなしている。

「・・・目立った混乱もなくて何よりだ。貴様も流石に大将の器だな」
「いや、トシたちがしっかりまとめてくれてんだ。頭が下がるよ」
「そうか。仲間に恵まれるのも才覚のうちだ、大事にするんだな」
「ああ。・・・もう誰ひとり欠けさせやしない」

力強く答えたつもりが、却って不安にさせただろうか。桂は僅かに硬い表情のまま、目線だけちらりとこちらに向けた。

「・・・あの状況を見れば江戸にいるよりと思ったが、天道衆がその気になればどこにいようと同じことだ。誰ひとり欠けさせぬと意気込むのは良いが、二度とあ奴らに大将を喪わせてくれるなよ」
「大丈夫だ」
「随分と楽天的だな、あれだけやられておきながら」
「言ったろ。俺を殺したきゃ桂小太郎を連れて来いよ」
「ふん、」

仕様がない奴だと言いたげに桂の唇がつり上がる。苦笑しているようであり、満足しているようであり。
月光に照らされて、微笑う桂の白い頬は透き通って見える。もともと綺麗な顔をしているとは思っていたが、敵意を向けていないだけでこんなにも柔らかくなるのか。
思わず見蕩れた。見蕩れていいとでも言いたげに、桂は俺を咎めもしないまま不敵に笑う。

「では死ぬなよ。俺は斬りになぞ行ってやらんからな」

恋心の証であるはずの、胸の高鳴りなどどこにもないのに。ただただ心臓が溶けそうだ。


≪I’m in love?笑いごとじゃない! 雪崩れが起きそう
 その声がこの胸の奥の鐘を鳴らしてしまった・・・≫


柔らかく夜風がそよいだ。桂の繊細な毛筋のひとつひとつを小さく散らして、まるで絵画でも見ている気分だ。絵心など皆無に近いが、きっといい絵になるだろう。

「・・・今夜は、」

頬にかかる髪を除けて、そのままつられるように桂はぽかりと浮かぶ大きな月に目をやった。

「月が妙に綺麗だ」
「え?あ、ああ、そうだな」

桂の言葉に導かれるように月を見上げる。碌に見てもいなかったが、確かに、揺蕩う船のように弧を描くのは濃い金色の綺麗な弓月だ。雲ひとつない夜空が存分に照らされて藍色に染まっているのもいい。そんなに珍しい空模様でもないはずだが、月夜をこんなに美しいと思って眺めたのなんていつぶりだ。
きし、と隣の桂が少し身じろぎした。桂が肩を預けている古い柱も、年季の入った深い渋みが今夜の空気にしっくりと溶け込んでいるように見える。桂が踏んでいる板張りの廊下も、影を伸ばしている障子も・・・、
今まで気にもかけてこなかった全てのパーツが今夜はひどく綺麗に見えた。理由など知らないが、今までと違うことといえば桂がいることくらいだから、多分桂のせいなのだろう。

「・・・」
「・・・ん?」
「・・・ふん、芋侍が」
「えっナニ!?今何求められてたの俺!?」

一転。
俺が同意を示したのに何が気に入らなかったのか、桂は呆れたように一言吐き捨ててふいと踵を返してしまった。
たむ!と障子が閉まる。
取り残された俺はひとり、何が何だかわからないまま。あんなに特別に見えていた世界はいつの間にか、いつものそこそこ綺麗なありきたりの風景に戻っていた。
さっきまで結構仲良く話ができていたと思ったのに。だいたい今までのやりとりの中にイラッとする要素あった?だって死ぬなよーなんて言ってくれちゃってさぁ、ふんわり笑ってくれちゃってさぁ、月が綺麗だなんて縁側でふたり・・・アレ?

俺の視界で世界が綺麗に見えたのは隣に桂がいたからだ。だから俺が見ている月が綺麗なのは分かる。けれど奴”も“さっき言ったんだ、妙に月が綺麗だって・・・

・・・アレッ?


≪I’m in love?誰にも言えない 自信もぐらつく
 ありえないことばかり想像しては夜が更けていく・・・≫











































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